【能登から伝えたいこと】能登には会いに行きたい人がいる~仏壇神興製造販売・木製木彫漆工芸 源内伸秀より~
2024年1月1日、正月の北陸地方を突如襲った能登半島地震。特に能登半島ではその被害が大きく、住宅の傾斜、液状化など、町もそこにある暮らしも、以前と同じではなくなった。同年9月21日、今度は観測史上最大の豪雨が襲った。能登にはもちろん、いまもそこに住む人たちがいる。能登を少しずつ動かし続ける人たちがいる。彼らのメッセージを受け取って、能登のいまを知ってほしい。『旅の手帖』2024年8月号からお送りします。
能登のいまを伝える人:源内伸秀(げんないのぶひで)
石川県七尾市能登島出身。高校卒業後に仏壇彫刻や欄間などを扱う会社に就職し、彫刻をしたり、営業に回ったりしていた。30年ほど前に独立。植物が好きで石川県の絶滅危惧植物の調査員をしており、ゆくゆくは能登島に自然保護センターを作るのが夢。
『能登島自然の里ながさき』
http://notojima.web.fc2.com/
能登には、会いに行きたい人がいる
能登の魅力ってなんだろう? 美しい風景、自然に寄り添う暮らしがある、山海里のおいしいものがそろうなど……。
七尾湾に浮かぶ能登島で、仏壇や神輿などを製造する源内伸秀さんは、「人の気質のよさ」だと言う。能登には人懐っこくて、惚れ込んだらとことん信じてくれ、そして親切な人が多いとも。
「営業に行って気に入られ、座敷周りが全部私の作品になった家もありました」と笑う。
源内さんが住む能登島長崎町は、世界農業遺産に認定された能登の里山里海のなかでも豊かな自然がある場所。石川県の「先駆的里山保全地区」や環境省の「重要里地里山500」にも選ばれて、2009年には住民団体の「能登島自然の里ながさき」も立ち上がった。
最終的には定住者か、少なくとも通って来てくれる人を増やすのが目標だと言い、その核となるのが塩作りだ。
源内さんはむかしながらの塩作りを団体立ち上げと同時に始めた。その味のよさが料理人の間で評判となり、いまでは注文が追いつかないほど。塩を使った味噌や干物、漬物などを作る作業場も完成し、塩を中心とした集落の生業づくりが着々と進んでいる。
そんなとき、今回の地震で集落は甚大な被害を受け、源内さんの自宅も含め、半数近くの家が解体を余儀なくされた。
「どれだけの住人が戻ってくるかわからないのが現状ですが、空き地ができたら、将来的に移住者を受け入れていく環境も整えていかなければと考えています」
里山には人間が耕作することで守られている動植物がある。そして、耕作をやめたことで姿を消してしまう植物もある。源内さんはいま、地震によって能登半島一円に耕作放棄地が急激に増え、希少な植物が失われてしまうことを懸念している。
「地域振興を成功させるには、そこに『会いたいと思う人がいるかどうか』とも言われます。私はそういう人間になりたい」と、人懐っこい表情で笑う。
源内さんが言う能登の気質ってこれなのだろうか。一度会えばその人柄に惹かれて、また会いに行きたくなる。
取材・文・写真=若井 憲