シーナ&ロケッツはロックンロール界の至宝!アルファ時代のアルバムが最新リマスター
幻のファーストアルバムから7ヶ月後にリリースされた「真空パック」
博多ロックシーンの源流である、サンハウスのギタリストとして鮎川誠がデビューを飾ったのは1975年。その後、公私に渡る最高のパートナー、シーナと共に上京。1979年に鮎川誠&シーナロケットとしてエルボンレコードより『#1』で再デビューを果たす。このアルバムは、レーベル側の諸事情により数千枚が市場に出回った後に流通がストップしてしまい、長きにわたりリイシューされなかった経緯もあって、“幻のファーストアルバム” と言われていた。
その『#1』は、サンハウス時代に感じられたアーシーなブルースフィーリングをより革新的に、かつソリッドにアレンジした、その後のシナロケ・サウンドの原型となるアルバムだった。しかし、前述した想定外のトラブル。鮎川にとってもシーナにとっても、痛恨の経験であったことは想像に難くない。しかし、ここから7ヶ月後の同年10月25日、再起を賭けたセカンドアルバム『真空パック』がリリースされる。
シーナのコケティッシュな魅力を最大限に引き出した「YOU MAY DREAM」
『真空パック』は、当時イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)で一世を風靡していた細野晴臣がプロデュース。ジェームズ・ブラウン「アイ・フィール・グッド」、キンクス「ユー・リアリー・ガット・ミー」のカバーを含む全12曲は、ルーツバックした鮎川の趣向と未来を見据えた細野のテクノポップ的解釈が見事に溶け合った、“伝統と革新” の傑作アルバムとなった。
アルバムの中で特筆すべきは、シングルにもなった「ユー・メイ・ドリーム」だろう。同曲は、日本航空『マイ・ハート・キャンペーン』のCMソングに採用され、お茶の間にも浸透。1960年代のガールグループをフォーマットに、シーナのコケティッシュな魅力を最大限に引き出すかのように、細野がポップミュージックの極みともいえるスイートなアレンジを施している。
新たなりマスタリング音源でシナロケ4タイトルがリイシュー
今回、アルファ時代のシナロケ4タイトルが、新たなリマスタリング音源を使用したBlu-spec CD2仕様でリイシューされる。再起を賭けたアルバム『真空パック』、1980年の『チャンネル・グー』、1981年の『ピンナップ・ベイビー・ブルース』、そしてアメリカのA&Mレコードからリリースされた海外デビュー盤『SHEENA AND THE ROKKETS』だ。
『チャンネル・グー』は、『真空パック』に続く細野晴臣とコラボレートした作品。前作を踏襲しながらもラモーンズの「MY BOYFRIEND」や、デイル・ホーキンスでお馴染みのロックンロール・クラシック「SUZY-Q」を「OH!SUZY-Q」としてカバーし、より自分たちのフェイバリットに接近した面が感じられる。そして、曲ごとに表情を変える表現力豊かなシーナのボーカリストとしての魅力が開花している。
糸井重里作詞の同名曲を収録した『ピンナップ・ベイビー・ブルース』は、鮎川のギターサウンドがクローズアップされ、ブリティッシュビートを踏襲した湿り気を帯びた質感が際立つ、普遍性の高い名盤。こちらではローリング・ストーンズの代表曲「SATISFACTION」に独自の解釈を施してカバー。アメリカへのお披露目盤となった『SHEENA AND THE ROKKETS』は、アルファ時代の新録ベスト的な内容で、バンドの魅力をわかりやすく1枚にコンパイルさせている。
鮎川誠、シーナのソロアルバムにも注目
さらには、鮎川誠のソロアルバム『クール・ソロ』、そしてシーナ唯一のソロアルバム『いつだってビューティフル』の同時リイシューも見逃せない。どちらのアルバムもオリジナル盤のリリースは1982年。
ライブレコーディングの『クール・ソロ』では、英国の “ならず者パブロッカー” ルー・ルイスの名曲「ラッキー・セヴン」をフォーマットにしたと思われる「KRAZY KOOL KAT」や、サンハウス時代の「VIRUS CAPSULE」など、ロックンロールのアウトロー的な魅力が散りばめられ、ギターサウンドの熱量を体現できるアルバムとなっている。なんといっても、シーナがコーラスで参加している「I LOVE YOU」は、鮎川とシーナの生涯にわたるラブリーな関係性を1曲にパッキングしたような大名曲で、今聴いても胸がキュンとなる。
一方、シーナの『いつだってビューティフル』は細野晴臣のプロデュース。高橋幸宏、立花ハジメがレコーディングでバックアップしたということもあり、シナロケ同様、時流に即したポップな仕上がりで、シーナの魅力が最大限に引き出されている。ドリーミーな世界観の中に透明感溢れるシーナのボーカルが響き渡り、女性の煌めきを1枚のアルバムに凝縮した作品になっている。
この2枚のアルバムは、シナロケサウンドの根底にある2人のキャラクターをリアルに浮かび上がらせている。こういった部分からもシナロケの多面的な魅力を感じ取って欲しい。シナロケは後世に伝えるべき、日本のロックンロールの至宝だ。そういった意味でも、今回のリイシューの意義は大きい。