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70年代に生きる特撮ヒーロー「スペクトルマン」主人公は敵役の “宇宙猿人ゴリ” なのだ!

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1971年01月02日 フジテレビ系特撮テレビドラマ「スペクトルマン」放送開始日

1971年、第2次怪獣ブームの火ぶたは切って落とされた


1968年に『ウルトラセブン』が終了した後、特撮ヒーロー番組不在の時代があった。しかしその間も、学習雑誌には既に放送が終わっている『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』の記事が掲載され続け、まるで放送中の番組であるかのように “マン” “セブン” に関する絵本やレコード、ソフビ人形などの商品が発売された。

1971年、満を持して3本の特撮ヒーロー番組がスタートする。『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』、そして『スペクトルマン』(番組開始時のタイトルは『宇宙猿人ゴリ』)である。こうして第2次怪獣ブームの火ぶたは切って落とされた。

驚くべきことに『ウルトラマン』も『仮面ライダー』も、初放送から半世紀以上経過した現在に至るまで新作が作り続けられている。だから、この2大ヒーローは私たち世代だけの “ウルトラマン“ “仮面ライダー” ではない。広い世代にとっての “みんなのウルトラマン” “みんなの仮面ライダー” なのである。

スペクトルマンの大ファンを自認している庵野秀明


しかし、スペクトルマンは、70年代という時代にのみ生きたヒーローだった。だから “ぼくら(だけ)のスペクトルマン” と声を大にして言えるし、ウルトラマンや仮面ライダーのように再評価されることが少なくとも、“別に今の若い人らにスペクトルマンの良さは解ってもらわんでもええねん、むふふ” という隠微なヨロコビさえある。スペクトルマンの大ファンを自認している庵野秀明監督も、インタビューに答えてこう語っている。

「こういうのを楽しむ要素は、すごく難しい。知らない人にあまり薦められない。100人いて、数人が気に入るかどうかだと思う。(中略)『スペクトルマン』を楽しんで見るのは、やはりそれなりの素養が必要だと思う」

講談社刊『ぼくらが大好きだった特撮ヒーローBESTマガジン』Vol.9・庵野秀明監督スペシャル・インタビューより)

ところで、『スペクトルマン』の放送開始日が1971年1月2日、そして『帰ってきたウルトラマン』が同年4月2日、『仮面ライダー』がその翌日の4月3日。すなわち、第2次怪獣ブームに先鞭をつけたのは、間違いなく『スペクトルマン』であったことをここに明確に記しておきたい。

放送開始時の番組タイトルは「宇宙猿人ゴリ」


さて、前述したように『スペクトルマン』の放送開始時の番組タイトルは『宇宙猿人ゴリ』であった。その後『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』を経て、『スペクトルマン』に落ち着くまで2度も改題している。

すなわちスタート当初この番組は、ヒーローの敵が番組タイトルとなっていたのだ。言うなれば『仮面ライダー』ではなく『ショッカー』が番組タイトルになるようなものか?… いや、それは少し違う。ショッカーはあくまでも主人公・仮面ライダーあってのショッカーだが、『宇宙猿人ゴリ』の場合、少なくとも番組スタート時の主役は間違いなくゴリと、腹心の部下であるラーだった。

猿人惑星・Eに住むIQ300の突然変異的天才科学者ゴリ。生まれついての独裁者気質だった彼は、軍の一部を扇動してクーデターを企むが失敗に終わり、精神改造刑を言い渡される。しかし軍人で腹心の部下であるラーに助けられ、自身の発明による万能椅子を搭載した円盤でE惑星を脱出。やがて太陽系を訪れたゴリは、美しい星・地球に魅せられ我がものにせんとする。しかしあろうことか、地球人はその美しい地球を平気で汚染させている。第1話「ゴリ・地球を狙う!」でゴリは次のように怒りをぶちまける。

「地球よ、お前は私のものだ。人間はこの美しい星・地球を自らの欲望のために泥のように汚していく。許せない! たとえどんなに高い文明をつくり出したとしても、この美しい地球を汚し腐らせてしまう人間どもを許すことはできない!」

このセリフ、聞きようによっては傍若無人な悪に対して怒りを燃やすヒーローの独白のようではないか。そしてゴリは地球人が生み出した公害によって怪獣を作り出し、地球征服を狙うという見事なまでの皮肉。この『宇宙猿人ゴリ』という番組の異色ぶりが分かろうというものである。

エンディングとして使用されたテーマ曲「宇宙猿人ゴリなのだ」


ここで、タイトルロールであるにも関わらず番組中ではエンディングとして使用されたゴリのテーマ曲「宇宙猿人ゴリなのだ」(作詞:雨宮雄児 / 作曲:宮内國郎)の歌詞のうち、1番と3番を抜粋して紹介したい。

 惑星Eから 追放された
 そのくやしさは 忘れはしない
 宇宙を旅して 目についた
 地球をかならず 支配する
 セリフ:ゴリ「ラーよ 攻撃の時がきた」      
    :ラー「ウォー」
 私は科学者 宇宙猿人ゴリなのだ

