発語、指差しなし3歳長男が幼稚園入園。加配対応でも脱走、給食拒否、困りごとは増える一方で…
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
幼稚園入園後、気になった長男の様子
3歳で発語なし、指差しもなし。泣く、怒る以外で唯一できる発信は「ちょうだい」のアクションのみの長男りーでしたが、無事に幼稚園へ入園しました。
入園当初はさみしくて泣いてしまう子どもが多いという話をよく聞いていたので、りーもそんなふうになるのかなあと思っていたのですが、そういったことも一切なく、されるがまま、いつも通りのりーでした。母は少しさみしかったです……(笑)。
幼稚園では加配の先生がつき、常にりーと一緒にいてくれました。りーが疲れた時には抱っこしてくれたり、りーがうれしそうにしている時には一緒に飛び跳ねてくれたりと、言葉で表現することができないりーの気持ちを受け止め、違う方法で表してくれました。親以外にはクールな表情が多かったりーでしたが、幼稚園に通ううちに、いろいろな人に明るい表情を見せるようになりました。
幼稚園で制作をする時には、りーの状態を見て、場合によってはカンタンなもの(クレヨンで顔を描く→りーは顔を丸シールで貼るなど)に変えてくれました。また、お手製のパーテーションを用意してくれ、りーにじっくり伝えたい時にはそこへ誘導するなど、りーに応じた対応をしてくれました。
幼稚園に通ううちに、困りごとが徐々に増えてきて……
このように幼稚園ではとても丁寧な対応をしてくださったのですが、困ったこともありました。幼稚園では給食がありましたが、野菜嫌いのりーは残すことが多くありました。家でも野菜はほとんど手をつけないりー。食べさせようとすると寝転がって泣き、拒否するため、無理強いはせずに家へ帰ってからおやつを多めに食べさせる、野菜ジュースを飲ませるなどしていきました。
またある時は、園からの電話で、りーが園庭から抜け出すということを聞きました。勢いよく飛び出るということではなく、ふらーっと出ていき、気づいたら園庭そばの駐車場にいたようです。先生は申し訳なさそうに伝えてくれましたが、こちらのほうが申し訳なく感じました。
そして、幼稚園の行事への参加も、私にとっては気が重いものでした。子どもたちが座っている中、りーは先生に抱っこされながらもぐにゃぐにゃとしていて、静かにする場面で声をあげてしまいます。
心なしか、りーのクラスも次第ににぎやかになってしまっているような気がして、「これってうちの子がクラスの子たちへ良い影響を与えていないのではないか……」と思い悩むときもありました。
幼稚園に通って一年。このままでいいのかと悩むように……
幼稚園に通い始めて約1年がたち、幼稚園の先生との面談がありました。そこで、進級することで特別活動が始まること、りーには難しいと幼稚園が判断した時には一緒の活動ができなくなってしまうかもしれないこと、その時には下の年齢との活動をすることになるかもしれないことを伝えられました。
りーは環境に慣れ、友達も優しく接してくれる。しかしりーにとって幼稚園で過ごすことは良いことなのか考えるようになりました。当時次男のかーの妊娠出産もあり、りーの育児や対応に専念できずに申し訳ない気持ちになっていました。
そうして思い悩んでいた頃、児童発達支援施設での面談がありました。そこで私から話す前に先生からある提案を受けました。
それは幼稚園から療育園への転園の提案でした。私たち家族にとって大きな変化となった療育園への転園については、また別の機会に書かせていただきます。
執筆/かしりりあ
(監修:鈴木先生より)
お住まいの市町村で違いはありますが、3歳時点で発語がない場合、一般的には3歳児健診で難聴を否定するためにABR検査を勧めます。さらに、幼稚園ではなく療育園を勧める場合も多いと思います。今回のコラムでは、りーさんに専属で加配の先生がつきましたが、発語のないお子さんを幼稚園でみるのには人的な限界があるからです。そして、加配の方とどういうコミュニケーションツールを用いたかは記載されていませんが、発語のないお子さんに対するコミュニケーションツールの一つとして私は絵カードの利用をお勧めしています。これは日本語が分からない外国人のお子さんに対しても有効な手段です。これからは、幼稚園ー療育園ー小学校とどう連携していくかが重要になってきます。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。