秋のほんこさまなどで食べられる、岐阜県荘川の「どぶ汁」。どぶってなんだ?
みなさんは“どぶ”と耳にして何を思い浮かべますか? お酒好きさんは「どぶろく」という人が多いかもしれません。はたまた、茨城県の人は「あんこう料理」だと思うかもしれません。……が! ここ岐阜県高山市の荘川では、とろりとした白いお汁「どぶ汁」の素を“どぶ”と呼びます。秋のほんこさま(報恩講)やお葬式、昔は茅葺き屋根の葺き替え作業など、人がたくさん集まる時に作られた食なのです。イラストを拡大して見てね~。
“どぶ”って何?
荘川では、できあがったどぶ汁がとろっとしていて白く“どぶろく”に似ているから、そのように呼ばれているみたい。
“どぶ”にはもともと、“にごった”という意味もあるから——という説も。
茹でずにすりつぶす。だから……濃厚♡
どぶ汁は、ひと晩水に浸した大豆を火を通さずに挽き、それを沸騰している湯の中に入れて煮るのだそう。
“火を通さずに挽く”ことで、大豆の味がしっかり残る。
大豆の味と白だしのしょっぱさが合う♪ 白く仕上げるのが美徳!?
ほんこさまって?
荘川や飛騨地方では“ほんこさま”と呼ばれるけれど、全国的には「報恩講」といわれることが多いかも。
浄土真宗の宗祖・親鸞(しんらん)聖人の命日である11月28日近辺に行われます(各寺によって行う日はまちまち)。
親鸞聖人の教えに感謝し、その恩に報いるという浄土真宗でとっても大切な行事です(荘川では9~10月末に行われることが多いそう)。
「『南無阿弥陀仏』と念仏を唱えれば、阿弥陀如来様がどんな人でも極楽へ連れていってくださる」というのが浄土真宗の教え。
どぶ汁の素が売っていた!
町内の小さな商店にどぶ汁の素の“どぶ”(ここでは生の大豆を挽いた状態のもの)が売っていました。
バケツでどんっと売っているのが、昭和のお豆腐の売り方と似ていて懐かしさを覚える。
「私はカツオ出汁を使って、味つけは白だしを使います。味つけは塩派、醤油派、味噌派と……作り手によって違いますよー」(荘川の方)
素があれば手間が省けるので、日常で作る人もいるのだそう。地元の豆腐屋さんGood jobです!
取材・文・イラスト・写真=松鳥むう
松鳥むう
イラストエッセイスト
離島・ゲストハウス・民俗行事・郷土ごはんを巡るコトがライフワーク。著書に『トカラ列島秘境さんぽ』『粕汁の本 はじめました』(ともに西日本出版社)、『むう風土記』(A&F)などがある。