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石井一孝にインタビュー 45年目を迎えるブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』で初めてフック船長役に挑戦

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石井一孝

ブロードウェイミュージカル『ピーター・パン』が2025年7月28日(月)~8月6日(水)、東京国際フォーラム ホールC(群馬、大阪、福岡公演あり)にて上演される。
1981年に榊原郁恵(榊はキヘンに神)の初代ピーター・パンが誕生してから、今年で45年目を迎える本ミュージカル。今年も長谷川寧演出のもと、2023年より3年目の続投となる山﨑玲奈がピーター・パン役を務めるが、今回、フック船長役として石井一孝を新たに迎えることに。
どんな思いで本作に臨むのか。石井に話を聞いた。

石井一孝

ーー本日はビジュアル撮影ということで、実際のフック船長の格好をされましたが、ご自身としてはいかがですか?
僕にとっては初めての作品で、あんまり予備知識もないんです。30年ぐらい前に、『レ・ミゼラブル』でマリウスとコゼットで共演した宮本裕子さんが『ピーター・パン』で主演するということで、観に行ったことがありました。確か青山劇場だったと思うんですけど、何せ30年前のことだから、細かいことまで覚えていなくて……(笑)。
今回はどういう風になるんだろうと思って、先日、演出家の長谷川寧さんとお会いしたんです。寧さんは『ピーター・パン』の演出をされるのは今回が3年目だそうなんですが、これまでやってきた2年を踏襲するのではなく、また一つ新しいものを作りたいと。「僕でできることは何でもしますから!」とお答えしたんですけどね。そのときに、ちょっと白塗り感を出したい。しかも、きっちりとした白塗りではなくて、自分の手で塗っているから、ちょっとまばらで、少し枯れている感じも出したいと仰っていたんです。

石井一孝インスタグラム(@kazutaka_ishii_official)より

それで、今日のこんな感じになりました! 見てください、このつけまつげ! (『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の)ヘドウィッグ的で、ちょっとグリーンのラメが入っていて、素敵でしょう? 顔立ちが派手なので、あんまり違和感ないですよね?(笑)
ーーオフィシャルのコメントでも「濃厚さには僕も自信がある」と書かれていましたね(笑)。
そうです、そうです。日本ミュージカル界において顔が濃いのは、僕か上原理生くんかだと思うんですけど(笑)、この濃さを最大限に活かしてやっていきたいと思います。
ーー左手のかぎ爪はいかがでしたか? フック船長らしいところだと思うのですが。

やる気が出ますよね! 普通に考えたら、かぎ爪がついている左手の方が長くなりそうだけど、ビジュアルで見ると、左右の腕の長さが揃っているので、どうなっているのかな? と思っていたんです。そうしたら、なるほど! という構造になってました。これはフック船長を演じる役者だけが知るヒミツです(笑)。

フック船長は、このかぎ爪をつけたまま、踊って、歌って、芝居して、しかも殺陣までやるんですから。今までフェンシング的な殺陣は、『三銃士』などでやりましたけど、今回みたいな“二刀流”は初めて。新鮮ですよ。

