【美術作家・鈴木まさこさんインタビュー】 絵に集中すると痛みを忘れる
静岡市駿河区のグランシップで9月20日、県内の特別支援学校の児童生徒の絵画、書、写真などを集めた作品展「グランシップ 誰もがWonderfulアート」が開幕した。同企画の中核をなすのが、美術作家鈴木まさこさん(静岡市在住)の作品群だ。膠原病を患いながら創作を続ける鈴木さんの作品は、細かく精緻なドットや「丸」を連ねて動物や植物の姿を浮かび上がらせる。独自の技法や、病気と付き合いながらの創作の有り様を聞いた。(聞き手=論説委員・橋爪充)
120号のキャンバス4枚。制作期間7年
-キャリアを総括するような展覧会ですね。一番古い作品は点描の陰影が見事です。
鈴木:高校時代の作品です。1998年頃だと思います。パネルに紙を貼り、油性ペンでとんどことんどこと。 -一番新しいのが120号のキャンバス4枚を使った「楽園なのか?」でしょうか。
鈴木:体調を崩して何年も休んだりしていたので、7年ぐらいかかってしまいました。描きかけのまま部屋にある時間も長くて、「(絵が)待っているな」と。昨年の展覧会に向けて完成させようと決めて、やっと描き上げました。 -かなりの大作ですが、モチーフはどうやって見つけるんでしょうか。
鈴木:ぼーっとしている時にふわっとイメージが浮かびます。大きさもボンと浮かぶので「じゃあ、これこれのサイズのキャンバスを注文しなくちゃ」となります。手元の紙にラフを描いて、当たりだけ決めて、(キャンバスに)描きはじめます。 -「楽園なのか?」は、静岡県立美術館所蔵の伊藤若冲作「樹花鳥獣図屏風」のイメージがあったとうかがいましたが。
鈴木:そうですね。ずっと憧れていた作品で、ああいうものをいつか描けないかなと、ずっと思っていました。カラーの作品を描くようになったタイミングで「今ならいけるかな」と。
反復作業で深く潜っていく
-輪っかを連ねる技法はいつ頃から手がけているのですか。連続的な作業なのに、人間の手でやっているから全く同じになりません。連続性と非連続性の中でユニークなニュアンスが生まれていると思います。
鈴木:高校生の頃からずっとこの技法を続けています。たぶん(画面を)埋めたい、埋めねばという感じだと思うんです。だから、言ってくださったとおり「作業」ではあるんです。でも全体のイメージは見えている。 -「作業」としてのキツさと、作品としてのまとまりが同居している点も面白いですね。
鈴木:肉体的にはつらいです。でも同じことの繰り返しに快感を覚えてもいます。写経に似ているんじゃないかな。同じ作業を反復することで深いところに潜っていくような感覚があります。 -動物の描き方を見ると、写実的なものと、デフォルメされたりデザイン的に配置されたものの二つに分かれますね。
鈴木:言われて気がつきました。確かにそうですね。大事にしているのはミクロとマクロ、両方の視点です。近寄って見る、引いて見る。両方の視点があることが重要なんです。 -膠原病は作品制作にどんな影響を与えているのですか?
鈴木:不思議なことに、病んでいる時期の方がいい絵ができたりするんです。自分でコントロールできない何かがあるなあと思っています。昔は、入院中も取りつかれたようにベッドの上で描いていました。普段の生活でやりたいことができないフラストレーションをぶつけていた部分もあったでしょう。丸をずっと描いていると、集中するから痛みを忘れるんです。医師からは「加減してね」と言われたこともあります。 -キャリアを総覧するような作品群ですが、自身の作風に変化を感じたりしますか?
鈴木:変わっていないのは、細かい部分に執着するところ。一方で元気になったらいいとか、絵がもっとうまく描けたらいいといった、変わりたい自分もいるんです。変わらないものと変わりたいものが、ずっと同じ面積で存在していますね。 -そのせめぎ合いの中に作品がある感じ。
鈴木:そうですね。 すずき・まさこ 1981年静岡市生まれ、静岡市在住。静岡県立清水南高等学校を卒業後、一人で制作活動を行う。2004年「NEW FLAT 2004」、2006年「身体アート展」、2008年「美しい世界」、2009年「ZOO-M」など多数出展。2009年には初の作品集「ZOO-M」を刊行。村上隆氏が主催する「GEISAI」やグループ展なども参加多数。ZUCCaとのコラボTシャツの発売や、韓国の大手企業「KOLON」の企業カレンダーを手がけるなど、国内外から注目を集める。
<DATA>■グランシップ 誰もがWonderfulアート会場:グランシップ 6階展示ギャラリー住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1入場料:無料会期:9月20日(金)~10月6日(日)開館時間:午前10時~午後5時