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ひき逃げをきっかけに視覚障害…その先に感じた「複合差別」を研究する女性の“使命”

Sitakke

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札幌に、これまでになかった視点から、ある研究に取り組んだ女性がいます。
研究のテーマは『複合差別』です。

障害に加え、性別など複数の差別がかけ合わさり、より複雑で特有の差別が生じるというのが『複合差別』。
この研究に取り組んだ女性の思いを取材しました。

連載「じぶんごとニュース」

帰宅途中につきまとい…身の危険を感じ

安達朗子さん(40)は、この春、札幌にある北星学園大学の大学院を修了し、社会福祉学の博士号を取得。
独自の視点から、約6年をかけて『複合差別』というテーマで、論文をまとめ上げました。

安達さんは、15歳のときに遭った交通事故が原因で視覚に障害があります。
右目は明暗が分かる程度で、左目の視力は0.01ほどです。

そんな安達さんの身に降りかかった、ある出来事が『複合差別』の研究に取り組む理由の一つとなりました。

「自宅に帰るときに一人で歩いていたら、後ろから男の人に付けられてしまった」

白杖を使い、大学から一人で帰宅する途中のことでした。
背後から近づいてきた何者かに、付きまとわれる被害に遭ったのです。

「すごく近づいて、後ろにずっといる状況で、もう鼻息が聞こえるくらいで」

どんな相手が自分の背後に張りつき、付きまとっているのか。
視覚に障害がある安達さんにはまったく状況がつかめず、強く身の危険を感じる出来事でした。

ところがです。## 思いもよらない扱いがきっかけに

被害に遭った安達さんは、警察に相談した際、思いもよらぬ扱いを受けることになりました。

接近してきた相手の特徴などを尋ねられた際、上手く説明ができず、警察に被害の相談を取り合ってもらえなかったのです。

自分に視覚障害があることで受けた、思わぬ対応でした。

この経験が、安達さんの心に大きな違和感を抱かせ、『複合差別』という研究に向かわせるきっかけになったのです。

「最初は男性も女性も関係なく、視覚障害の方を研究の対象にしていましたが、女性の視覚障害者は、男性が経験することのない苦悩などがすごく深刻だと感じたので、『女性視覚障害者』に焦点を当て、研究を始めた」

安達さんが取り組んだ『複合差別』―。

それは障害に加え、性別や民族など、複数の差別がかけ合わさり、より複雑で深刻な差別が起きていくことを意味します。

大学院で研究を進めることになり、膨大な論文に目を通し、いくつもの文章を作成する日々が始まりました。

パソコン画面に映し出された文章や、入力した文字を読み上げる専用ソフトを使い、安達さんは、コツコツと研究の成果をまとめ、論文を仕上げていきました。

ひき逃げで重傷…突然視界が真っ暗に

安達さんが、交通事故に遭ったのは高校1年生のときです。

ひき逃げされ、脳挫傷のほか、肋骨や鎖骨などを折る大けがを負い、ICUへ…。
そして、もうろうとした意識の中で、大きな異変に気づいたのです。

「突然視界が真っ暗になって」

いったい自分に何が起きたのか…安達さんはパニック状態に陥ります。
そんな中、両親にかけられた言葉が、その後の人生を大きく支えたと振り返ります。

「母が手を強く握って”大丈夫だよ、絶対に治るよ”と励ましてくれて。父からも"朗子は朗子にしかできない使命があるから生まれてきたんだよ"…と言われて」

重傷を負いながらも、15歳だった安達さんは「絶対に治してみせる」と心に誓いました。

そして、事故から3か月後、目に光が戻りました。

ただ、視力をほぼ失ったことで以前のような高校生活を送ることは困難になり、中退を余儀なくされました。
それでも学ぶことを諦めませんでした。

自らの障害に向き合いながら、その後、盲学校で学び直し、短大へ進学。
さらに大学院に進み、福祉分野の研究を深める中で『複合差別』というテーマに辿り着きました。

安達朗子さん
「研究を通して、社会に届けるということは、私にできる役割の一つなのかなという風に思って…」

今年3月、大学院を修了し、長い学生生活に一区切りをつけました。
今後は、講演活動などに力を入れていきたいと話します。

「私はこのとき、絶望の時こそ希望を持ち、諦めなければ未来は必ずよくなるんだということを確信しました」

逆境に負けず、朗らかに“自分の使命”を全うしようとする、彼女の姿がありました。

複合差別とは

改めて『複合差別』についてです。

例えば、“視覚障害者は何も出来ない”という前提で、家事や育児など“女性の役割”は果たせないという差別が生まれ、そうした差別を背景に、結婚や出産、恋愛の自由なども狭まっていくといった、複合的な差別が生じていくことと考えられています。

研究を指導した札幌の北星学園大学・田中耕一郎教授は「複数の視覚障害者の人生を探求し、差別の実態や、女性たちがどのように生きてきたかを浮き彫りにした」として、「世界的にもあまり類を見ない研究だ」としています。

安達朗子さんが取り組んだ『複合差別』の研究から、私たちが普段、気が付いていないことへのヒントが、たくさん見えてくるのではないでしょうか。

安達さんは今後も、自分の研究やこれまで辿ってきた人生について、講演などを続けていきたいとのことです。

連載「じぶんごとニュース」

文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい

※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年5月16日)の情報に基づきます。

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