石井一孝

ーー改めて本作への出演が決まったときのお気持ちを教えてください。
フック船長をやらせてもらうことなんて、全然想定していませんでした。『ピーター・パン』という名作が毎年のように上演されているな〜ぐらいの認識で、他人事だったので、不意打ちを食らったオファーでした。
ホリプロのプロデューサーさんからお声がけいただいたんですが、僕をフック船長にキャスティングした理由を聞いたら、「顔がフック船長っぽいから」ですって(笑)。半分冗談でしょうけど、この濃い顔がフック船長に向いているなら、ぜひそれは生かしていきたいなと思いましたし、率直に嬉しかったですよね。そのプロデューサーさんは『デスノート The Musical』でお世話になった方です。死神リュークをやって、絆をいただいたけれど、今回またそのプロデューサーさんと、そしてホリプロさんとご一緒できることはとても嬉しいです。
何よりも『ピーター・パン』は名作じゃないですか。名作というのは、なんとなくの雰囲気だけで名作には絶対ならない。舞台でも映画でも名作と言われるものは、優れた脚本と、優れた楽曲と、優れたキャスティング、そして役者陣・スタッフ陣の頑張りが全て揃わないと名作にはならないと思うんです。「歌はいいんだけどね」とか「キャストはいいんだけどね」とか、そういうことも場合によってはあり得るけれど、名作と言われるものは全ての要素が揃わないと。だから、改めて、こんな名作に出させてもらうことは光栄です。
ーー『ピーター・パン』の作品についてはいかがですか? 舞台版でも舞台版以外でも、どんなところに魅力を感じますか?
最初にお話しした通り、30年前に見た記憶がぼんやりとあったり、「アイム・フライング」という有名な曲を知っていたり、1幕でダーリング氏をやって、2幕でフック船長をやるというのを知っていたりするぐらいで、まだまだこれからというのが正直なところ。
ざっくり言うと、ネバーランドという夢の世界に行って、現実と非現実を行き来するお話ですよね。で、ダーリング氏は子どもたちに「もう寝なさい!」と言うなど、結構厳しいお父さん。でも、子どもって、寝たくないじゃない? 「できるだけ起きていたいし、本当に嫌だよね。お父さんなんかこうなっちゃえばいいのに!」と子どもの妄想が偶像化したのが、フック船長なのかなと思っています。いや、いろいろな解釈があると思うし、まだまだこれからなんですけど……僕には(山﨑)玲奈先輩がついているので、分からないことは全部玲奈先輩に聞こうと思います(笑)。

石井一孝

ーーあわせて、ぜひピーター・パン役の山﨑玲奈さんの印象を教えてください。
お名前とお顔はもちろん存じ上げていましたが、お会いすると、すごく聡明でキュートな方という印象を持ちました。18歳ですよね? いや、もう歌も上手いし、芝居も上手いし、すごい若手が出てきたな、と。僕は多分実際の玲奈さんのお父さんより年上なので、玲奈さんは眩しく見えます(笑)。
でも一方で、僕が常々思っているのは、役者は常に平等だということ。もちろん先輩・後輩というのはあるかもしれないですけど、年上だから年下だからどうということではなくてね、玲奈さんと正面で向き合って、考えて、ピーター・パンとフック船長の関係をゼロから築いていきたいなと思っています。とにかく、本当に素晴らしい才能を持ったお嬢さんだなと思いました!
ーー演出の長谷川寧さんの印象はいかがですか? 先ほど少しお話しされたと仰っていましたが。
寧さんの舞台はまだ観られていなくて……(長谷川さんが演出したミュージカル)『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』を見損ねてしまったんですよ。その公演には僕の仲良しの廣瀬(友祐)くんとか、別所(哲也)さんらたくさん仲間が出ていて、観にいきたいなと思っていたんだけど、なかなか観られなくて。だから寧さんの作品に触れるのは、今回が初めてになります。
それで、数日前にお会いすることができたんですが、すごいバイタリティと情熱を持った方でした。噂では聞いていたんです。帝国劇場のファイナルコンサート(※『THE BEST New HISTORY COMING』のこと)で、別所さんと同じFプログラムで、楽屋も同じだったので、寧さんのことを聞いたら「熱い人」と言っていました。そりゃあ、熱い人ですよね。演劇を作るというのは生半可な決意と才能ではできないですからね。
お話しする中で、寧さんには、噂通りの熱さを感じましたし、知的な方だなと思いました。1言ったら、10どころか、50ぐらい理解する感じで、頭の回転が早い印象がありました。それからビジュアルセンスに長けていると思いました。装置、衣裳、立ち姿などにすごくこだわりがあって、納得するまで何回も何回もやると。でも、大事ですよね。心の芝居と同じぐらい、どう見えるのかというのは重要だと思うので、その辺りも含めてしっかり演出してくださるのだろうなと思いました。

石井一孝

ーーお話しする中で、冒頭に伺ったビジュアルのことにも言及があったわけですね。
そうそう。(前回、前々回とフック船長を演じた小野田)龍之介は、白塗りじゃなかったのでしょう? 寧さんの演出が3年目ということで、今までとはまた違うものを作りたいと思ったそうなんですよ。だから、白塗りで、ちょっと枯れた感じのフック船長もありかなと。まだ本番でどうなるかどうかはわからない段階ですけど。

