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JAKIGAN MEISTER NIGHTMAREでは見えない咲人の個性、趣味全部盛りの音楽、歌詞満載の新作『THE ______ EP』を語る

SPICE

JAKIGAN MEISTER 撮影=菊池貴裕

来年、バンド結成25年のアニバーサリーイヤーに向けて、この秋からすでに大暴走中のNIGHTMARE。そのなかでギタリスト&メインコンポーザーの一人として活躍中の咲人のソロプロジェクト、JAKIGAN MEISTER(ジャキガンマイスター)が約1年ぶりに新作『THE ______ EP』(読み:ザ)を9月25日に発売。NIGHTMAREでは見えない咲人の個性、趣味全部盛りの音楽、歌詞満載。これぞ咲人という作品を掲げ、10月1日からはツアー『JAKIGAN MEISTER TOUR 2024”THE ______“』をスタートさせる咲人に話を聞いた。

――先日はNIGHTMAREでインタビューさせてもらいましたが、JAKIGAN MEISTERとしてのSPICEでのインタビュー登場は久々となりますね。

JAKIGAN MEISTER自体、1年に1回活動できるかどうかだからね。来年は本体(NIGHTMARE)の25周年、もしかしたらこっちで稼働できない可能性もあるから、今年中に音源を作って活動しようと思って。

――NIGHTMAREでツアーもやりつつ、今作の制作を進め、ギタリストとしてのサポート業もこなして。NIGHTMARの日比谷野外音楽堂で『天下再暴走』を行なったあとは、台湾でのワンマン公演もありながら、今作のプロモーション。相変わらず、激務ですね。

スケジュールがとんでもないことになっちゃってます(苦笑)。

――JAKIGAN MEISTERでは、いまから約1年前に出した4thシングル「Que sais-je?」が衝撃的だったんですよね。ダンサブルなビートに歌謡曲テイストなメロディーを乗せたあの曲は坂道系アイドルにも提供できそうな楽曲だったので、咲人さんはこんなメジャーな曲も書けるんだと驚いたんですよね。

どっちかっていうとNIGHTMAREでやってることよりも、ソロでやってることのほうが自分の本質、好みには近い。ソロは制限がまったくないところから何をやるか?っていうところから始まるんだけど、バンドだとどうしてもバンドのイメージを考えてしまうからね。

――バンドでは制限があるということ?

大枠は決まってる気がする。自分のなかでは、NIGHTMAREでもいろんなことを散々やってきたつもりだけど。

――事実、NIGHTMAREの最新曲「Labyrinth」は夏にぴったりの突き抜けるようなポップネスが印象的なアップチューンでしたし。

だけど、俺のなかではあれもNIGHTMAREの範疇なの。いろんな音楽を聴いていくなか、こういうのをやってみたいなと思ってその要素を取り込むのはありだけど、そっちに振り切っちゃうのはNIGHTMAREではやらない。こういう曲調しかやりませんっていう、例えばアース・ウィンド・アンド・ファイアー(EarthWind&Fire)だったらファンクやディスコ、メタリカ(Metallica)だったら歪んだギターでリフ刻んだスラッシュメタルとか。そういう一貫したものをやるアーティストに対しての憧れもあるので、NIGHTMAREではNIGHTMAREっぽさと、それを残したなかでの音楽性の幅広さ。その、いい感じの中間を狙いたいなと自分のなかでは考えていて。ソロだとそれがまったくないので、作る曲もより幅広くなるし、テイストもバラバラになる。だけど、そのバラバラっていうのは自分のなかで感情もその時々でバラバラだからであって。それが自分だなと思う。だから、そういう意味で『THE ______ EP』というタイトルをつけたの。このバラバラ感、この幅広さこそ“THE 咲人”という意味で。

――THEのあとの半角6つのアンダーバー(______)の意味は?

THEだけでは言葉として成り立たないから、よく日本語で“これってTHE〇〇って感じだよね”って表現したりするから、聴いてくれた人がそこに何を入れるのかは自由。そういう意味でのアンダーバー。6つにしたのは見た目のバランス。

――咲人をアルファベットにしたらSAKITOで6だし。

だから、自分の中では辻褄は合ってる。

――今作をEP盤的な形にした理由は?

最初シングルかなという話はされたんだけど、なにせシングルが好きじゃないんですよ。俺は。アルバム、ミニアルバムぐらいの形じゃないと、こっちはストーリー、流れを表現できない。現代的ではないかもしれないけど、好きなアーティストのアルバムを買ってきて聴くときは、その曲間とかにもいろいろ感じる訳ですよ。そういう良さを無くしたくないなというのがあって。この曲順で聴くから感じることって、絶対あると思う。ライブのセットリストもランダムじゃなくて、ちゃんと流れを考えて作ってるからね。それと同じですよ。シングルだとそれはできないから。曲もあったし、スケジュールはギリギリだったけど“5曲入りにするから”って俺が言って作ったの。1曲インスト曲(「Ganesa - Electric Sitar Suite: I -」)だけは最後まで考えたかったから、ミックスまでなにもかも100%俺がやった。

――全曲を作り終えて感じたことは?

