津軽の台所 虹のマート~「百年市場」を目指す若き挑戦者~
1956年の創業以来、約70年にもわたって津軽の台所として親しまれてきた食品市場「虹のマート」。今、少しづつ未来に向けた挑戦が始まっているのをご存知でしょうか?今回は、虹のマートを管理運営する株式会社生き活き市場の専務取締役 浜田大豊さんへ「百年市場(いちば)」を目指す取り組みについて、インタビューしてきました!
―浜田さん、本日はよろしくお願いします。Uターンで、若くして虹のマートを管理運営しながら、チャレンジングな取組もされていて、各種メディアに引っ張りだこですね。
浜田―浜田大豊です。私などにフィーチャーいただき、大変恐縮ですが、本日はどうぞよろしくお願いします。ありがたいことに色々なところで取り上げていただきまして。虹のマートの知名度、そして若者のUターンということも興味を持っていただけた理由だったのかもしれません。
若き挑戦者 浜田大豊
―まずは浜田さんご自身について、教えてください。家族とか趣味とかお願いします。
浜田―虹のマートの筋子屋「ハマダ海産(株式会社Do)」の息子として生まれ、現在は虹のマート全体の管理運営をしています。今年で32歳になりました。妻と二人で暮らしています。
津軽が誇る「ハマダのすじこ」
―ハマダのすじこ、小さい頃からおいしくいただいてますが、県外の友人に送ると、こんなうまいすじこ食べたことないと、とても喜んでもらえます。奥様も同郷の方ですか。
浜田―喜んでいただけて何よりです。妻とは大学で東京に出ていたときに知り合い、青森県についてきてもらいました。
―本県の定住人口を一人増やしていただいたということですね、ありがとうございます。
浜田―一緒に来てくれた妻には本当に感謝です笑 あ、趣味ですね。最近はレコードを集めはじめました。土手町のJOY POPSさんが2021年から再開しまして、そこで購入したりしています。あとは、ワインソムリエの資格を持っていますので、ワインを飲むことも好きですね。前職は県外でお酒の卸売業をしていたということもありまして。
Uターン(弘前→東京・仙台→弘前)
―県外でお酒の卸売業をされていたとのことですが、こちらに戻ってくるきっかけなどはあったのでしょうか。
浜田―間もなく30歳になるという年齢的な節目もきっかけになったと思いますね。また、卸売業は中間流通業という立ち位置上、どうしてもお酒を数字的に扱わざるを得ないというもどかしさもありました。お酒を1本1本というよりは、パレット何個という単位で扱うことも多かっため、作り手の想いよりも売上などの数字が先行してしまう場面もありました。
―商売としての酒という部分ですね。
浜田―もちろん、卸売業があるからこそ、私たちは消費者として手軽にリーズナブルにお酒を楽しめるという点もあるんですが・・・。例えば、海外のリーズナブルなワインにも作り手の想いはあるわけですが、いざ日本で店頭に並ぶと、ポップ一枚にさらっと特徴を書かれて、500円とかで売られてしまう。それってやっぱり、売り手側の怠慢だと思うんですね。不義理というか。
―なるほど。買い手としても、作り手の想いよりも、ついリーズナブルさに惹かれて買ってしまう部分はあります。
浜田―そんな中、虹のマートでは、未だに対面販売を中心に商品の価値や魅力を伝えられる、ある意味、「なぜこんな市民市場がまだ残っているんだ!?」という「時代錯誤な一周回った面白さ」を感じました。ちょうどこの頃、父が虹のマートの組織形態をこれまでの組合組織から株式会社に変更した頃で、市場を管理するためのポストが必要となり、それも決め手になりました。
―お父様から帰ってこいと言われた?
