東洋の魔女の遺産!? 昭和のバレーボールアニメが海を渡りヨーロッパのバレー選手に影響を与えていた
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はヨーロッパで人気の日本のバレーボールアニメについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
ヨーロッパで人気!日本のバレーボールアニメ
日本国内をみると、バレーボールアニメはサッカーや野球に比べたら少ない印象があるのですが、ヨーロッパでは結構人気があるようです。
1984年に日本で放送された『アタッカーYOU』というアニメは、1986年から『ミラとシロー』というタイトルでイタリアでも放送されました。主人公は日本では優ですが、向こうではミラという名前で、ものすごく人気が出ました。2019年のミラノコレクションでも『アタッカーYOU』をフィーチャーして、ミラが大きくプリントされた服が有名デザイナーによって発表されたほどです。
2021年の東京五輪でイタリア代表だったキリケラ選手も、最終的にはこのアニメの影響でバレーボールを選んだようです。日本国内ではそこまで人気のあった作品ではないのですが、80年代に子ども時代を過ごしたイタリア人にとっては、すごく大きいタイトルだったたようです。
実はその前、1981年には『アタックNo.1』(日本では1969年から放送)が『ミミとバレーボールの仲間たち』というアニメとしてイタリアで放送されていました。主人公の鮎原こずえはミミという名前に改められており、作品も人気でした。
この『アタックNo.1』が1981年から84年まで放送されていたので、1986年から始まる『アタッカーYOU』としてはその人気を引っ張りたいわけです。なので、『アタッカーYOU』の主人公ミラは『アタックNo.1』の主人公のミミのいとこっていう設定になっていました。吹き替えのセリフで、そういうアレンジを加えてしまったんです。オリジナルとの同一性よりはテレビ番組として人気が出る方をとったということですね。これは時代もあると思います。
『アタックNo.1』は日本では1969年放送開始のアニメなので、81年のイタリアではちょっと古くさく見えたはずなんですよね。また、いわゆるスポ根ものなので、悲しいエピソードも多く、少し重苦しい雰囲気がありました。『アタッカーYOU』は80年代のアニメなので明るくてちょっとドタバタしてるところがあります。
日本版だと無邪気にエッチなシーンが入っており、スカートがめくれたり、風呂上がりにドタバタしてバスタオルがハラリと落ちたりするシーンがあったのですが、当然ヨーロッパで放送されるときにはカットされていました。
ちなみに1977年に日本で放送された『あしたへアタック!』という作品も1982年にイタリアへ輸出されて『ミミとバレーボールの女の子たち』というタイトルで放送されていました。日本語版の主人公がもともと美々という名前だったのですが、偶然なのか何か関係性があってなのか、結果としてイタリアで放送されるときに『アタックNo.1』の主人公と同じミミという名前になっていました。
ミミとミラはこういう形でイタリアを始めヨーロッパの人にとってはバレーボールの代名詞的なキャラクターの名前になっているんですね。イタリア以外だと、フランス、スペイン、ドイツ辺りではかなりバレーボールアニメが見られていたようです。
2021年の東京五輪のタイミングで、フランス人のドキュメンタリー監督ジュリアン・ファロが、64年の東京五輪の日本女子バレーチーム“東洋の魔女”のドキュメンタリーを作りました。いろんなシーンを集めて作品を作るのですが、あいだに『アタックNo.1』のシーンがインサートされるんです。これはドキュメンタリー用の記録映像が足りないという理由もあったようですが、アニメと同じくらい現実の“東洋の魔女”の練習が厳しかったというのを表したかったようです。
“東洋の魔女”というすごく強かった日本のバレーボールチームが日本のフィクションに影響を与えて、それが『アタックNo.1』を生み、さらにヨーロッパへ輸出されたことで、今度はヨーロッパのバレーボール選手に刺激を与えたんですね。
東洋の魔女が生んだ一種の“遺産”としてバレーボールアニメがあるということで、そのドキュメンタリーの最後には『アタックNo.1』の主題歌がかかりました。今回は、ヨーロッパで日本のバレーボールアニメが愛されている、親しまれているというお話でした。