昭和と令和の誘拐事件で描く、父と子の確かなつながり~三人芝居『6006』ゲネプロレポート
三人芝居『6006(ロクゼロゼロロク)』が2024年7月31日(水)、東京・博品館劇場で開幕した。東映がプロデュースする少人数芝居企画。『悪夢のエレベーター』『仮面ライダーリバイス』などを手掛けた木下半太が作・演出を務め、梅津瑞樹、陳内将、赤名竜之介が昭和60年と令和6年に起こる2つの誘拐事件を描いたサスペンス・コメディに挑む。初日直前に行われたゲネプロと、囲み取材の模様をお伝えする。
タイトルの数字は、誘拐事件が行った昭和60年と令和6年に由来するもの。時を超えて巻き起こる、同じ場所での二つの事件。会話劇がよく映える密室でのワンシチュエーションで展開される。
舞台は昭和60年からスタート。バブル景気の到来を象徴するホテルの建設現場、鳴り響く昭和のアイドル歌謡曲、流れているのはラジカセから。昭和へタイムスリップしたような心地に。明るく爽やかな真夏の雰囲気から一転、誘拐事件の現場となり一気に空気が張り詰める。
人質となったのは、梅津演じる有名なプロ野球選手・時実(ときざね)。犯人である矢野(陳内)はスポーツ新聞記者、石上(赤名)は駆け出しの演歌歌手らしい。拉致、監禁、拘束、身代金要求、交渉……誘拐の犯行工程とスピード感が絶妙にマッチし、人間模様の絡み合いによるドタバタも相まったコメディ要素が抽出されていく。ヒリつく駆け引きにより場の支配者が次々と入れ替わり、予測不能の展開に翻弄されてしまった。
犯人と人質、その息子たちが令和で顔を合わせることになるのが第二幕で描かれる誘拐事件だ。登場するのはYoutuberと元売れっ子アイドル、追い詰められた“無敵の人”。昭和60年では公衆電話や紙の地図を駆使していたが、令和6年にはスマホやタブレットが使用される。時代背景により変化した要素が、昭和と令和のそれぞれを生きる男たちの個性を際立たせる。父と子、まるで違う性格かと思いきや、面影が重なる瞬間も。一幕から通ずる目に見えぬつながりは、観客の心を揺さぶってくる。
最大の見どころは、三者三様のキャラクターを一幕と二幕、2役を担ったキャスト陣の熱演だ。快活で爽やかなスポーツマンを演じたかと思えば、突き抜けた根暗を開放的に表現したのは梅津。人物像の枠組みを内側から押し広げていくような、強烈な遊び心が輝いていた。自在な緩急で場を翻弄する陳内は、技巧派っぷりを遺憾なく発揮。ささやかな変化による多大な波及力を見せてくれる。ひときわ重厚感が際立ったのは赤名だった。弱気と強気、頼りなさと頼もしさといった相対する要素のコントロール力にワクワクさせられた。
サスペンスとコメディ。相反する性質のジャンルを同居させるには、綿密なバランス感覚が必要となる。脚本を手掛けた木下による巧妙な構成、3名の役者による惜しみない攻めた芝居力が見事に一つのエンターテインメントとして集結していた。
イープラスが運営するライブ配信サービス「Streaming+」では2024年8月4日(日)の13:00公演(特典コメント映像付き)、18:00の千秋楽公演の配信が行われる。アーカイブ視聴も可能なので、伏線回収などサスペンスならではの醍醐味を何度も味わってほしい。
ゲネプロ前には囲み取材が行われ、キャスト陣と作・演出の木下が公演に向けた意気込みなどを語った。
ーーまずは、初日を迎える心境と意気込みをお聞かせください。
梅津:出来上がったものを早くお見せしたいと、本読みの日からずっと思っていました。約1カ月の稽古を経て、ようやくお見せできる日を迎えた。たくさん笑っていただいて、胸がキュッとなるような何かを持って帰っていただけたら。
陳内:朗読劇では経験したことがあるが、演劇としての三人芝居は人生初。8公演という限られた時間ではありますが大好きなキャストと、小説家としてもファンだった木下半太さんのもとでお芝居ができるのは本当に幸せなことです。何かしらの明るい一歩を、皆様にお渡しできる作品になれたらと願っております。
赤名:三人芝居は初めての経験で、稽古が始まるまでとても緊張していました。不安もたくさんありましたが演出の木下さんをはじめ陳内さん、梅津さんと稽古を進める中で自信を持つことができ、今は早くお客様に見ていただきたい気持ちでいっぱいです。最後まで気を引き締めて、ケガなく頑張りたいです。
木下:とにかく面白い舞台ができたと自負しています。男三人芝居をやりたいというお話をいただいた際に「息子と父親を演じ分けさせたい」というアイデアを出しまして、前半と後半で昭和と令和を演じ分けるという、かなり難易度の高い舞台となっております。ただの父と息子の物語では終わらない、昭和にあった何かや令和にはない何かなど、今を生きる人たちに刺さる物語ができたと思います。俳優たちが本当に頑張ってくれたので、お客さんの反応を早く知りたいです。
ーー本作の見どころ、注目のポイントを教えてください。
赤名:半太さんがおっしゃったように、親と子を一人で二役演じるところ。こんな風に演じる機会はこの先おそらくないだろうなと思いながら、すごく新鮮な気持ちで稽古をしてきました。僕が演じる石上は昭和で起きた出来事をどう受け取って、どう子供に伝えていくのか……どう表現するのかというところを、ぜひ注目してみていただきたいです。
陳内:一幕で見たものと似て非なるものが、令和を描いた二幕で描かれる。違いや同じもの、同じ匂いがするものにお客様はドキドキが止まらないはず。半太さんのサスペンス・コメディならでは“そこではまだ終わらない”ドタバタ感を、精いっぱい表現できたら。全員のチームワークを合わせて、お客様をいい意味で裏切っていきたいです。
梅津:一人二役、父と子を演じ切ることも面白いですし、各キャラクターも立っている。ビジュアル面でも昭和と令和の違いも含め、時代に対する愛を持った作品です。会話劇ということで、会話の妙を楽しめて笑えるポイントも多い。自分の日常会話もこれくらいウイットに富んで面白ければいいなと思うくらい(笑)。存分に笑って楽しんでいただけたら。
ーー作品にちなんで、もし昭和にタイムスリップできたらやりたいことは?
梅津:僕はバブルの時代で、土地を転がしてみたいです。バブリーを体感したい。
陳内:(ディスコの)ジュリアナ東京を実際見て、どれほどの熱気だったのかを体感してみたいです
梅津:いいですね。今のTikTokでバズってるダンスを披露したら、一世を風靡するかもしれない(笑)。
赤名:僕は、昭和当時の父と母に会いたいです。
陳内:おっ、いいエピソード!
赤名:(笑)。2人の若い頃、イケイケ時代に会ってみたいですね。
木下:いろいろ会いたい著名人はいますが、僕は昭和生まれなので子供のころの自分に会いたいです。過去の自分を自分で見るのは、タイムスリップの醍醐味なので。当時の自分に声をかけるなら、芸能の仕事は絶対やめとけって言います(笑)。
最後に梅津が「配信もありますので、皆さんには何度も、たくさん見て楽しんでいただければ」とアピールした。
取材・文・撮影=潮田茗