思い立ったが吉日! 関節を守る1日1分ストレッチで一生動ける体を手に入れよう
「階段を上がるときにひざが痛い」「五十肩で腕が上がらない」など、関節の痛みに悩んでいませんか? 人間の体は、生物学的にみれば50歳より前に寿命を迎えるという説もあるので、30代後半から体の機能保持のための運動を始めるのがおすすめです。
慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授、橋本健史さんの著書『NHKまる得マガジンMOOK 37歳越えたら始めどき! 関節の寿命を延ばす 1日1分ストレッチ』から、元気な関節をキープするための簡単なストレッチやトレーニングを一部ご紹介します。
それって、もしかしたら“思い込み”⁉
関節 〇(マル)? ×(バツ)? クイズ
ますは、クイズにチャレンジ! 私たちの体が動けるのは、元気な関節があってこそ。その関節について、どのくらいご存じでしょうか?
Q1.若いうちは関節のことを気にかけなくてもいい?
Q2.関節の軟骨はすり減ったら、二度と戻らない?
Q3.年をとれば関節痛が起こるのはしかたがない?
Q4.関節痛が1か月間続いたら、安静にすべき?
Q5.ランニングはとにかく健康にいい?
答えは……
A1.×(バツ)
関節が老化するのは30代後半から。若いうちに対策を始めることが大切です。
A2.×(バツ)
最新の研究により、関節をゆっくり動かすことで軟骨の細胞が再生することがわかってきています。
A3.×(バツ)
関節を守るトレーニングをすることで、高齢になっても痛みを遠ざけられます。
A4.×(バツ)
慢性的な痛みであれば、むしろ関節を動かしたほうが回復しやすくなります。
A5.×(バツ)
ひざの関節に関していえば、「歩くこと」より激しい運動は、負荷が大きすぎます。
関節にまつわる誤解が解けたでしょうか? 今、痛みを感じている人も、将来の痛みを予防したい人も、「1日1分ストレッチ」、スタートです!
関節の寿命を延ばす「1日1分ストレッチ」とは?
◎37歳以上のすべての年代におすすめ!
人間の体は、生物学的にみれば、50歳より前に寿命を迎えるという説があります。私の臨床医としての実感では、30代後半が、病気やけがが増えるターニングポイントです。そのため、37歳くらいを体本来の寿命と考え、その年代から機能保持のためのストレッチや簡単なトレーニングを始めることをおすすめしたいのです。
とはいえ、50~60代、いや80代の人でも始めるのに遅すぎることはありません。どの年代の方でも、行うことで今の体の機能を保持できます。いずれも手軽なものばかりで、一般的な筋トレや体操よりも、体に負担をかける心配がありません。
◎関節を守り、軟骨を元気にする!
関節の骨と骨の継ぎ目には「軟骨」があり、さまざまな衝撃を吸収してくれています。しかし、年齢とともに軟骨がすり減ってくると、骨同士がぶつかって変形したり、軟骨自体が関節から飛び出したりします。それが神経を刺激するため、高齢になると関節が痛くなるのです。
筋肉には血管が張り巡らされていますが、軟骨には血管が1本もありません。軟骨に栄養を届けるのは、関節内を満たす「滑液(関節液とも)」です。紹介するストレッチや簡単なトレーニングでは、滑液を軟骨にしみこませるため、関節をゆっくり動かし、関節に負荷をかけないように、曲げる角度を制限します。これらの運動は、一生歩ける体のために、関節の寿命を延ばす運動なのです。
◎いくつになっても筋力アップ!
一生歩ける体と健康な関節をキープするためには、ある程度筋力も必要です。筋力があれば、関節にかかる負荷を軽くし、軟骨の寿命を延ばすこともできます。
とはいえ、普通の筋トレはハードすぎて、続けるのが難しかったり、けがをしやすかったりもします。そこでおすすめするのが、この運動。無理なく安全に筋肉を鍛えられ、血液循環をよくすることができます。血液循環がよくなれば、筋肉と、筋肉を骨につなぐ「腱」に栄養と酸素が行き渡り、細胞が活性化します。
筋肉は何歳になっても増やせることがわかっています。「もう年だから」とあきらめず、必要な筋肉を手軽に鍛えられる簡単なトレーニングを始めましょう。
Part1 首
スマホに夢中で姿勢が悪くなっていませんか?
