空から見るニッポン。ただいま、奈良県吉野町の上空です!
吉野山の桜は、花見のために植えられたものではない。いまから1000年以上前、桜が御神木として献木されたことが始まりだといわれる。山岳宗教と密接に結びついた信仰の桜として現在まで大切にされてきた。吉野山の主な桜は、ソメイヨシノではなくシロヤマザクラという品種。接ぎ木では増えないため地元の人が種から育成、丁寧に手入れをしている。
3万本もの桜の木々に覆われた信仰の山
桜の季節はいつもどこに作品を撮りに行くか悩む。
正直に言うと、桜は木の下で間近で見るのが一番美しい。上空からだと花見客のブルーシート、屋台などあまり見たくないものまで見えてしまう。
また、地上でたくさん咲いているように見えても、上空からは大して咲いていない部分が目立って意外と少ないな、と思うことが多い。相当な本数が咲いてないと桜の空撮作品にはなりづらいのだ。
“日本一の桜の名所”ともいわれる奈良の吉野山であれば、本数が少ないということはないだろうと、空撮しに行くことに決めた。
しかし吉野山近辺は、モーターパラグライダーで離陸できる開けた場所がほとんどない。そのため少し離れた吉野川河川敷より離陸し、吉野山を目指した。
高度を上げて山を越えると、金峯山寺(きんぷせんじ)が見えてきた。遠くから見ても、数多の桜の木々が山々を薄紅色に染めている様子がわかる。
吉野山の桜は地域ごとに下千本、中千本、上千本、奥千本と呼ばれ、合計約3万本あるという。範囲が広いためすべての桜が満開というわけではなかったが、それでもいままでに見たことのない数の桜が山を覆い、圧巻の景色だった。
金峯山寺を中心に、桜の間のところどころに神社仏閣が見え、歴史ある信仰の山であることが感じられる。修験道の霊場でもあるためか、ブルーシートを敷いて花見をしている人は見当たらない。思う存分桜を堪能できたお花見フライトとなった。
取材・文・撮影=山本直洋
『旅の手帖』2024年4月号より
山本直洋
空飛ぶ写真家
1978年、東京生まれ。モーターパラグライダーによる空撮を得意とする”空飛ぶ写真家”。現在、世界七大陸最高峰を空撮する、成功すれば世界初のプロジェクト「Above the Seven Summits Project」を計画中。