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もっとこの世界のことを、自分のことを、知れるぶんだけ知っておこう。──【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

NHK出版デジタルマガジン

もっとこの世界のことを、自分のことを、知れるぶんだけ知っておこう。──【統合失調症VTuber もりのこどくエッセイ『こどく、と、生きる』】

統合失調症VTuber・もりのこどくさんによるエッセイを公開!

統合失調症は100人に1人程がかかるといわれていますが、症状や悩みを打ち明けづらく、苦しんでいる方も多い病気です。

「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」という思いでVTuberになり、配信を通してメッセージを伝え続ける「もりのこどく」さん。

高校生で統合失調症になった彼女がいかにしてVTuberになったのか、その足跡を綴った初めてのエッセイを、毎月ダイジェストにてお届けします。

今回は、「知っておくこと」や「エッセイを書くこと」についての一編をご紹介。

※NHK出版公式note「本がひらく」より。「本がひらく」では毎週月曜日に連載最新回を公開中です。

#45 武器だから

 こどくはずっと、すくなくとも、自分のことは理解しきれると思っていた。たとえば、自分自身の体調のことだってなんでもわかって、そして理解できると思っていた。しかし、必ずしもそうではないことを、こどくは身をもって知った。

 こどくは16歳、高校2年生のとき、統合失調症を発症した。もちろん発症後の陽性症状や陰性症状、認知機能障害には悩まされたが、その前から、予兆はあった気がする。

 中学生のころから、こどくは極端に自己肯定感が低かった。当時、こどくはずっと、こどくのことがきらいだった。でも、いま考えると、それはおかしい。こどくは手先こそ不器用だったが、授業ではそこそこの成績をとっていた。課外活動も積極的にこなし、まわりからもそれなりに認められ、おともだちも少なくなかった、と、思う。それでもこどくは、こどく自身のことがだいきらいだった。だいきらいで、他人に対して必要以上に謙虚だった。保護者と担任の先生が面談したときに、先生から「こどくちゃんはあきらかにおかしい」と言われたほどだ。

 なぜそこまで、自分がきらいだったのか。理由はたくさんあるかもしれないが、こどくは、「統合失調症の前駆期」だったからだと思っている。統合失調症の前駆期とは、統合失調症を発症する前に訪れる、げんきがなくなったり、やる気がなくなったりする症状が出る時期だ。こどくは前駆期の症状のせいで、極端に自分がきらいになり、すぐにおちこむことがおおかったのではないかと思う。また、この時期には抑うつ傾向、ようするに、うつ病のような症状が出ることもある。また、発症して高校に通えなくなる前には、異様なほどの吐き気がこどくをおそった。家を出る前に朝食を吐き、食欲もなくなり、こどくはどんどん痩せていった。

 しかし、前駆期の段階で、統合失調症だと認定することはむずかしい。こどくは発症当時、うつ病だと診断されたが、それもそうで、「幻覚」や「妄想」が出ないうちには、統合失調症の診断がおりることはすくないからだ。

 前駆期、こどくはわけがわからなかった。ふつうに過ごしているのに、担任の先生からは「様子がおかしい」と言われ、吐き気が止まらない。自分のことなのに、自分がわからなくなった。ただ、ひたすらに、こわかった。

 冒頭で、こどくはこどくのことを理解しきれると思っていた、と述べた。しかし、実際には、しっかりと、統合失調症になる前に、こどくのからだは、サインを出していた。あのとき、まさか統合失調症なんて名前も知らない病気になるなんて思ってもいなかった。どうすればよかったのかは、いまだにわからない。でも、唯一わかることは、統合失調症のことを、もっと知っておけばよかった、ということだけだ。

 自分のことも、他人のことも、ひとでなくとも、すべてにおいて、理解しきることは、きっとこのさき一生ないだろう。だからこそ、こどくは、理解しきれないことを知っていてなお、もっとこの世界のことを、そして自分のことを、知れるぶんだけ、知っておこうと思う。知るということは、ひとにとって、最大の武器だから。

イラスト:もりのこどく

#46 歩んで

 エッセイを書いてみないか、と打診が来たとき、こどくはふたつ返事で承諾した。こどくは文章を書くことがすきだったし、なにより、こどくが書いてみる文章が、どこまでひろがっていくのか知りたかった。

 こどくはもともと、現代文がとくいな生徒だった。作文を書くのも、レポートを書くのもすきで、たいていまわりからほめられた。だから、ほんのすこし、自信があった。今考えると、驕りだったな、と思う。

 エッセイを実際に書きはじめてみると、こどくはおおきな壁にぶち当たった。書きたいことはあるのに、うまく文章にできない。やっとの思いで文章にしても、どこかちぐはぐで、満足できない。また、こどくは元文学少女でもある。おさないころから小説がすきで、学校の図書室に毎日通っていたほどだ。だからこそ、自分の文章の拙さに気がついた。

 こどくはなんども書きなおした。なんどもなんども。そうしてくりかえした結果、「この書きかたなら書けるかも」という文体に出会い、今こうして筆を執っている。だからじつは、このエッセイの背後には、たくさんの「未完成品」がひそんでいるのだ。

 しかし、こどくは断言できる。未完成品たちがいなければ、こどくは決してエッセイを続けることはできなかった、と。未完成品たちがいたからこそ、今の文体に出会え、たのしくエッセイを書けているのだ。

 どんなことにも意味がある、とは思わない。未完成品を書いていた時間も、そのために悩んだ時間も、そもそも統合失調症の症状でうまく動けなかった時間も、意味があったかと言われると、こどくはそうとは一概には言えないと思う。そもそも一発でうまく書くことができればその時間は必要なかったし、統合失調症だって、かからなければよかった。

 でも、どんなことにも、あとから「意味をつける」ことは、できると思う。未完成品たちも、動けなかったときのきもちも、あとから、「あのとき書いた未完成品がなければここまで書けなかった」「あのときやすめたから、今のこどくがある」と考えることで、こどくのなかでたしかな土壌となって、存在してくれている。

 だから、「意味がなかった」とおちこんでいる君がいるならば、声を大にして言ってあげたい。「あとから意味をつけよう」、と。

 あとから意味をつけて、こどくのなかの未完成品たちは、今もみらいを明るく照らしてくれている。エッセイというおおきなことに挑戦できた。そして、ちゃんと、ひろがった。このエッセイで救われた、とこどくに伝えてくれたひとはたくさんいる。その声のひとつひとつが、こどくをまた、救ってくれた。

 このエッセイを書いてよかった。こどくのなかで、みちしるべができた。そのみちしるべが、今も、こどくのとなりにずっといてくれる。それは、君であり、こどくの経験であり、こどくのきもちでもある。みちしるべを両どなりに、これからもゆっくり歩んでいきたい。

イラスト:もりのこどく

※「本がひらく」での連載は、毎週月曜日に更新予定です。

プロフィール

もりのこどく
VTuber。「同じ病で苦しむ仲間とつながりたい、救いたい、当事者以外の人たちにも病気のことを知ってほしい」。そんな思いで19歳で配信を始めた。バーチャルの強みを生かして、当事者たちの居場所をクラウドファンディングでメタバース上に創るなど幅広く活動。2023年、SDGsスカラシップ岩佐賞を受賞。

YouTube:もりのこどくちゃんねる

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