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J.D.サウザーはアメリカ西海岸ロックの重要人物!イーグルスの成功は彼なくしてりあり得ない

Re:minder

1978年08月00日 J.D.サウザーのシングル「ユア・オンリー・ロンリー」発売月

リ・リ・リリッスン・エイティーズ〜80年代を聴き返す〜Vol.59

You’re Only Lonely / J.D. Souther

やけに評価が高いJ.D.サウザー


毎月1度、『いい音爆音アワー』と題して、“聴き語り” イベントをやらせてもらっていますが、1月は恒例で “前年中に他界された音楽関係の方々を、その関連作品を聴きながら、追悼する” という会にしています。今年のその会には、クインシー・ジョーンズ、セルジオ・メンデス、ジョン・メイオール、キダ・タローらビッグネームとともに、J.D.サウザーの名前もありました。

1945年11月2日、米国ミシガン州デトロイト生まれ。2024年9月17日に死去、78歳没。J.D.サウザーは、その名を見るのも久しぶりだったし、正直言って、特に想い出深い人でもありませんでした。作品も「ユア・オンリー・ロンリー」(1979年)しか知らなかったし。で、ちょっと調べたら、もう1曲、「憶い出の町」(Her Town Too / 1981年)という曲が全米11位と、まあまあなヒットでしたが、これはジェイムズ・テイラーとのデュエットで、曲も共作。ソロアーティストとしてはやはり、「ユア・オンリー・ロンリー」が唯一のヒットでした。

ただ、調べていくと、J.D.サウザー、ずいぶん高く評価されているなーと感じます。それは、彼のソングライターとしての能力に対してなんですね。そう、自身のヒット曲は「ユア・オンリー・ロンリー」オンリーで、ロンリーなんですが… イーグルスやリンダ・ロンシュタットらの楽曲制作に相当数、単独あるいは共作で参加しています。そもそも15歳頃からグレン・フライやジャクソン・ブラウンと仲よくなり、リンダ・ロンシュタットのバックバンドメンバー集めやその後のイーグルス結成にも重要な役割を果たしたようです。当然のようにイーグルスにも誘われましたが、なぜか断りました。ランディ・マイズナーが反対したという話もあります。

グレン・フライはこんなことを言っています。

“彼がソロアーティストとしてもっと成功しなかったただ1つの理由は、いい曲のほとんどをイーグルスとリンダ・ロンシュタットにあげちゃったことだ”

つまり、それらの曲を人にあげずに自分で歌っていれば、ビッグアーティストになっていたはずだ、と言うんです。イーグルスのグレン・フライの発言ですから、このコメントはきっと、サウザーのステイタスをグッと上げたことでしょうね。

ナイアガラー界隈で評価を高めた「ユア・オンリー・ロンリー」


はて? 死者にむち打つつもりはありませんが、亡くなるとどうも、よかった点ばかり強調する世間の傾向も好きじゃないので、正直に思うところを言います。

J.D.サウザーはすごくいいヤツだったけど、作曲家としてはたいしたことなかった。しかし、すごくいいヤツだった云々かんぬん… その根拠は云々かんぬん…

バーニー・レドン、ランディ・マイズナー、ドン・フェルダーを次々とイーグルスから追い出した、けっこうきつい性格だと思われるグレン・フライやドン・ヘンリーと生涯友人関係であり続け、ひとつの悪口も言われていないこと。

そして、世知辛い米国音楽業界がイヤで、80年代の終わりから20年以上も引退状態であったこと。

「ユア・オンリー・ロンリー」は、日本でも当時ラジオでかかりまくり、かなり流行っていました。また、これはのちの語り草ですが、大滝詠一さんが、『A LONG VACATION』をつくる前に、“こういうのがやりたい” と言っていたらしいということが、特にナイアガラー界隈で、この曲の評価を高めました。

でも私は、この曲の分かりやすいセンチメンタリズムがヒット性を持っていることは認めますが、名曲というほどではないと思っています。はっきり言って、『A LONG VACATION』のほとんどの曲のほうが、勝っています。上記のエピソードも、大滝さんをバックアップしたフジパシフィック音楽出版の朝妻一郎さんの話にはあるけれど、大滝さん自身は(たぶん)語っていません。

ジョージ・ハリスンの「マイ・スウィート・ロード」を聴いて、はっぴいえんどの「12月の雨の日」のシングルバージョンのアレンジに活かしたという話などは何度もしている大滝さんですから、もしほんとに「ユア・オンリー・ロンリー」に感化されて、こういうものをつくりたいと思ったなら、どこかでそう語っていると思うのです。思うに、分かりやすいから、朝妻さんへのプレゼンのために選んだ、ということなのでは? ……ま、だとするとあの、『ユア・オンリー・ロンリー』のジャケット写真のJ.D.サウザーのポーズをコピーしている大滝さんのアーティスト写真はなんなのだろう?とは思いますが…。

