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日本人は「無能な同僚」がとても嫌い。

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日本人は「無能な同僚」がとても嫌い。

日本人は集団主義、欧米は個人主義。

日本人は和を重んじるが、欧米人はそうではない。


そんなステレオタイプを聞いたことはないでしょうか。


でも現場では、「自分勝手な人」をたくさん、見てきました。

特に多いのは、「やることは決まっているけど、個人的にイヤなのでやらない」という人で、決まったことに対して、サボタージュを行ったり、周りの社員にネガティブな意見を吹き込んで、アンチとなったりするケースです。

なんなら、「上司に楯突いている、アンチな俺はかっこいい」と思っているフシすらある人も。


もちろん、そういう人は仕事もできないし、成果もあがりません。

自分の給料が出るのは、周りの成果をあげている人のおかげだということも、気づいていません。


コンサルティング会社では、そんな人間はすぐに、クビになったり、配置転換されたりして、排除されていました。

「役に立たないやつは要らない」というのが共通見解だったのです。


が、日系の大手企業や、中堅中小企業では、社員に対してそこまで厳しい処置を取ることはありません。

決して黙認されていたわけではないですが、結果的に、放置されたり、見逃されたりしていました。


私はそれを見て、「仕事をしない人にまで、給料を払っているなんて、なんて日本企業は懐が深いのだ」と、つくづく思ったものです。

多少の異分子にも目をつぶり、社員の生活を守る。

そしてそれが和を重んじる、「集団主義」の良いところなのだ、と思っていました。



しかし最近、その「集団主義」も、ついに破綻しつつあると感じます。


というのも、以前とは逆に、最近では「仕事をしない人」をなんとかしないと、「仕事ができる人からやめてしまう」のです。

「無能な同僚を放置する会社では、仕事はできない」と言って、優秀な人ほど、複数の会社を渡り歩いて、「できる人が評価される会社」で、どんどん自分の待遇を上げていくことが、すっかり普通となりました。


NTTから創業当時のマイクロソフトへ転職して成功を収めた、中島聡さんのブログには、そんな話があります。

私が32年前に NTT からマイクロソフトに転職した経緯です。

ちなみに、その後、日本のマイクロソフトに3年勤めて、シアトル本社に移籍し、2000年の初めまで勤めました。興味がある人もいるだろうから書いておきますが、辞めた時の基本給は14万ドルでした。これにキャッシュのボーナスが10%と、ストックオプションが毎年のようにもらえていました。それも管理職ではなく、バリバリとコードを書く、純粋なソフトウェア・エンジニアとして、です。

ストックオプションによる報酬は、株価によっても大きく左右されるので、なんとも言えませんが、参考までに言うと、私が辞めると宣言した時に、会社が私を引き留めるために提示したストックオプションは $4 million 相当でした。$4 million の現物株ではなく、「$4 million の株を当時の価格で将来買う権利」です。10%値上がりして40万ドル、100%値上がりしたら $4 million のキャピタルゲインが得られる計算になります。

1980年代にこんなことをやっていた方はかなり珍しかったのでしょうが、今は「より評価される職場で」「より自分を差別化できる職場で」という動機で転職をする人は非常に多いのです。


官僚や旧態依然とした日系企業が、外資系企業の人材の草刈り場になっていることが問題視されていますが、待遇面で考えれば当たり前……そんなことを思っていたら、どうやらお金だけの問題ではないようです。


実は、「日本人はもともと、欧米よりも個人主義で、「無能な同僚」がとても嫌い。」だというのです。


北大名誉教授の、山岸俊男は「安心社会から信頼社会へ」の中で、次のように述べています。

この結果は、日本人もアメリカ人も、作業成績の良い人はほとんどつねに集団から離脱していたことを意味しています。つまり、日本人もアメリカ人も同じように、怠け者と一緒にされるのは「馬鹿らしくてやってられない」というわけで、グループから離脱してしまったということです。(中略)

実験の結果は、この一匹狼的な行動をとる頻度にきわめて大きな日米差があることを示しています。具体的には、高コスト条件で金銭的な犠牲を払いながらグループから離脱する頻度は、アメリカ人参加者の場合には二〇回のうち平均一回程度しかなかったのに対して、日本人参加者の場合にはほぼ八回も離脱していました。つまり、アメリカ人よりも日本人参加者のほうがよほど「個人主義的」に行動していたわけです。

実験結果は、「無能と同様の条件で働くのにはうんざり」と考える傾向は、米国人よりも、日本人のほうが強いということを示しています。


つまり転職が困難な社会情勢や常識が取っ払われてしまえば、日本人のほうが、良い条件を求めてより躊躇なく転職する傾向にあるとも言えるでしょう。


この結果を見て、私は最近聞いた話に、合点がいきました。

「日本全体のGDPが下がっていると言うけど、自分は稼げているから、別に問題ではない。」

「東京都知事選挙には全く興味がない。その結果に私に関わりはなく、誰がなっても同じ」


これはある意味では、「日本人の強い個人主義志向」を示していると言えます。


実際、東京大学の研究では、『日本人は集団主義的』という通説は誤りだということが示されています。

日本人論では、長らく「日本人は集団主義的だ」と言われてきた。現在では、「集団主義」は、「日本人」の基本的なイメージになっている。

ところが、この通説が事実なのかどうかを確認するために、心理学、言語学、経済学、教育学などにおける実証的な研究を調べたところ、日本人は、欧米人より集団主義的だとは言えないことが明らかになった。

また、「日本人は集団主義的だ」と広く信じられているという現状は、人間の思考を歪める心理的なバイアスによって作りだされたものであることも明らかになった。

これからのマネジメントや、日本社会の運営はむしろ、「個人主義志向」を前提として考えたほうが良いのかもしれません。


といっても、「強い個人」が思う存分活躍する社会がどのようなものなのか、私にも、まだよく理解できているわけではないのですが。

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【著者プロフィール】

安達裕哉

生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」60万部(https://amzn.to/49Tivyi)|

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◯note:(生成AI時代の「ライターとマーケティング」の、実践的教科書)

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