【藤枝市郷土博物館・文学館の「金子みすゞの詩~100年の時を越えて~」展】自筆の「雀のかあさん」に心打たれた
静岡新聞論説委員がお届けする“1分で読める”アート&カルチャーに関するコラム。今回は藤枝市の藤枝市郷土博物館・文学館で8月24日に開幕した特別展「金子みすゞの詩~100年の時を越えて~」から。
26歳でこの世を去った童謡詩人・金子みすゞの生涯と、死後半世紀を経て作品を再び世に問うた矢崎節夫氏の足跡を追う企画展。みすゞの弟・上山雅輔氏が保存していた3冊の遺稿手帳や、そこに書き留められた512編から「月日貝」「もくせいの灯」「こだまでせうか」「星とたんぽぽ」などの写真パネルが展示されている。子雀がとらわれた母雀を淡々と描く「雀のかあさん」に心打たれた。
当たり前の話かもしれないが、同じ会場に展示された絵本の原画より、みすゞの自筆による詩の方が、鑑賞者側のイマジネーションの広がりが大きい。
みすゞの筆跡は読みやすいが、ひらがなが極めて特徴的。特に「ひ」は書き出しの筆の運びが「右→左」でいったん止め、そこから下に膨らみを作っているように見える。こんな「ひ」は初めて見た。
昭和4(1929)年10月から昭和5(1930)年2月まで、長女ふさえのおしゃべりを書き留めた手帳「南京玉」も出品。病が重篤化し、夫から創作を禁じられる中、床に伏せたみすゞの心中を思う。
展示に「南京玉」の一部が抜き出されていた。わが子の成育日記が「最後の創作」だったのか。鼻の奥がツーンとしてくる。
なんきんだまは七色だ、一つ一つが愛らしい、尊いものではないけれど、それを糸につなぐのは、私にはたのしい。
この子の言葉もそのやうに、一つ一つが愛らしい。
人にはなんでもないけれど、それを書いてゆくことは、私には、何ものにもかへがたい、たのしさだ。
(は)
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■藤枝市郷土博物館・文学館
住所:藤枝市若王子500
開館:午前9時~午後5時(月曜休館、祝日の場合は翌日休館)
特別展料金(当日):大人600円、中学生以下無料
会期:10月20日まで