イーグルスに提供したサウザーの楽曲


また、人への提供曲について。イーグルスはサウザーからの提供曲のうち、「ベスト・オブ・マイ・ラブ 」(1974年)、「ニュー・キッド・イン・タウン」(1976年)、「ハートエイク・トゥナイト」(1979年)の3曲が、ビルボードの「Hot 100」で1位を獲得しています。イーグルスといえどもシングル1位獲得曲はあと、「呪われた夜」(One of These Nights / 1975年)と「ホテル・カリフォルニア」(1977年)を加えた5曲だけですから、そのうちの3曲というのはたしかにすごいのですが、いずれもグレン・フライとドン・ヘンリーとの、「ハートエイク・トゥナイト」についてはさらにボブ・シーガーも加わった共作なのです。

それに、イーグルスの代表曲と言えば、まず「ホテル・カリフォルニア」と「呪われた夜」、そして「テイク・イット・トゥ・ザ・リミット」(1975年)、「言いだせなくて」(I Can't Tell You Why / 1980年)、「テイク・イット・イ-ジ-」(1972年)、さらに「ならず者」(Desperado / 1973年)あたりじゃないですか? 私の感覚ですが、サウザーが絡んでいる3曲よりも、曲としての存在感が強いと思います。

リンダ・ロンシュタットへの提供曲、「あてにならない恋」(Faithless Love / 1974年)や「ホワイト・リズム&ブルース」(1978年)などはサウザー単独の作ですが、シングルヒットはありません。というよりシングルになった曲がありません。「哀しみのプリズナー」(Prisoner in Disguise / 1975年)や「シンプル・マン、シンプル・ドリーム」(1977年)など、アルバムのタイトル(前者はそのまま、後者は『夢はひとつだけ』 “Simple Dreams” )につながった曲はあるのですが。

70年代の一時期、サウザーとリンダは男女関係にありました。イーグルス結成のきっかけとなったのは『リンダ・ロンシュタット』(1972年)というアルバムですが、その次の『ドント・クライ・ナウ』(1973年)では、サウザーがプロデューサーのひとりとしてクレジットされています。特別な関係ゆえのポジションでしょうか? だけど、リンダさんは “それはそれとしてタイプ” なのか、サウザーの曲は3曲しか入っていません。そして以降のアルバムで彼がプロデュースのクレジットを得ることはありませんでした。

​​J.D.サウザーを正しく評価したい


いや、どれも、しみじみとした味わいを持つ、いい曲だとは思います。でも、心を奪われるほどではない。

いつも不思議、というか奇跡のようにも感じているのですが、世の中にはたしかに “心奪われる” 音楽〈A〉というものがあります。でもそれはほんの少し。それに対して、たくさんの “いい” 音楽〈B〉と、さらに多くのどうでもいい音楽〈C〉がありますね。そして、BとCの差はちょっとしたことだったりするんだけど、AとBの間は狭いように見えて、ものすごく深い。

“才能” という言葉で簡単に片付けたくはないのですが、その溝は、いくら音楽が好きでも、どれだけ音楽を勉強しても、埋まらないような気がします。で、モーツァルトやレノン=マッカートニーやバート・バカラックなんかが〈A〉をつくれた人。ドン・ヘンリー&グレン・フライも〈A〉だろうけど、サウザーはやはり〈B〉の人じゃないかな。

イーグルス以前に、サウザーとグレン・フライが組んでいた"ロングブランチ / ペニーホイッスル” や、第2の "CSNY” にすべく、アサイラム・レコードのデイヴィッド・ゲフィンの発案により結成された、サウザー・ヒルマン・フューレイ・バンド(サウザー+元 "ザ・バーズ” のクリス・ヒルマン+元 "バッファロー・スプリングフィールド” のリッチー・フューレイ)を聴いても、サウザーのテイストは変わりません。心穏やかに、安心して聴ける音楽ですが、ウキウキしたりドキドキすることはない。そして、いずれのグループも大きく成功することはできませんでした。

くりかえしますが、彼をけなしているわけではありません。むやみに持ち上げたりしている世評に異を唱えているだけです。世の中には〈B〉にはなれても、〈A〉になれない人はたくさんいます。天才肌の〈A〉がいないとやはりつまらないですが、人間らしい〈B〉が大勢いるほうが、音楽文化はより活気づくと信じています。

サウザーは音楽が大好きで、たぶん地味で真面目な性格で、友達をだいじにする、とてもいいヤツだったと思います。彼の存在が、リンダ・ロンシュタットの成功や、イーグルスの誕生と成長、ひいてはウエストコースト・ロックの発展にとって、なくてはならなかったことに疑いの余地はないでしょう。

改めて、J.D.サウザーさん、78年の人生、お疲れさまでした。

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