「決めごとは多くないほうがいい。」エッセイスト・松浦弥太郎さんが語る“40代から自分をいたわる方法”
『暮しの手帖』で編集長を勤め、50歳でIT業界へ転身したエッセイストの松浦弥太郎さん。近著『50歳からはこんなふうに』では、大人の新しいがんばり方を提案しています。そんな松浦さんに、40代の過ごし方や前向きに年齢を重ねるヒントについてお話を聞きました。
教えてくれたのは……松浦弥太郎さん
エッセイスト。セレクトブックストア「COWBOOKS」代表。2005年からの9年間『暮しの手帖』編集長を務める。その後IT業界に転じ、株式会社おいしい健康取締役就任。ユニクロの「LifeWear Story 100」責任編集。「Dean & Delucaマガジン」編集長。「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆や活動を続ける。
悩みや迷い、不安に包まれる。それが40代
――松浦さんの40代といえば、『暮しの手帖』で編集長を務めていらっしゃったころですね。振り返って、ご自身のなかでどのような時期だったと感じますか?
松浦さん 「僕自身の40代は、ほぼ『暮しの手帖』の雑誌づくりや執筆活動に費やしていて、仕事に明け暮れていました。休んだ記憶は、あまりありません」
松浦さん 「40代って、自分のライフプランを考えたいと思いつつ、日々の仕事、生活に追われて精一杯のときですよね。その先まだ時間があるような気がするし、自分の人生を考える余裕も生まれない。目の前のことへの悩みや迷い、不安のようなものに、包まれるときじゃないかと感じます」
悩んでいるのは、自分だけではない
――職場で責任ある仕事をまかされたり、家庭で役割を担ったり。余裕のない40代読者も少なくないと感じます。
松浦さん 「本当に忙しいときですよね。日々のことに追われていて、自分のことは後回しになってしまう。確固たる自信が持てているわけでもない。ひとつの悩みが過ぎ去っても、また次の悩みや不安がやってくる。ただ、知ってほしいのは、そういう時期でもあるということ。悩みに揺れたり、不安定だったりするのは自分だけではないと知ることは、大事かもしれません」
――悩んでいるのは、自分だけではないと思うと、少しホッとできそうですね。
松浦さん 「自分のできることを日々精一杯コツコツやることが、結果として小さな悩みや不安を解決してくれるときもあると思います。悩みや不安や苛立ちがあるということは、ある意味、健康な証拠です。精神的な負担にはなるけれど、悩んだり考えたりするからこそ成長するし、感謝もする。不安を感じるということは、それだけ感受性が強く、想像力が働いているということでもあります。「思い悩む」という言葉はネガティブに聞こえるかもしれないし、できればしたくないかもしれないけれど、客観的にみてみれば、健康的に成熟した一人の大人になっているということなんだと思います」
決めごとは多くないほうがいい
――日々の暮らしで40代から気をつけておくといいことはありますか?
松浦さん 「食生活は、少し気をつかったほうがいいかもしれませんね。健康的なものばかり食べる、時間を決めて食事をするなど、ストイックにする必要はないけれど、今日の食事が数年後の自分の未来をつくるということは自覚しておくといいと思います。40代は心身の不調があらわれやすい時期でもあります。もしいまコンディションがいいのなら、数年前の食生活がよかったということ。今日の食事は、必ず自分の未来にあらわれるということを頭の片隅に入れて、何をどう食べるか考えるとき、たまに思い出すといいと思います」
――具体的な方法論にこだわって、ストイックにならなくていいのですね。
松浦さん 「ルール化すると、かえってそれが悩みの種になることもありますからね。プレッシャーになったり、できない自分を責めてしまったりするのは良くないですから、決めごとは多くないほうがいい。普段の生活や仕事の場には守らなければいけないルールがたくさんありますから、それ以外の決まりごとは最低限にして、たまに思い出すくらいがいいんじゃないかと思います」
松浦さん 「お酒を飲みたくなるときもあれば、甘いものが食べたくなるときもあるし、どうしても起きられないときもありますよね。そういう自分に気づかないふりをしていると、人間も車や機械のように故障します。故障しないように自分をいたわっていくことも大切です。自分を逃してあげる心持ちは、忘れずに持っていてほしいですね」
「悩みに揺れたり、不安定だったりするのは自分だけではない」「決めごとは多くないほうがいい」と、心に沁み入るたくさんのメッセージを送ってくれた松浦さん。次回は、40代のこころのもち方についてお話をうかがいます。
saita編集部