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世界の「正義の神々」の伝説 〜古代人が求めた“理想のヒーロー像”とは

草の実堂

画像 : ユースティティア 草の実堂作成(AI)
画像 : 正義のヒーローのイメージ illstAC cc0

この世界は、古今東西を問わず、不条理と悪に満ちている。

救いの見えない現実の中で、人々は常に正義の到来を夢見てきた。

古代の人々は、混沌と苦難に満ちた日々の中で正義という希望にすがり、やがてその象徴を神の姿に投影したのである。

今回は、そうした人々の願いが生み出した「正義を司る神々」について、世界各地の神話を通して見ていくことにしよう。

1. ユースティティア

画像 : ユースティティア 草の実堂作成(AI)

ユースティティア(Justitia)は古代ローマに伝わる、正義を表す英語「Justice」の語源となった女神である。

手に剣と天秤を持ち、目隠しをした姿で描かれることが多い。
天秤は正と悪の重みを、剣は権威を、目隠しは法の下の平等さを、それぞれ表しているという。

しかし目隠しについては、「正義は盲目である」という解釈をされる場合もある。
戦勝国が敗戦国にいかなる狼藉を働こうと、国際法で裁かれることがないように、人類の歴史は一貫して「力こそ正義」「弱者は悪」である。
ゆえにこの解釈は、残念ながら的を射ているとしか言いようがない。

現在、世界各地の裁判所などにて、ユースティティアの彫像が飾られている。

だが、上記のような解釈を避けるためか、目隠しをされていない像も数多く設置されている。

2. 獬豸

画像 : 獬豸像(北京・紫禁城)public domain

獬豸(かいち)は、中国に伝わる神々しい獣である。

漢の時代の文人・王充(27~97年頃)が著した『論衡』によると、獬豸は全身が黒い毛で覆われており、頭部に長く鋭い一本角を有するという。
また、大きいものは牛に、小さいものは羊に似ているとされる。
争う人間のもとに現れ、正しくない方を突き刺して殺す、恐るべき怪物として語られている。

また、宋の時代の文人・蘇軾(1036~1101年)が著したとされる『艾子雑説』によれば、はるか昔、皇帝の住まう宮殿にて、獬豸は飼育されていたという。

邪悪な役人を見つけては殺して食ってしまう猛獣であったが、悪人を食い尽くしたのか、いつの間にかいなくなってしまった。
もし今日まで獬豸が生き残っていたとすれば、エサに困ることはないであろうと、同書では説かれている。

この話は、汚職が横行していた宋時代の朝廷を、風刺したものである。

他にも、古代中国の伝説上の裁判官「皋陶」は、判断の難しい裁判において、獬豸を用いていたとされている。
獬豸は善悪を確実に見極める力を持つので、冤罪が起こることもなく、安全に悪人だけを捌くことができたという。

この伝説が元になり、中国の裁判官は清の時代まで、獬豸の装飾が施された「獬豸冠」という帽子を被り、執務に当たっていたそうだ。

3. メンス

画像 : 画像 : メンス 草の実堂作成(AI)

メンス(Mens)またはメンス・ボナ(Mens Bona)は、古代ローマに伝わる「正しき心」を司る女神である。

かの超天才集団「メンサ」の、名前の由来の一つだという説が存在する。
(Mensだとあまりにも同音異義語が多いため、ラテン語で「テーブル」を意味するMensaに改められたそうだ)

メンスを信仰することで精神が清らかになり、余計な性欲に惑わされなくなると考えられていた。

セクストゥス・プロペルティウス(紀元前50年~紀元前15年頃)や、プーブリウス・オウィディウス・ナーソー(紀元前43年~紀元後17年頃)など、古代ローマのさまざまな詩人が、メンスと性欲の関係性について言及をしている。

4. シャマシュ

画像 : シャマシュ 草の実堂作成(AI)

シャマシュ(Shamash)は、古代メソポタミア文明において信仰されていた、太陽と正義の神である。

太陽は、すべての生命の源といっても過言ではない。

日の光のおかげで植物は光合成を行い、人間はビタミンDを生成し、丈夫な骨を作ることができる。
太陽はいつしか正しさの象徴とされ、それを司るシャマシュもまた、正義の神として崇められた。
(無論、太陽には日焼けや干ばつなどの負の側面もあるが、それらの役割は別の神々が担っている)

シャマシュが語られる伝説の代表的なものに、人類最古の文学作品『ギルガメシュ叙事詩』が挙げられるだろう。
古代都市ウルクの王「ギルガメシュ」をサポートする存在として、シャマシュはたびたび登場する。
ただし、ここでのシャマシュは正義の神というより、ギルガメシュをやたら甘やかす、過保護な親のような立ち位置である。

シャマシュの正義が垣間見える伝説として、かの『ハンムラビ法典』にまつわる逸話が存在する。

ハンムラビ法典とは、古代バビロニアの王・ハンムラビ(紀元前1810~紀元前1750年頃)が定めたとされる、さまざまな法律をまとめた石碑のことを指す。
※有名な「目には目を、歯には歯を」という文言が記されているのも、このハンムラビ法典であり、たとえ目や歯を傷つけられたとしても、相手に与える罰は同程度に留めよという、行き過ぎた復讐を諫める法律である。

画像 : ハンムラビ(左)に法典を授けるシャマシュ(右) public domain

この法典をハンムラビに授けたのが、シャマシュだといわれている。

つまり法律の内容を考えたのも、シャマシュであると解釈できるだろう。

法典の前書きと後書きには「強者が弱者を虐げてはいけない」と説かれている。

まさにシャマシュは人権意識の高い、極めて真っ当な神であったといえよう。

参考 : 『論衡』『ギルガメシュ叙事詩』他
文 / 草の実堂編集部

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