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『ガールズバンドクライ』シリーズ構成・花田十輝が「バンドもの」で描きたかったこと②

Febri

TOPICS2024.08.27 │ 12:00

『ガールズバンドクライ』


シリーズ構成・花田十輝が「バンドもの」で描きたかったこと②

2024年春クールの衝撃作、東映アニメーション発のオリジナルTVアニメ『ガールズバンドクライ』。その面白さの秘密に迫るシリーズ構成・花田十輝インタビューの第2回は、主人公・井芹仁菜にとってのキーパーソン、桃香とヒナとの関係性を掘り下げる。

取材・文/前田 久

アニメクリエイターインタビュー_TOPICSガールズバンドクライ花田十輝

「仁菜って、あなたそのものだよね」と言われてしまった

――前回(第1回)のインタビューからの続きとなりますが、当初、新メンバーのふたりが動き出す予定だった第4話をまるまる使って、花田さんが仁菜を説得する必要があったわけですね。
花田 第4話は安和すばるがメインのエピソードでしたが、「こいつ(仁菜)には『自分の思っていることがすべて正解じゃないんだぞ』と思わせないとダメだな……」と思いながら書いていましたね。そのあとの第5話でようやく前向きになってくれて「仁菜、お前ひとりに5話も使っちゃったよ……」というのが、そこまで書き上げたときの心の底からの感想でした。視聴者の皆さんもおっしゃっていましたけど、「メンバーが全員揃うのが第6話じゃ遅いよ!」と自分でもツッコんでいました(笑)。

――井芹仁菜というのはそのくらい破格のキャラクターだった。書いている人ですら説得するのが大変って、よっぽどですよね。
花田 でも、吉野弘幸さんと第2話か3話まで放送したくらいのタイミングで会ったときに、開口いちばん「『ガルクラ』見てるよ。仁菜って、あなたそのものだよね」と言われたんですよ(笑)。僕はその認識が全然なかったんだけど(笑)。でも、それを言われて仁菜が面倒くさい理由がなんとなくわかりました。俺だからか、と(笑)。

――あはは……。
花田 ある意味、この作品を書きながら、延々と自分との対話をしていたのかもしれないですね。でも、「こいつ、面倒くさいヤツだけど、飽きないなぁ」というか、今までに書いたことがない主人公なので楽しい感触がとても強くあったんです。とくに第2話を書いたときにそう感じたのと、次の第3話で桃香がライブの直前に言う「お前は成功しようが失敗しようが、どっちにしろ後悔する」というセリフ。あのセリフを書いたときに「このキャラクターはこれだ!」とつかめて、その先のストーリーを書いていく勢いがついた。そうした体験もあったので、仁菜のキャラクター性へのこだわりが強かったのかもしれないです。

「学校じゃないところでの話を作りたい」と思っていた

――桃香についても聞かせてください。彼女のキャラクターはどこから生まれたんですか?
花田 桃香は「自分と同じ精神性を持っているんだけど、自分より前を歩いていて、先に挫折を経験してしまった人」を主人公に対して置きたい、という意図で設定したキャラクターです。仁菜から見て、現実を知っている人、大人の世界を知っている人であることを、書くときはつねに意識していましたね。これも、最初からこの作品でやりたいことのひとつだったんです。「学校じゃないところでの話を作りたいな」と。

――ああ、学生と社会人の差ですか。
花田 ずっと学校が舞台の話を書き続けていましたからね。主人公が学校から飛び出したことで、学校ではない、社会をちゃんと知っている人と初めて接する……そこは仁菜と桃香を書くうえでずっと意識していました。改稿を重ねるうちにけっこう削ってしまったんですけど、桃香がバイトに行ったり、ご飯を奢ってくれたり、そういうところで仁菜がその差をたびたび感じる瞬間を入れていたんです。それで「桃香さんから見たら私たちって仲間に見えていないんじゃないか? 子供に見えているんじゃないか?」と仁菜が意識して「やっぱり大人ってすごいな」と思わざるを得なくなる。こういう話も、いつかどこかで書きたいとずっと思っていたんです。

――そこにも強い思いが込められていたんですね。
花田 ただ、その一方で桃香自身の中には当然、葛藤もある。挫折を経験して「現実はそんなに甘くないぞ」とわかったうえで「どうにかしなきゃ」ともがいている20才そこそこの女の子でもある……それが第8話で浮き彫りになるのですが、あの展開も、脚本を書き始めた頃からぼんやりと考えていました。上京してすぐの頃の無敵感というか「頑張ればどうにかなる」と思えている仁菜に対して「そんな簡単じゃない」とずっと不安を抱えている子として描きたかった。ダイヤモンドダスト(ダイダス)というガールズバンドがあって、仁菜が彼女たちのファンだったという設定を作ったのが、順番としてはあとでしたね。

――第8話で仁菜が桃香を説得する際の「私を言い訳にするな」というロジックがとても好きなんですが、ふたりの関係性を決めた時点で、ああいうやりとりがどこかに入るとイメージしていたのでしょうか? それとも、脚本を書くうちに膨らんだ要素なのでしょうか?
花田 脚本を書く際は「ハコ書き(脚本のシーンごとの要素や展開をまとめたもの)」を作るんですが、僕の場合、会話に関してはそこで先に書いちゃうと、絶対に面白くならないんですよ。だからあまり決めないで書いていくことが多いんですけど、ストーリー的に、とにかく桃香に対して仁菜が「私がいるんだから、その初期衝動で行けよ!」とひたすら迫るかたちにしようとは決めていました。「本当にお前、あきらめるのかよ!」と突きつけられる話にしよう、と。「かわいいな〜」と思って仁菜に接していたら、思った以上にグイグイきて、近づけば近づくほどに面倒くさい……漠然としたイメージはそんなものでした(笑)。面倒くさいというか、自分の中で曖昧にして隠している部分をとにかく覗こうとしてくる、みたいな。

