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原田知世 初のフルアルバム「パヴァーヌ」映画 “早春物語” を経て歌手としても成長

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1985年11月28日 原田知世のアルバム「パヴァーヌ」発売日

多彩な作家やスタッフが精巧に作り上げた芸術作品


80年代アイドルが今も人気を保つ理由の1つとして、職業作家ではないアーティストが楽曲制作に参加したことが挙げられる。フォーク、ロック、ポップス系のアーティストたちがアイドル歌謡に続々と参入し、時代の流行を取り入れた音楽をアイドルに提供したことが作品性を高めていった。アイドル本人はもちろん、作詞家、作曲家、編曲家、演奏家、そして全体を指揮するプロデューサーやディレクターたちが総力をあげて作り上げたアルバムには、今も聴かれ続ける名盤が多い。

そうした80年代アイドルのアルバムで私が推したい1枚が、1985年11月に発売された原田知世のアルバム『パヴァーヌ』である。この作品は、歌い手としての原田の魅力を最大限に引き出すため、多彩な作家やスタッフが才能を投じ、精巧に作りあげた芸術作品だと思う。80年代の原田知世は現在サブスクでは聴けないが、もっと聴かれてほしいという願いを込め、この作品を紹介したい。

女優活動の区切りを好機にフルアルバムを制作


その前に、当時の原田知世が置かれていた状況を、簡単に振り返りたい。1985年の原田は、4作目の主演映画『早春物語』の収録を終えた後、女優活動も一段落し1つの区切りを迎えていた。

もともと角川映画の女優としてフル稼働していた原田は、映画主題歌をシングルで発売してヒットを連発したが、アルバムについては数曲が収録されたミニアルバムを2枚出したのみ。そのため、『早春物語』の収録が終了した1985年後半は、アルバム制作に本腰を入れる好機だった。言い方を変えれば、原田知世という素材から歌手としての魅力を引き出すチャンスが到来したのである。

豪華な作家たちが「パヴァーヌ」制作のために結集


こうした背景から、原田知世初のフルアルバム『パヴァーヌ』は、豪華な作家陣を集め、精密に作られてゆく。ディレクターを務めたCBS・ソニー(当時)の吉田格は、アルバム制作にあたり、まず歌詞の世界観を決めたという。それは、彼女が持つ透明感を出した「ヨーロッパっぽい世界」というもの。これを具現化するため、吉田は「天国に一番近い島」や「早春物語」を作詞した康珍化にリリック・プロデュースを依頼する。音楽ではなく歌詞のプロデュースは珍しいが、吉田の世界観を康が言語化して作詞家に発注したのだろう。制作への徹底したこだわりが伝わってくるようだ。

また、当時のLPレコードの形状を活かし、編曲家をA面、B面で統一した。「Water Side」と名付けたA面は萩田光雄、「Light Side」と名付けたB面は井上鑑が、全曲のアレンジを担当。作詞家と作曲家も曲ごとに変えた。作曲家の顔ぶれは、山川恵津子、かしぶち哲郎、佐藤隆、大貫妙子、中崎英也、水越恵子、加藤和彦、伊藤銀次、岸正之、REIMY、大沢誉志幸と、豪華そのもの。ジャケットの帯には曲とともに作家が記載され、作品性が強く意識されている。

極め付けは、エグゼクティブ・プロデューサーに角川春樹、スーパーバイザーに酒井政利を迎えていること。ジャケットにも、制作者の一番上に両名がちゃんと記載されている。原田知世のフルアルバムへの期待は、それくらい大きかったのだ。

エスニックからシティポップまで多彩な全11曲


こうして、多くの作家とスタッフの力を結集した『パヴァーヌ』は、原田知世の18歳の誕生日に発売された。彼女が大人の入口に立ったのを機に、満を持して世に放たれたのである。

では、アルバムに収録された全11曲を紹介したい。

萩田が編曲したA面は、全体的にクラシカルで落ち着いた雰囲気の曲が並ぶ。メルヘンチックな「水枕羽枕」と「羊草食べながら」に続き、佐藤隆の独特のメロディーが耳にこびりつく「姫魔性」、大貫妙子が作詞・作曲し、吉田が傑作と評した「紅茶派」、シングルを舞踏っぽくアレンジし直した「早春物語」、そして原田自ら作詞した「夢七曜」と、A面だけで聴きどころが満載だ。

一方、井上が編曲したB面は、シティポップ風で明るめの曲調へと変化。シンセを駆使したエキゾチックで賑やかな音作りが井上らしい。1曲目の「カトレア・ホテルは雨でした」はチャイニーズ風で、2曲目の「ヘルプ・ミー・リンダ」は英語の歌詞。原田は作詞した当山ひとみから発音指導を受けたそうだ。続く「いちばん悲しい物語」と「ハンカチとサングラス」は、物悲しいメロディーに載せて歌詞をじっくり聴かせる癖になる曲。ラストの「続けて」は大沢誉志幸によるロック調のサウンド。彼女の新境地が感じられる曲だ。

各作家が原田に提供した楽曲はエスニックからシティポップまで多彩。萩田、井上両氏のアレンジも、音の玉手箱のようで見事だ。康がプロデュースした少女らしい世界観によりアルバムの統一感も保たれている。そして、作家やスタッフが作り上げた精巧な作品に息を吹き込んだのが、原田の透明で感情を込めた歌声であった。

歌手としての原田を成長させた「早春物語」


原田知世の歌唱は、それまで少女らしく素直に発声していた印象が強かった。しかし、このアルバムでは声に感情が込められ、曲によって声を絞ったりトーンを変えている。

これは、映画『早春物語』の影響ではないかと、私は思う。この映画は、澤井信一郎監督が原田知世を女優として開眼させた作品として知られ、原田の背伸びした演技も話題になったが、監督からは演技を厳しく指導されたららしい(これについては高橋みき夫さんのコラム『原田知世主演「早春物語」自ら主題歌も歌う角川映画10周年記念作品』に詳しい)。この経験が歌唱に活きてアルバムの作品性を高め、歌手としての原田を成長させたように思えるのだ。

それを実証するかのように、翌年から原田は歌手活動を本格化させる。1986年3月発売のシングル「どうしてますか」で少女時代に区切りを付けてからは大人の女性シンガーの道を突き進み、コンサートツアーも開始する。『早春物語』で背伸びした演技を経験した知世にとって、大人のシンガーへの移行はスムースだったはず。それは、少女時代の “歌手” としての役柄を『パヴァーヌ』という作品で演じきり、未練を断ったことも影響していると思うのだ。

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