俺ってバラバラなんだな、かな。そういう意味では一貫してるの。タイトルの“THE”ってワードは俺のなかに最初からあって。“THE 自分”、いいところも悪いところもひっくるめて全部自分、みたいなものを作りたいなと思ってたから。聴く人によっては一貫性がないなと感じるだろうし、俺をよく知ってる人は“これも、あれも咲人っぽいね”って思うだろうし。ソロまでね、いろんなことを考えながら作りたくないから、その自由に作る感じが今作は特に出てるかもしれない。

――咲人さんのなかで大枠のあるNIGHTMAREと自由なソロでは、楽曲を制作する段階からそのスイッチを入れ替えているんですか?

自動でそうなりますね。いろんな人の音楽を聴いていて“これいいな”と思うものがあったとすると、俺の中には“インスピレーションプレイリスト”というのがあって。これはNIGHTMAREの曲を作るときにいい刺激を受けそう、これはJAKIGANのときに刺激を受けそう、っていうものをそれぞれ分けて、プレイリストにしてるの。

――そうなんですね!

知らない価値観に触れて、自分の創作意欲が刺激されるためには、やっぱり外的な要因は必要で。それは音楽じゃなくてもいいの。映画でも本でもアートでも。そういうところで、普段から使い分けしているのかもしれないね。

――外部から刺激を受け取った時点で、これはNIGHTMARE用、これは自分用という風に区別しているんでしょうね。

自然と。最近ね、ゴス(ゴシックロック)とかニューウェーブとかポジパン(ポジティブパンク)にハマってるんだけど。シスターズ・オブ・マーシー(The Sisters of Mercy)とかバウハウス(Bauhaus)とか。“これはどっちもいけるんじゃないか”って思いながら聴いてて。

――たしかに! 両方いけるじゃないですか。

だから最近 、喫煙所かなんかで今後のNIGHTMAREについてメンバーと話したときに“ポジパンやりたいんだけど”って言ってみた 。“なんで?”って言われたけど(笑)。

――「Labyrinth」が明るいアッパーな曲だったからというのもありますよね?

その振り戻しで暗い曲を作りたいだけかもしれないけど(笑)。

――咲人さん自身とはかなり相性がよさそうに思えるんですけど。

俺はギターを始めてから、ハードロックやメタルを聴いてきて、自分はエクストリーム(Extreme)とか、アメリカ寄りのものが好きなんだなと思ったんですよ。ヌーノ・ベッテンコート(Nuno Bettencourt)とか大好きだし。でも、トータルで見ると俺の好みはヨーロッパ寄りなのかもしれないないと思いだしたの。俺、専門学校に行ってたとき、先生に“お前はUKだから、イギリスに行け”って言われてたの。当時もレディオヘッド(Radiohead)とか好きだったけど、そのときはピンときてなくて。レディオヘッドよりもレッチリ(レッド・ホット・チリ・ペッパーズ/Red Hot Chili Pepers)のほうが好きだったからね。だけど、最近どうもUK寄りの陰気な感じ? 曇ってる感じのほうに俺の性質が寄ってきてる気がするね。

――なるほど。それでは、ここからは収録曲について聞いていきたいと思います。まずは1曲目の「THE ______」。こちらは咲人さんお得意のファンキーなダンスチューンの最新版。

“THE〇〇”というのを思いついたとき、これまで自分が作ってきたもののなかからノリがいいものをもう1回鍋にぶち込んで煮込んだもの、みたいなものを作りたいなと思って。

――食べ物で言うなら全部盛り、みたいな?

そうそう! だからファンキーなだけじゃなくて、大好きなデッド・オア・アライヴ(Dead or Alive)のエレクトリックボディミュージックのビートを入れたりして。歌詞も過去のいろんな曲のフレーズ、曲のタイトルを散りばめて、新しい料理を作ってみた感じです。

――デッド・オア・アライヴがありつつファンク的なビート感を入れた踊れる音楽って、咲人さんお得意のテイストですよね?

好きだね。ディスコミュージック大好きだからね。ビートは体が動きだすもの、だけどギターは生でガッツリのっかってるというのがずっと好きなんだと思う。街中で流れてて“おっ?”てなるのはそういうタイプのものだからね。レッチリみたいないろんなものをごちゃまぜにした踊れるファンク。そういうものが俺の中にはずっとあるんだけど。NIGHTMAREでそれをやるかどうかは別だけど、ソロだったらそれも全然出せる。

――2曲目は「死亡遊戯」。SNSで「Ni~yaのベース借りてレコーディングしてます」って言ってたのはこの曲?