浜田―いえ、昔から父には好きなことをしろと言われてきたので、戻ってきたのは自分の意志です。それでも、会社経営の実績もないぺーぺーの私に「津軽の台所」である虹のマートの管理運営を任せてくれた父の懐の深さには今でも感謝しています。
お酒の卸売業時代の浜田さん
―地元にUターンして感じたことは何でしょうか。
浜田―Uターンする直前は東京・仙台と都会にいましたので、地元に戻ることで正直、自分の今までのような生活は終わってしまうと思っていました笑 それに、弘前には高校生までしかいなかったですし、当時の知り合いはみんな県外に出てしまっていたので、Uターンしてすぐは知っている人が全然いなくて。なので、とにかくお店を知ることから始めました。当時、日本の面白い取組をしている方々を取り上げたとあるWebメディアをよく読んでいて、そこの津軽特集で掲載されているお店に行ったりしました。そこで知り合った鶴田町のレストラン「澱と葉」の藤田さんや岡さん。代官町の雑貨店「bambooforest」の竹森さんなどは今でも仲良くして頂いてます。
虹のマートで直面した数々の課題
―行動力がすごいですね。それではもう少し範囲を狭めて、虹のマートに戻ってきて、感じたことは何でしょうか。
浜田―短期、中期、長期の課題に分けてお話しますね。まず、短期的な課題と感じたのは、施設(虹のマート)全体の設備の使い方や状態。掃除やメンテナンスなどのルールをきちんと把握している人がいなかったということです。原因として、以前の組合組織ではお店の皆さんから組合長を選んでいた為、全体管理的な部分や長期的な施策は優先順位がどうしても低くなってしまうということがありました。テナントの皆さんには、戻ってきてからとても優しくしていただきましたが、ポッと入ってきたペーペーの若造が施設全体のルールをいきなり掲げても、なかなか実践出来ないのが現状でした。
次に中期的な課題ですが、組織変更後、入居テナントの退店が続いていたので、増やさないと館全体が立ちいかなくなるという点。
最後に、長期的な課題は建物のハード面です。現在の建物はすでに30年経過しているので、長期的に建て替えの計画も検討していく必要がありました。
㈱生き活き市場 専務取締役 浜田大豊氏
―やるべきことがたくさんあったんですね。どうやってそうした課題を乗り越えていったんでしょうか。
浜田―こう言っては元も子もないかもしれませんが、トライ&エラーに尽きますね。まずは自分でやってみるというところです。設備についても、まず、自分で把握しなくてはならないため、地下に潜り下水管を確認したり、天井裏に潜りこんで仕組みを確かめたりしました。お店のみなさんとの関係も、毎日のあいさつや雑談から始めました。近道的なものはないです。
メンターとしての父の存在
―助言を与えてくれるメンター的な存在はいたんでしょうか。やっぱりお父様?
浜田―父には帳簿のつけ方など、基本的な部分について1年間ほどずっと見てもらいました。しかし、父はもちろん経営者として大先輩ですが、市場の管理は父にとっても始めての連続です。それを私に任せて、「責任は自分が持つ」という覚悟を持ってくれたことが、自分にとってはとても大きかったと思います。父からは、「大きな絵を描いて、未来に対するヴィジョンを描け」、「良いことは続けよう、悪いことは変えよう」、「仲間をつくれ」と教えられており、そのことは常に意識しています。お客様はもちろん、各テナントの皆さん、取引先の皆さん、そして、Uターンしたばかりの私と仲良くしていただいた皆さんにいつも助けられていると常々感じています。皆さんのおかげで「何とかなるもんだ」とある意味、楽観的な気持ちでいられますね。
父 浜田健三氏(株式会社Do代表取締役としてハマダ海産を運営)
新たな挑戦の数々~「オリジナルグッズ」、「チャレンジ出店制度」、「遊歩道の活用」~
―新しいことを取り入れるということで、まさしく色々始められましたよね。虹のマートグッズの制作・販売をはじめ、最近特に注目されている仕組みとして「チャレンジ出店制度」や「遊歩道の活用」があると思いますが。
浜田―虹のマートグッズについては、虹のマートのファンを増やしたくて始めました。虹のマートのキャラクター「虹ママ」が一周回ってエモいみたいで、話題にしていただきました。「チャレンジ出店制度」は虹のマート内のテナントスペースを期限付きで安価な家賃でお貸しするスタートアップ制度で、「遊歩道の活用」は虹のマートに隣接した遊歩道をイベントなどへ活用するものです。いずれも、虹のマートのある弘前駅前エリアの価値を上げる必要があると考えて始めた取組です。
かわいらしくキャッチ―なオリジナルグッズの数々
虹のマートがちゃがちゃ 手作り感がたまりません
虹ママキーホルダーをはじめ、全種類コンプリートしたくなります