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「悪役を倒せば平和になる」ような話にはしたくなかった

――では、ダイダスの3人と桃香の関係性はどのように考えていたのでしょうか?
花田 ふたつあって、まずひとつは、桃香とダイダスの関係は基本的にどっちが悪い、というかたちにはしたくなかったんです。ダイダスはダイダスで頑張っている。桃香も脱退したとはいえ、その邪魔をしたくないと思っているし、向こうも桃香のことをとくに憎いとも思っていない。そんな関係性にしたかった。なぜかというと、仁菜の視点だとダイダスの3人が悪いやつで、桃香がいい人で3人に追い出された、という構図を絶対に想像するはずなんです。でも、現実ってそんなに簡単な話じゃないですよね。

――ですねえ……。
花田 それを仁菜にもわからせたかったし、桃香としても、どっちも悪くないだけに自分の中で踏ん切りがつかない、という構図にしたかったんです。そしてもうひとつが、この作品を「悪役を倒せば世界が平和になる」みたいな話には絶対したくなかった。それはもう、はっきりと最初からありました。仁菜はいじめを経験していることもあって、ことさら「世の中には悪いやつといいやつがいて、悪いやつが邪魔をしているからうまくいかないんだ」と幼い感覚で思いがちなんです。彼女が「そうじゃないんだ」とバンド活動を通じて知っていく話にしたいというのが、大きなテーマとしてあったんですよね。だからダイダスに限らず、終盤の中田さんや三浦といった他の大人たちも、そのあたりは強く意識して書いていました。

――バンドを語るとき、商業主義的なセルアウトしたバンドと、そうじゃないDIY精神でやっているインディペンデントなバンドとを二分法的に対比させがちですが、そんなに単純ではないことはバンド文化に深入りするほどに見えてきますよね。
花田 実際のバンドの解散って大抵、ひと筋縄ではいかない感じがすごく伝わってくるじゃないですか。本当に「あいつが悪い」と言い合って別れているというよりも、もうちょっと複雑な人間模様で解散している。なので、この作品でもそう簡単な構図にしたくないなという思いがありました。あとはバンドものの映画などを見ていると、よく大人の象徴みたいな嫌なレコード会社のプロデューサーが出てきて「お前らの音楽性じゃ売れねえんだよ!」みたいなことを言うじゃないですか。とにかくあの展開はやりたくなかったんですよ。見るたびに「それで話が解決するなら世の中簡単なんだよ……」と思っていました(笑)。そうじゃないから面倒くさいんじゃん、ということを描きたかったし、学校ものじゃない作品をやれると決まったときから、社会の縮図として絶対に見せたかったんですよね。

初稿では最終回まで存在していなかったヒナ

――仁菜と因縁のあるヒナがダイダスに加入している展開は、どうやって出来たんですか?
花田 これがたぶん、いちばんすごいところで……ヒナって、じつは初稿だと最終回までいないんですよ。

――なんと! それはたしかに驚きです。
花田 最初、「桃香の歌が正しいことを証明するために仁菜が頑張る」話として、このアニメは構想していました。でも、ダイダスも悪いやつらじゃないとなると、桃香とダイダスの間にはそれほど強い因縁がなくなって、仁菜のモチベーションが微妙になってしまったんです。「いったいこいつは何を目的にこの先、歌っていけばいいんだ?」と。「私、やっぱり歌が好き!」って感じの子でもない……というか、そっちに持っていくと、仁菜の魅力ってなくなっちゃうし、さて、どうしよう?となったんです。

――わかりやすい敵がいないと、ストーリーを進ませるのは難しいですよね。
花田 第11話、第12話まで書いたあたりで「やっぱり、なんか悪いプロデューサーを出して、それをやっつける話にするか?」みたいな構成も考えました。平山さんや酒井さんとも話して、一度そういう脚本を書いてもみたんです。でも、出したら即、なかなか激しい勢いで「これはない!」とふたりに却下されました(笑)。そこまできてようやく「仁菜には仁菜の因縁があるよな」と思いついて生まれたのがヒナですね。思いついた翌週には「すみません。第3話くらいまで戻って書き直してもいいですか?」と平山さんと酒井さんに相談して、第3話からゼロ稿に戻して書き直しました。

――ひえぇ……。
花田 ただ、それでも正直なところ、最初は自分でも「さすがにダイダスのボーカルに収まっているのは、ご都合主義すぎるよね」と思いました(笑)。もう少しなんとかしたいなとも思ったんですけど、第1話まではさすがに戻れないし、ああいったかたちで登場させるのがベターかなと。仁菜がなかなか気づかないように、髪をピンクにするなど工夫したのはスタッフの皆さんのアイデアで、感謝しています。

――衝撃的です。それでいてヒナはヒナなりの筋が通ったキャラクターになっていますし。
花田 その時点で脚本的に桃香とダイダスの話だったり、仁菜と他の子たちの話だったりにある程度ケリがついていたから、そこはむしろ考えやすい部分ではあったんですよ。出来上がっていたストーリーに、あとからヒナを流し込むようにして書くことができました。書き終えたときには、思ったよりもいいキャラクターになったから大丈夫なんじゃないかなと思えましたね。

花田十輝はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』『宇宙よりも遠い場所』などがある。第3回に続く作品情報

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トゲナシトゲアリ 2nd ONE-MAN LIVE『凛音の理』

[開催日時]
2024年9月13日(金) 開場17:00/開演18:00

[会場]
川崎・CLUB CITTA’

[配信チケット詳細]
https://girls-band-cry.com/news/post-213.html

©東映アニメーション

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