スマホの見すぎは、首のこりの原因に
人間の頭の重さは、成人で5キロ前後。常にまっすぐの姿勢ならいいのですが、前かがみになっているときは、重い頭を支えるために、首の後ろの筋肉はギュッと収縮します。すると、血液循環が滞り、老廃物がたまって痛みが生じます。これが「首がこる」という状態です。ちなみに、首と肩の筋肉はつながっていて、肩こりがあれば首もこっています。
今、スマホの見すぎで首や肩のこりを訴える人が増えています。こりがひどくなると、頭痛や吐き気も出てきて、さらに頸椎(首の骨)の障害にまでつながりかねません。首の筋肉をストレッチして血液循環をよくし、こりを解消しましょう。
また、頭を支える力を強化するために、首の周りの筋トレも有効です。首の前側の筋肉(胸鎖乳突筋)と後ろ側の筋肉(頭板状筋、僧帽筋)をバランスよく鍛えましょう。もちろん、姿勢を正すことも心がけてください。
こんな人におすすめ「首のかんたんストレッチ」
□スマートフォンを使う時間が長い。
□長時間デスクワークをしている。
□気づくと背中が丸くなっている。
□首や肩、腕がしびれることがある。
□首を後ろに反らすと痛い。
【お祈りストレッチ】
首から背中に広がる僧帽筋をストレッチして、首のこりを改善します。僧帽筋をほぐすためには、肩甲骨を大きく動かすこと。ガチガチにこり固まった筋肉の血液循環が回復し、首と肩が軽くなります。
Part2 腰
筋トレと称して、いわゆる「腹筋運動」をしていませんか?
ハードな「腹筋運動」は、腰椎を傷めるおそれあり
腰痛は原因不明のケースが多いのですが、その大部分に腰椎の老化が関わっていると考えられています。椎骨と椎骨の間にある椎間板(軟骨)は、年齢とともに潰れてきて、少し腰を曲げただけで後ろに飛び出しやすくなります。それで神経が圧迫されて起こるのが、典型的な腰痛の一つです。
加齢にともなう腰痛を遠ざけるためには、腹筋(腹斜筋、腹直筋など)と背筋(脊柱起立筋、多裂筋など)を鍛えること。腰には肋骨がないので、腰椎を支えるためには周りの筋肉の力が必須です。とはいえ、一般的な腹筋運動や背筋運動は、かえって腰椎を傷めるおそれがあります。また、ハードすぎて続けにくいことも問題です。
そこで、誰でも楽にできて、腰椎にかかる負担の少ないストレッチや簡単なトレーニングを行いましょう。腰に違和感がある人にも、まだ痛みも何もない30代後半の人にもおすすめです。
こんな人におすすめ「腰のかんたんトレーニング」
□1日のほとんどを座って過ごす。
□中腰で作業をすることが多い。
□うつぶせで寝ることがある。
□寝返りを打つのがつらい。
□長く歩くと、足にしびれや痛みが出る。
【かんたん腹筋トレーニング】
頭を起こすだけで簡単に腹筋を鍛えられるトレーニング。腰椎を動かすことなく、筋肉だけに力を入れるので、腰痛のある人でも楽に取り組めます。腹直筋と腹斜筋を意識して取り組みましょう。
あおむけになってお尻を高く持ち上げる「バックブリッジ」は、背筋が鍛えられますが、腰椎には大きな負荷がかかります。30代後半になったら、お尻をほんの少し上げる動きに切り替えましょう。脊柱起立筋と多裂筋、腸腰筋の筋トレになります。
著者:橋本健史(はしもと・たけし)
1959年千葉県生まれ。医学博士。専門は整形外科(足の外科)・スポーツ医学。1984年慶應義塾大学医学部卒業、整形外科学教室へ入局。1994~1995年スウェーデン王立カロリンスカ研究所へ留学、歩行解析を中心としたバイオメカニクスの研究を行う。2020年より慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授。
◆『NHKまる得マガジンMOOK 37歳越えたら始めどき! 関節の寿命を延ばす 1日1分ストレッチ』より
◆著者 橋本健史
◆撮影 神ノ川智早
◆スタイリング 須田遥華
◆ヘアメイク AKI
◆モデル 奥泉文子(SOSモデルエージェンシー)