4割が不登校経験者…コンブのマチの小さな高校が築いた「居場所」が閉校へ
今、地方から学校が消えていっています。
人口減少が進む中、廃校になる公立学校の数は都道府県別で北海道が最も多くなっています。
そんな廃校になる学校のひとつ、江戸時代から続く産業を支え、子どもたちの居場所になっている高校を取材しました。
潮の香りが漂うこの地は函館市に編入される前は南茅部町と呼ばれていました。
人口は約4000人。
10ある漁港から毎日多くの漁船が行き交う、全国屈指のコンブ漁業の町です。
この地域唯一の高校、南茅部高校。
生徒はわずか17人。全員が地元で育ちました。
南茅部高校の生徒はクラス全員が幼なじみです。
漁業の町ならではの独自のルールがあります。
その名も、「逆サマータイム」。
コンブ漁を手伝う生徒たちに合わせて、学校の始業時間を1時間遅くするものです。
南茅部高校3年生の長谷川凜さんは実家のコンブ漁を手伝っているということで、密着させてもらいました。
未明にコンブ漁を手伝って
午前2時半。凜さんの1日は、星がまだ輝く時間に始まります。
現在、国内で生産されるコンブのうち、約15%を南茅部産が占めています。
手慣れた様子の凜さんは小学校3~4年生のころから漁を手伝っているといいます。
午前4時。この日は、お父さんと一緒にコンブを収穫しに沖へ。
船に乗って沖に行くのは初めての経験です。
沖にはたくさんの養殖場があり、潮の流れに沿って漂うコンブを集めます。
船の上でのお父さんの姿を初めて見る凜さん。
「すごいな。いつもふざけてるけど仕事になるとまじめで、そういうところはすごくかっこいい」
お父さんに教えてもらいながら、一緒にコンブを次々と上げていきます。
凜さんの父の長谷川広宣さんは「頼もしい」といい、凜さんも「こういいう景色をみるとやっぱりコンブ漁やっててよかったなと思いますね」と笑います。
学校に着くと…
午前8時、漁を終えた凜さんは学校に。
エナジードリンクを飲みます。
すでに起床して6時間。体育などの授業をこなし、放課後には生徒会の活動も…ハードな1日です。
「朝早いですし、終わった後のやりがいはすごくある」
4割が難しい時期を乗り越えて
今では忙しい1日を過ごす凜さんですが、中学生のときは不登校でした。
「全然学校に行けなかった。高校1年のころは熱が出たりもした」
高校に入学しても保健室登校が続きましたが、高校の環境が彼女を変えたといいます。
「人と話せなかったらいやだなと思って保健室に行くことが多かったんですけど、頑張れば話せるのではないかと思って」
南茅部高校に通う生徒の4割は、かつて不登校だった生徒です。
「人数少ないっていうのもあると思うけど、本当に人があたたかい」と凜さんは話します。
しかし南茅部高校は、3年後の2028年度で閉校することが決まっています。
入学する生徒が減少した影響で、2年後には募集を停止するのです。
手助けになる高校だった…
そんな中、最後の卒業生になるかもしれない中学生にむけた体験会が開かれました。
凜さんも高校の魅力を一生懸命アピールします。
両親は「性格的に内気だったような子が、人とのコミュニケーションとか接し方とか変わってきた」「すごい勇気のいることだったと感じています。悩んでいる人が手助けになれる高校だったんじゃないかってすごく感じますよ」と話します。
楽しみにしていた学校祭。
ポスターは、絵をかくのが好きな凜さんが担当しました。
いつもはどこか寂しい教室も、今日は久しぶりに賑わいを見せています。
「ここの学校でよかったなって思うし、本当はもう少し残ってほしいなって思う部分もありますね」
閉校まで残り3年半。
今を生きるからこそ、悩みを抱えている子どもたちの”居場所”がまたひとつ消えます。
人口減少で消えていく地方の学校
HBCテレビ「今日ドキッ!」のコメンテーターの松本裕子さん、野宮範子さんは、学校のそこにしかない価値に少子化時代だからこそ目を向けていくべきではないかと思いをめぐらせました。
いつか戻って来たいと思う若者を育む場だった高校がなくなるのは、教育の場がなくなるだけでない、地域にとっては大きな喪失になる可能性もあります。
子どもたちの居場所、故郷をどう守るか、私たちへの問いかけが続いています。
文:HBC報道部
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は「今日ドキッ!」放送時(2025年7月26日)の情報に基づきます。