そうです。でも、今回はインストは打ち込みだけど、それ以外の曲は全部そうやって俺がベースも弾いてる。

――えー! ベースも咲人さんなんですね。

意外とベースもいけるなと思った。独特な感じが出る。

――きっと「死亡遊戯」、間違いなくあのベースのリフから。

作った曲。

――ですよね。「死亡遊戯」というタイトルだけど、始まったら海にどんどん沈んでいくような曲展開で。

これこそUKな暗さ。タイトルはブルース・リーの映画から頂いて。ブルース・リー大好きだし、このタイトルが一番しっくりきたんだけど、曲の中身はブルース・リーとはまったく関係ないです。

――中身は、死んでないだけで生きてるだけの人のこと。

うん。そういう人、いっぱいいるじゃないですか。

――この曲の好きなところは、2番のAメロ前。ベースだけになるところは、さらに海の深い底に落ちていくようで大好きです。

はははっ。あそこいいよね!

――さらにここで聞こえてくる口笛が、深海に届く太陽の光みたいなんですよね。あれは咲人さんが吹いているんですか?

うん。歌録りしてるときに何か入れたくなって。本当はイントロにもエッジボイスを入れたりしてたんだけど、ちょっとトゥーマッチだなと思って口笛だけ残しました。ボーカリストではないにせよ、もっと歌がうまく唄えたらと思う。この曲とかは。

――3曲目は「愛の再考」。

この曲はインダストリアルっぽいリズムに早口でわーと歌ってる感じ。

――こういうのもまた、咲人さん好きですよね?

好き(笑顔)。ライブで歌えるのかどうか不安だけど。

――これは“再考”というワードが“Psycho”、“最高”とトリプルミーニングで展開していくところもまた、咲人さんっぽい。

そうですね。歌詞を書くときは、言葉の断片から書き始めるんだけど。メロに合った言葉を適当英語みたいな感じで歌ってたら、そのときにPsychoが出てきた訳ですよ。書いてるうちに、これは漢字にも当てはまると思って。そこからは早かったですよ。ちょっと皮肉な感じとか。

――そこも咲人さんらしい。

だけど、それを最後“最高”に落とし込めたところがひねくれたポジティブみたいで、俺は気に入ってる。これは後から聴いて思ったんだけど、この曲はhideさんの影響が出てるかな。ナイン・インチ・ネイルズ(Nine Inch Nails)とか。意識はしてなかったけど血にはあるから。だから、これはそういう意味ではアメリカ寄りかな。

――4曲目はインストの「Ganesa - Electric Sitar Suite: I -」。これはもろインド!!

エレクトリックシタールという楽器を手に入れたんです。いままではそんなに使うものではないから、音が欲しいときはレンタルしたり、シンセで音を出したりしてたんだけど。インド好きとしては常にそばに置いておきたいなというのがあって。エレクトリックシタールという楽器はすごく昔からあるもので、オリジナルはビートルズ(The Beatles)のジョージ・ハリスン(George Harrison)とかが使ってたコーラルのエレクトリックシタールというのがあるんだけど。いまはそれのコピーモデル、レプリカみたいなものしかないんですね。いままでもエレクトリックシタールはいろんな名曲で使われてきてるんだけど、見た目が、赤と黒のひび割れたボディみたいなのばっかで、そこが俺は好きじゃなかったんですね。だけど、あるときそのユーズド品をたまたま見つけて。しかも、それはボディが白だったんですよ! たぶん2000年代ぐらいに作られた復刻版らしいんだけど、それをすぐに買いに行って、これを録ったの。そうしたら、出てくる出てくる、インドフレーズが(笑)。

――だはははっ。インドの打楽器の音も。

タブラでしょ? 入ってる。

――曲のタイトルも調べたらインドの神様のこと。

この曲は完全にインドに振り切りました。俺の趣味満載。

――なのに、途中にはピアノが入ってくる。そこでインドの匂いが変わるんですよ。

俺の好きなインドはハードコアなインドじゃなくて、いろんなものがごちゃまぜになった坩堝的なイメージなの。だから、俺のなかではあのピアノも全然違和感がないんだよ。

――これ、タイトルに“Suite: I”と入っているということは?