僕の年齢もあると思うんです。龍之介が今年33歳になって、僕は今57歳だから、24歳も違う。同じアプローチではなくていいと思ってくださったからこそのキャスティングだと思うんですよね。寧さんによると、フック船長の候補もいろいろいたそうなんです。いろいろ探す中で、寧さんが『デスノート The Musical』の資料映像で僕のリュークを見てくださって、面白いと思ってくれたみたい。
ーーそのご年齢についてはいかがですか? 歴代のフック船長としては、松平健さんが最年長なのですが、コロナ禍で予定されていた舞台は中止になってしまって……(2020年公演)。
いやぁ、見たかったな、健さんのフック船長! 僕も気になって、歴代のフック船長をいろいろ調べてみたんですが、僕も年齢ではかなり上位にランキングされますね(笑)。

まぁ、あんまり年齢のことを言うのもね。僕なりのやり方でやるしかないと思うんですけど、やはり一抹の不安は……パルクール。僕はパルクールという単語すらも知らなくて、YouTubeで調べて、パルクール日本一の人の動画なんか見たら、もう『スパイダーマン』みたいな感じじゃないですか! こんなの無理だろうと思ってね、前回、前々回とフック船長を演じた(小野田)龍之介に、帝劇コンのときに聞いたんですよ。「パルクールというのはやるの?」「やりますよ!」「誰でもできるの?」「できないですよ。結構大変ですよ」ですって!(笑)
しかも左手がかぎ爪で、右手しか使えないからより大変だそう。龍之介からは「かずさん(※石井さんの愛称)、痩せますよ」なんて言われています(笑)。33歳ができることを、57歳ができるのかどうか……龍之介ほど踊れないしね……ある意味挑戦ですが、いろいろご相談はさせてもらって、身の丈にあった範疇で頑張りたいと思います。

石井一孝

ーー最後に、観劇を楽しみにされている皆さんに一言お願いします!
この作品は、いわゆる『レ・ミゼラブル』とか『ミス・サイゴン』とか『オペラ座の怪人』といった作品と大きく違うのは、子どもが主人公で、お子さんが多く観に来る前提のもとに作られている、ファミリーミュージカル的な作品だということ。だからこそ、夢と希望をね、届けたいですね。
僕ももう50代だから、電車の中とか街の中とかで会う子どもたちは、本当に可愛いな〜と微笑ましく思っているんだけども、考えてみれば、目の前にいる子どもたちがこれからの日本を背負っていってくれるわけじゃないですか。今は小さな男の子が総理大臣になる可能性もあるわけだし、当然女の子が総理大臣になるかもしれないし、俳優になるかもしれないし、パイロットになるかもしれない。そういう夢と希望を持って、実際に未来へ向かって羽ばたく子たちが、この舞台を観に来てくれると思うんですね。
僕はもともと歌手志望で、演劇界は目指していなかったんですけど、たまたま『ミス・サイゴン』のオーディションを受けたら受かって、それから演劇の世界に入った。今では演劇が大好きだし、演劇人としての誇りもありますし、この芝居というものがいかに素晴らしいのか、いかに尊いのかということを身をもって感じている。そんなことを少しでも感じてもらえたら、今後の演劇文化のためにもいいだろうなとも思っていますし……まぁ、子どもたちに「楽しかった」と言ってもらえるような作品にはまずしたいですよね。
でも同時に、本当に子ども向けのものなのかとも思うんです。子ども向けだけれど、大人が行っても楽しめるものだと思うんです。本質的に言うと、大人が楽しめるアートだから、子どもも楽しい。子ども騙しで、大人がはいはいという感じで見ているものだったら、子どもはきっと「子ども向けなのね」と見透かすでしょう。僕、『ピーター・パン』はそうではないと思う。大人が「クオリティが高いね」、「なるほどね」と思ってもらえるような作品だと思うんです。
「あなた、この作品のテーマはわかる?」「あのシーン、どう思った?」「フック船長、怖かった? 面白かった?」なんてね、ご観劇いただいた後に感想を話し合うことが演劇の最大の魅力。そういう後味がいろいろある作品だと思うので、ぜひ観に来てくださいね。僕も頑張ります。

石井一孝

取材・文=五月女菜穂     撮影=福岡諒祠

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