転校も覚悟した面談で涙。親の先入観を覆した自閉症娘の成長、胸震えたお祭りでのハイタッチ
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
「お話会」でまゆみの特性を説明。親も毎日緊張していた1学期
就学相談で「特別支援学校が相応」との判定を受けながらも、私たちは熟慮の末、まゆみを地域の小学校の知的障害特別支援学級に入学させる道を選びました。
まゆみは入学初日は号泣だったものの、翌日からは行き渋りもなく学校へ通ってくれました。遠巻きにまゆみを見ていた同級生たちにまゆみの特性を理解してもらうために、先生方は、私自らまゆみについて説明する「お話会」を開いてくださいました。そのおかげもあり、みんながまゆみを受け入れてくれ、順調に行ったように思えた1学期。
しかし、その裏側で、親である私は常に綱渡りをするような気持ちでドキドキバクバクと毎日を過ごしていたのも事実です。日々の小さな課題に一つひとつ向き合い、先生と連携を取りながら対応策を考えるのに精一杯で、心身ともに休まる暇もないまま、あっという間に3ヶ月が過ぎていきました。
そして1学期末、夏休み前の面談がやってきました。
「もし先生が今後があまりに大変と予想されるなら、2年生から特別支援学校へ転校することも視野にいれなければ……」そう思いながら、私は面談に臨んだのでした。
1学期末の個人面談、特別支援学校への転校は必要?
緊張しながら向かった個人面談では、先生から意外な言葉をいただきました。
交流級では支援員がついているが、特別支援学級では児童3人に対し先生一人で対応できている困りごとがあっても、対応すれば本人もある程度は柔軟についてきてくれる多少落ち着かなくなる時はあるが、シリコン製の感覚咀嚼用おもちゃやイヤーマフといったグッズやクールダウンスペースを活用すれば大丈夫そうクールダウンスペースも、必要だったのは最初の頃だけで、最近はあまり使っていない一緒に遊んだりできるわけではないが、友達の輪に入るのは嫌ではなさそう正直なところ、もっと手がかかるのかと思っていた
私の住む自治体では、次年度に転校する場合は8月までに教育委員会に申し入れる必要があるため、この期末面談は大きな判断材料になります。とりあえず来年度はこのままでよさそう……と、安堵で膝の力が抜けてしまいました。
初めての夏休み
せっかく身についた学校生活のリズムが夏休みで崩れてしまうのは心配でしたが、8月はまゆみの睡眠障害がひどかったので逆に夏休みで助かったといえるかもしれません。
「無理だったらしなくても大丈夫ですよ」と言われていた夏休みの宿題も、放課後等デイサービス(放デイ)のおかげでみんなと同じ量をこなすことができました。かなり補助は必要でしたが、ポスターや自由研究にも本人なりにしっかり取り組んでくれたので、させようとしてもできない時代に長く寄り添ってきた身としてひそかに感動していました。
隣町の夏祭りにお邪魔した時は、同じ小学校の子ども達が何人も「まゆみちゃん!」と声を掛けてくれて、ここでも多くの子がハイタッチしてくれました。「おはよう」や「こんにちは」が上手く交わせないまゆみにも挨拶に代わる手段があり、それを周囲が知ってくれていて、当然のように関わりに来てくれることに胸が震えました。
結局、そのお祭りでは人の多さでまゆみがパニックを起こしてしまい、私たちだけ早々に撤収したのですが、暗い気持ちにならずに済んだのはそうした子どもたち同士の関わりが心に残ったからです。
一緒に遊んだりおしゃべりすることはできなくても、顔を知ってもらっていて声を掛けに来てくれる、そんな関係がまゆみに生まれていることが堪らなくうれしかったのです。
2学期が始まった今、思うこと
1学期にはなんとかなった学習も、2学期になって理解が難しくなってきているのを感じます。
まゆみは分からないことをやらされると怒り出す傾向があり、怒ると落ち着くまでに時間がかかってしまうので、今後は基礎の反復をメインに、様子を見ながら新たな内容を組み入れる方向で学習内容を調整中です。
また、最近では高学年の子から「まゆみちゃんが大好きです。できたら土日や放課後もまゆみちゃんと遊びたいのですが、どうですか」とお手紙をもらうというビッグニュースがありました。
これには本当に驚きました。そして、心のどこかで「挨拶してくれるだけでもうれしい、まゆみと遊びたがる子はいないだろうから」と思っていたことにも気付かされて、自分の中にあった卑屈な先入観を恥じ入りました。私が考えるよりもずっと、まゆみの世界は広がっていたようです。
もちろん、みんながみんな積極的に関わってくれるわけではありませんし、それでいいと思っています。
まゆみを知ってくれる子、まゆみと関わろうとしてくれる子がいてくれるのがうれしく、私にとっての希望にもなっています。
選択した就学先がその子に合っていたかは、長い時間をかけなくては分からないものだとは思いますが、少なくとも今のところは「この学校の特別支援学級にして良かった」と感じています。完全な手探り状態でこの先もどうなるかは分かりませんが、ここまでの私とまゆみの歩みがどなたかのご参考になれましたら幸いです。
記事を読んでくださり、ありがとうございました。
執筆/にれ
(監修:井上先生より)
1学期を終えたあとの面談は不安だったと思いますが、先生のポジティブな評価にとても勇気づけられたのではないでしょうか。お母さまのクラスメイトたちへのかかわり方の説明も具体的で適切であったことがお祭りでの子どもたちの様子から分かりました。集団に合わせていく力も引き出しつつ個別的な配慮もうまく使いながら、小学校生活を楽しめるとよいですね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。