このシタールを使って今後、第何弾かまでは作りたいなと思ってる。第4章ぐらいまでのネタはもうあるから。それは、インドの叙事詩に『マハーバーラタ』という物語があって。

――『マハーバーラタ』と『ラーマーヤナ』、インドを代表する二大叙事詩ですね。

その『マハーバーラタ』をモチーフに作ろうかなと思ってたの。ストーリーの始まりとして、この曲は最初、“生命”というタイトルを付けてたんですよ。だから、構成的に最後に明るく開ける感じになってるんだけど。でも『マハーバーラタ』をテーマにするととんでもなく長いものになっちゃうから、もうちょっと分かりやすいインドにシフトしようと思って、タイトルを神様の名前にした。

――そんなインド好き咲人さんが音で炸裂したカオティックなインストから最後、5曲目「ジムノぺディア」へと流れていくところがたまりませんね。

ハッと気づいた瞬間に海の上に浮かんでた、みたいな夢の後感は意識した。

――そうそう! そんな感じで、この夢の後が本当に美しくて。エリック・サティ(Erik Satie)の「ジムノペディ」のフレーズをこんな繊細で美しい歌モノに仕上げるのも咲人さん。

俺、もともと「ジムノペディ」がすごく好きで。世の中で一番美しい曲だと思ってるぐらい好きなんだけど。作曲者のエリック・サティは100年以上前に亡くなってるけど、現代までいろんなところでこの曲は使われてる。それを生かしたものを作りたいなというので、コード進行もキーも違うけどモチーフとしてあのメロディーを使わせてもらった。あの人はとても変わり者だったらしいけど、そういう人がもし生きていたら、音楽の価値が無くなりつつあるこの時代にどういう表現をするのかな?とか、逆にいまのこの状態を見たらどう思うのかな?とか。そういうことを考えて、エリック・サティへの手紙みたいな感覚で書いた曲ですね。

――そうやって思いを馳せているのことがすごく伝わってくる歌詞で、サティが書いた「ジムノペディ」が現代へとトリップして繋がってくる感じが本当に美しく素敵でした。

よかった。この曲で苦労したのは、ギターの音作りなんです。綺麗なだけのものにはしたくなくて。

――えー! それで間奏パートであんなに歪んだ音でギターソロを入れたんですか?

うん。あれね、間奏のコード進行は「ジムノペディ」でちょっと転調するセクションがあるんだけど、そこをオマージュしてるの。あのコード進行で普通にギターを弾くと、演歌みたいなフレーズしか出てこないんだよ。それで、どうしようと思って“じゃあ汚してしまえ!”って演ったらああなった。

――あそこは、美しい曲で、ファルセットまで使って歌っているなかにいきなり歪んだ音が入ってくるから“えっ、なんで!!”ってなりました。

綺麗なだけで終わりたくないんです。そこにゴミとか入れたくなっちゃうの。天邪鬼だから。

――そこもTHE 咲人だ!

綺麗なだけの曲は世の中にいっぱいあるでしょ? そこで自分も綺麗な曲だけ作ったってしょうがない。ましてや俺はギタリスト、ギターでスパイスを入れていかなきゃダメだから。となったら、ここは汚すでしょうと。それで俺の中では腑に落ちた。そうしたら、演歌じゃなくなったんだよね。

――クラシックのフレーズを使うのはNIGHTMAREの「muzzlemuzzlemuzzle」(ギターソロで「トルコ行進曲」のフレーズをフィーチャー)以来ですね。

明確に使ったのはあれ以来かもしれない。ギターを始めた頃、当時のメタルやハードロックとクラッシックの親和性ってすごくあったから、使いやすかったんだと思う。あと、印象的なフレーズが多いから。クラシックは。古典の素晴らしさがあるよね。

――そうして、今作を提げてのツアーですが、どんなものになりそうですか?

こちらも“THE ______”なツアーにしますよ。ライブの流れのセオリーってあるけど、まあそういうのも大事にしつつ、自由に気ままにやりたい。好きなようにやろうかなという感じです。

――もちろん、エレクトリックシタールも?

弾きますよ。でも楽器としてはめちゃくちゃ不安定で、超音痴なんですよ! 開放弦でチューニングを合わせてると、どんどんどんどん低くなっていくの。それがね、ヤバイの。スタッフにも見てもらったけど“これはこういうもんだから”と言われた。だから、今回レコーディングしてるときも、ポジションに合わせてチューニングを調整して演奏してたから大変だった。でも、そのピッチの不安定さもインドっぽさだからね。

――そこも含めて楽しんでもらいましょう。

そうですね。

――最後に、ツアーを控えた現在の想いとファンの皆さんにメッセージをお願いします。

明らかにいままで以上にNIGHTMAREとは違う曲調や表現方法が詰まった作品だと思います。純粋にライブで聴いてて楽しいし、ノリやすい。とは言ってもヴィジュアル系のノリとは全然違うと思うから。元々の俺はそうだからね。なので、ただ普通に、先入観なしにライブに来て、楽しんでもらいたいです。

取材・文=東條祥恵 撮影=菊池貴裕

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