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西田敏行「いかすぜ!この恋」大滝詠一がプロデュースしたエルヴィスへのオマージュ!

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1981年08月26日 西田敏行のベストアルバム「もしもピアノが弾けたなら」発売日

響きの豊かなバリトンの声、シンガー西田敏行の魅力


西田敏行の訃報で、日本中は大きな悲しみに包まれた。訃報に際し、『学校』『虹をつかむ男』そして脚本を手がけた『釣りバカ日誌』シリーズなど多くの作品で現場を共にした映画監督の山田洋次は次のようなコメントを発した。

「いくつになっても福島弁の抜けない、懐かしい人柄。小太りの肉体・響きの豊かなバリトンの声、愛嬌(あいきょう)のある目元、ヨーロッパではこういう役者をクラウンというそうだが、あの姿がもう見られない。偉大な日本のクラウンが去ってしまったことを私は心から悲しく思っています」


もちろん、役者としての功績は言うまでもないだろう。そして、山田監督が言うような “響きの豊かなバリトンの声” は、シンガーとしての西田敏行の魅力を語る時も、この上なく的を射た表現だと思った。本稿では歌手・西田敏行の魅力を語っていこうと思う。

歌手・西田敏行と聞いて誰もが思い浮かべるのが「もしもピアノが弾けたなら」だろう。第23回『日本レコード大賞』で金賞を受賞した最大のヒット曲は西田の人物像そのままの作風で、そんな朴訥な優しさが当時の世の中を包み込んだ。しかし、歌手としての西田をここだけで語るのはもったいないような気がする。

大滝詠一から託された「いかすぜ!この恋」


西田は、「もしもピアノが弾けたなら」がヒットした1981年の8月に同名のベストアルバムをリリースしている。ここには、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのカバー「涙のシークレット・ラブ」や、大滝詠一が書き下ろした珠玉のロッカバラード「ロンリー・ティーン・エイジ・アイドル」、そして大滝のカバー曲である「いかすぜ!この恋」なども収録され、シンガー西田敏行の魅力を1枚にパッキングした好盤となっている。

「もしもピアノが弾けたなら」とは真逆な印象を持ち、ロックンロールが最も輝いていた1950年代のドリーミーな雰囲気を再現した躍動感あふれる「いかすぜ!この恋」はエンターティナーとしての西田の特性をマキシマムに引き出した名曲だ。元々この曲は1972年にリリースされた大滝詠一のファーストアルバム『大瀧詠一』に収録されていた。このオリジナルでは、ボーナストラックのような扱いで、B面の最後に78回転のSP盤をイメージして、敢えてノイズ混じりで声がこもったような仕上がりになっているが、西田敏行バージョンは、このオリジナルをフィル・スペクターの “ウォール・オブ・サウンド” 的ともいえる音の厚みでリメイク。

エルヴィスファンとして意気投合した西田敏行と大滝詠一


「いかすぜ!この恋」は「♪やさしく愛して 冷たい女 本命はお前だ 今夜は一人かい?」とエルヴィス・プレスリーのシングル曲の邦題を繋いでリリックにしたもの。

▶︎「やさしく愛して」→「Love Me Tender」
▶︎「冷たい女」→「Hard Headed Woman」
▶︎「本命はお前だ」→「Stuck On You」
▶︎「今夜は一人かい?」→「Are You Lonesome Tonight?」

ということになる。エルヴィスが自分の原点だと語る大滝詠一のオマージュあふれる曲を、同じくエルヴィスファンとして意気投合し、そのバリトンボイスに惚れ込んだ西田に託したということだろう。ちなみに同曲の初出は西田が1980年にリリースしたオリジナルアルバム『風に抱かれて』で、『大瀧詠一 SONGBOOK 1』にも収録され、サブスクでも聴くこともできる。

「ザ・ベストテン」で「いかすぜ!この恋」を熱唱


西田はこの曲を1982年の2月に放映されたTBS系『ザ・ベストテン』の中でも披露している。この日、司会の久米宏は春休みのため欠席、ピンチヒッターとして西田が登場。黒柳徹子と絶妙な掛け合いを見せ、特別コーナーとして、この日のゲストとして登場し、前年のNHK大河ドラマ『おんな太閤記』で共演した佐久間良子に "捧げる歌” として「いかすぜ!この恋」を熱唱した。

70年代のエルヴィス・プレスリーを彷彿させるフリンジのついたジャンプスーツにサングラス姿で、体に巻き付いた紙テープを振り払うように熱唱する西田は、まさに生粋のエンターティナーであり、オーバーアクションでも決してブレない音程にはシンガーとしての力量を如実に表していた。エルヴィスオマージュの歌い方は、モノマネの域を越え、その才能ぶりを存分に堪能することができた。

思えば『池中玄太80キロ』当時の西田のもみあげもエルヴィスオマージュだったのかもしれない。芝居と同じように、音楽にも惜しみない愛を注いだ西田敏行。彼の軌跡を語る上で、類まれな声質で、様々な表情を巧みに表現する歌手としての魅力を忘れてはならない。

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