 自分の理想と 目的もって
 強く生きてる そのはずなのに
 宇宙の敵だと いわれると
 身ぶるいするほど はらがたつ
 セリフ:ゴリ「我々の力の程を見せてやれ」    
    :ラー「ウォー」
 私は科学者 宇宙猿人ゴリなのだ

他のアニソンや特ソン(特撮ソング)にも敵側のテーマ曲は存在する。しかしここまで自己肯定的で自己主張の強いものがあったろうか。特に「♪身ぶるいするほど はらがたつ」という歌詞は、天才科学者であると同時に生来の独裁者としてのゴリのプライドが端的に表現されており、まさに身ぶるいするほど最高である。やはりこれは “主人公” のテーマソングに他ならない。

第1話のラスト近くでようやく登場したスペクトルマン


ところで、この『宇宙猿人ゴリ』第1話の脚本を担当したのは、テレビアニメ草創期から長きにわたりジャンル問わず圧倒的本数の脚本を執筆してヒットを連発、そして90歳を過ぎた現在でも現役推理作家として活躍している名匠・辻真先。

辻脚本はゴリのプロフィールから地球にやってきた経緯をテンポ良く紹介、ゴリのキャラクターを視聴者に深く印象付けた。一方スペクトルマンはといえば、ラスト近くでようやく登場し、ゴリの送り出した怪獣へドロンに空中から戦いを挑むが、ゴリの円盤から発射された光線を受けてあえなく炎上、墜落―― といったところで次週へ続く。ヒーローの格好良さをアピールすべき第1話でいきなり炎上とは驚きだが、スペクトルマンが主役ではないから構わないのである。

そしてこのスペクトルマンの設定も、たまらなく異色だ。宇宙連合所属の人工二重衛星に住むネヴュラ71遊星人は、未開発惑星の保護と援護の任務に基づき、ゴリの手から地球を守るために1人のサイボーグを派遣する。それがスペクトルマンである。ゆえに地球人・蒲生譲二の姿からスペクトルマンに変身するには、ネヴュラ71の許可が必要なのだ。

時に蒲生が変身を願い出ても許可されないこともあるし、スモッグで空が曇っている際にはネヴュラ71が見えず、そもそも許可を求めることすらできないこともあった。上司に頭が上がらないその立場が、“サラリーマンの悲哀” などと揶揄されることもある。

つまり、ヒーローとしてはアキレス腱だらけなのだが、そのように万能ではないところが逆に魅力だった。颯爽としたウルトラマンや仮面ライダーと比べると、圧倒的な強さで敵をねじ伏せることは少なく、大抵は苦戦しながら2週かかってようやく敵怪獣を退治するに至る。私たちは手に汗を握りつつ彼を応援するしかないではないか。

当時の幼児や少年たちに深い印象を残した “わび・さび” の世界


第1話以降も、その作品世界は独特の薄暗さに覆われ続けた。それは蒲生譲二の二枚目半的なキャラをもってしても如何ともし難かった。光化学スモッグで曇った空を覆う工場の煤煙、ヘドロで汚れた海。そこで繰り広げられるのは、ゴリによってヘドロやゴキブリや白アリやゴミ等から作り出された怪獣と、剛力無双とは言い難いサイボーグの暗闘。人類の進歩と調和を謳ったあの大阪万博の翌年(1971年)とは思えないその “わび・さび” の世界は、当時の幼児や少年たちに深い印象を残した。

しかしやがて、番組名が『宇宙猿人ゴリ対スペクトルマン』から『スペクトルマン』と変わっていくにつれ、ゴリの送り出す怪獣は公害怪獣からフツーの怪獣へと変わり、宇宙怪獣とゴリが手を組むパターンも増えてくる。そして蒲生譲二の勤務先の名称も公害Gメンから怪獣Gメンとなる。今の目で見ると初期のアクが薄まったことは残念だが、後半になるにつれ特撮もストーリーも充実度が増していることからも、子どもたちの(そして放送局やスポンサーの)需要に応えた制作サイドの姿勢を讃えたい。

とはいえ、後半になっても他のヒーローと一線を画した存在感は健在で、例えばダニエル・キイスの名作小説『アルジャーノンに花束を』を翻案した第48話「ボビーよ怪獣になるな!」と49話「悲しき天才怪獣ノーマン」の前後編は、ヒーロー番組の文法を超越した展開が子どもたちを驚愕させたし、第60話「怪獣ドクロン死の踊り」では、蒲生譲二がゴリによってバーナーの火で目を焼かれるという戦慄のシーンで子どもたちを凍りつかせた。

——このように際立った個性を持ちながら、 ウルトラマン、仮面ライダーのような “時を超えた存在” とは言い難いスペクトルマン。だからこそ私たちリアルタイム世代は “ぼくらのスペクトルマン”に独特の愛着がある。そして彼を目にするたびに、私たちをあの1971年という時代へと、瞬時にタイムワープさせてくれる存在なのである。

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