【村松友視さんの新刊「悪口の極意」】 「愛するあなたへの悪口コンテスト」20年の軌跡
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は2004年から島田市で毎年開かれている「愛するあなたへの悪口コンテスト」の審査委員長を務める作家村松友視さん(静岡市出身)が、各年の秀作を紹介する「悪口の極意」(静岡新聞社)から。
二律背反的な言葉「愛のある悪口」の「かたち」を探り当てるためには、かなり高度な言語センスが要求されると思う。作品を公募するコンテスト形式であれば、応募者以上にそれを取捨選択する選者の力量が試される。
「愛するあなたへの悪口コンテスト」は島田市の中心市街地活性化を目的に、地元商店街や町内会が開催している。優劣の選定に微妙なさじ加減を要求されるこの企画が20年続いている最大の「勝因」は、村松さんを招いたことだろう。書籍を読むと、それがはっきり分かる。
「冷たくなった あなたの心 寝てる間に 取り出して そーっとレンジで チンしたい」(戸塚春代さん/静岡市駿河区)という第1回大賞も秀逸だが、村松さんの選評が、このコンテストの方向性を決定づけた。
「“愛”という餡を“悪口”という皮でくるむ、人間味あふれる饅頭」
応募者はもちろん、審査委員会のメンバーも、主催者の皆さんも、自分たちのコンテストが何を目指しているのかについて、このフレーズで初めてはっきり認識したのではないか。優れた作家の言葉遣いは、これまで存在しなかった世界の枠組みを決定づける力があるのだ。(は)