ランドセルをしまわない発達障害息子。先生の注意も、友達の苦情もお構いなし!でも、本人なりの理由があって…
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
「ランドセルをロッカーにしまいましょう!」と何度も先生に注意されたリュウ太は!?
ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉スペクトラム症)がある息子リュウ太は、現在26歳。一昨年結婚しました。5歳年下のお嫁さんとリュウ太の母である私は一つ屋根の下で同居しています。
母の私から見れば今でも立派とは程遠いですが、リュウ太の学童期は特に課題がたくさんありました。小学1年生~小学3年生の期間、担任の先生から「リュウ太くんがランドセルをしまってくれません」と報告を受けること数知れず……。
机の横に置いたり机の上に置いたままだったり、学童帽子も同じく片付けられなくて、教室ではかぶったままだったりします。「ランドセルはロッカーにしまいますよ」と優しく促してくれる先生に対して「やだ!」とか「ムリ!」というような返事しかしなかったのです(先生談)。
注意を受けても動かないリュウ太に先生は言い疲れてしまったのか、「リュウ太くんが自主的に片付けるのを待ちます!」ということなりました。
しかし、なかなかランドセルをロッカーにしまわないのでクラスメイトからは机の横を通る際に「ジャマだな」とか「通りにくい」など文句も出ていました。なのにリュウ太は「仕方ないだろう」と言い返し、通行の迷惑になっていることに気がつきませんでした。
周囲からは自分さえよければお構いなし!という身勝手な行動にみられてしまっていたと思います。
ランドセルをロッカーにしまえるようになったのは小学4年生の時。担任の先生が何度も何度も無視できないほど注意を促してくれたからでした。(えーー!就学してから丸3年間もかかる?ってお思いになる読者もいるかしら、はははは)。
リュウ太にどうして片付けたくないのか聞いたことがあるのですが、こんな理由だったそうです。
「ロッカーは遠いからイヤだよ。ロッカーにしまう、っていうルールがイヤなんだ。自分の持ち物はいつも手に届く場所にないと不安だから机の横に置いているだけ、それの何がいけないの?」
目に入らなくなったものはリュウ太にとってはないものと同じです。あると認識するには常に目に入る位置に置いておかないと失くしてしまう特性があります。
また「失くすとお母さんに怒られるから恐い」という思いから物がないと不安になるとも言われました。はい……私がしつけと称して怒りすぎたことが原因かもしれません。反省です。
この行動はクラスメイトや先生にとって迷惑行為だったと思いますが、リュウ太は小学3年生にして自分の特性に気づきはじめていて、本人なりの物の管理の工夫の一つだったのではないか?とも思いました。
とはいえ、周りから苦情が来てるんだから、周りの声にも気づこうね!と思う母でした。
執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:初川先生より)
リュウ太くん小学校低学年時代のランドセルがしまえないエピソード、ありがとうございます。面白いですね。とても興味深く読みました。見えないところに物があると「ない」となってしまう子いますね。大人でもいらっしゃいますね(ストックを買っても、しまいこんでしまうと存在を忘れて、また安いタイミングで買って、しまおうとしてストックの棚を開けると「あ……」となるような)。ランドセルや自分の持ち物を手元に置いておかないと不安だ、失くしたくない。そういう気持ちがあってのランドセルをそばに置いておく。友逹に苦言を呈されても「仕方ないだろ」という返しなのはそういうことだったのですね(「うるさいなぁ」じゃないのが興味深いです。仕方ないのですね。本人なりに、ランドセルロッカーにしまうほうがいいのは分かっている、しかしできない、だから「仕方ない」といったところでしょうか)。
一口に「片付けができない」「物の管理ができない」と言っても、やり方が分からない、やる気がわかない(めんどくさい)、そして、物が遠くに置かれるのが不安だ、視界から消えるのが不安だというパターンもあるのだなと改めて思いました。小1の頃のリュウ太くんはさすがにそこまで説明できなかったかもしれません。ただ、今回こういったエピソードを知ると、同じように物の片付けで独特のこだわりや難しさを持つお子さんにかける言葉かけのバリエーションが増えるように感じました。視界から消えるのが不安なのであれば、もしかしたら、教室前方の邪魔にならないところにランドセルを収納できる可能性も出てきますね。
ところで余談ですが、このエピソードを読んで、私は子どもが小さかった頃、抱っこ紐で子どもを連れていた時期が長かったので、ベビーカーに乗せて出かけるときはたかだか1メートル程度でも子どもと距離ができることが不安だったことを思い出しました。大切な存在をそばに置いておきたい気持ちは分かる気がします。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。