津軽千代造窯の「すじこのうつわ」も話題になりましたね
駅前エリアの価値向上の意義とは
―なぜ駅前エリアの価値を上げる必要があるのでしょうか。
浜田―少し大きな話になってしまいますが、これまでは地方にも人が多くいたので、都会の生活を真似して消費生活をしていればよかった。しかし、人口減少社会においては、これまで以上に都市は空き物件や空き家など、いわゆる「余白」がたくさん発生し、まちはスカスカになっていくと思います。ですのでこれからは、「自分の暮らしを、自分自身がどうしたいのか。」を考えなくてはならないと考えています。弘前も例にたがわず、中心地や駅前ですらお店をたたんでいく時代。待っていても新しいお店はできない。それなら自分たちでつくっていく、好きな場所は応援していく、そんな流れを作りたい。「チャレンジ出店制度」を活用して、虹のマート内で成功体験を作ってもらい、ひいては駅前エリアでお店をやっていただけると嬉しいですね。
チャレンジ出店制度のテナント コーヒー専門店「BROTHER」
―「遊歩道の活用」も「余白」の活用ということですね。
浜田-はい。「遊歩道の活用」についても、「ひとまちこみちプロジェクト」という名前をつけて、「もっと、まちをつかいこなそう」というコンセプトで行っています。現在は虹のマートに隣接した遊歩道に、椅子とテーブルを設置して、定期的にイベントを開催しています。まちに「余白」が増えるのは必ずしも悪いことだけではないと僕は思っています。みんながいろいろなチャレンジを出来る場所が増える、という考えも出来ますから。その「余白」をうまく活用し、まち全体を大きな「公園」のようにできたら素敵ですよね。
遊歩道の活用 椅子とテーブルを設置して定期的にイベントも
―「遊歩道の活用」については、大学生に提案してもらう企画もされてますよね。
浜田―はい、弘前市さん、HLS弘前さんの協力のもと、県内外の大学生にインターンシップとして、虹のマートが受入企業となって、「遊歩道の活用策」を提案いただきました。通常のインターンシップでは、提案で終わることが多いと思いますが、今回は実践までというのがポイントです。面白いアイデアをたくさん提案いただいたので、実践を楽しみにしています。
インターンシップの様子
県内外から多くの大学生がインターンシップに参加
―虹のマートの管理運営の立場にありながら、駅前エリアの価値向上にそこまでこだわるのはなぜでしょうか。将来的にはまちづくりをしたいとか?
浜田―まちづくりをしたいという想いはあまりないですね笑 私にとってはやっぱり虹のマートが一番大切。駅前エリアの価値が向上することで、駅前に人が来て、虹のマートへも集客をしたいというのが正直な想いです。ただし、虹のマートで取り組んできたような「チャレンジ出店制度」や「遊歩道の活用」などの事例は他のエリアでも共有できると思うんです。例えば、大鰐町で同じようなことを大鰐町の方がやっていってもいい。そういうことがあらゆる場所で行われることで、津軽全体、ひいては青森県全体としてエリアの価値が向上していくと思います。
-取組の先にあるのは、「虹のマート」ということですね。
浜田-「地域を良くしよう」とか、「まちをよくしよう」という気持ち自体はすばらしいと思うのですが、ゴールがぼんやりしがちで、そうなると熱量が続かない。取組の先に何があるのかを意識することが大事だと思います。僕にとっての虹のマートのように、ある程度の欲やエゴは必要だと思います。自分のためにやることが、結果として全体のためになるといいですよね。もちろん、自分本位すぎるのは良くないとは思いますが笑。
―若くして、そこまで体系的に整理されたお考えを持っていて素晴らしいです。
漁師は海を守る。虹のマートにとっての海は弘前駅前
浜田―こうして言語化できるようになったのは最近のことでして。漁師が海を守るために海洋ゴミを拾う、木こりが森を守る為に植林する、というのに考えは近いかもしれないですね。虹のマートにとっては駅前エリアが海なので、駅前エリアが衰退すると虹のマートも衰退する、と。
―これまでの課題や取組について、よく分かりました。今後、取り組んでいきたいことがあれば教えてください。
浜田―チャレンジ出店制度は、今でもお引き合いが多くて、虹のマート内だけだとスペースが足りなくなりました。ですのでこれからは近隣の遊休不動産等の活用ができないか、検討しているところです。駅前にお店をもっと増やしたい。虹のマートがこれからも末永く津軽の台所として愛される「百年市場(いちば)」になっていくためにも、駅前エリアの価値向上にはこだわっていきたいです。
歴代の組合長の方々 歴史を感じます
虹のマートはコミュニティ
―「百年市場」、いいですね。浜田さんにとって虹のマートとは何でしょうか。
浜田―虹のマートは商業施設というより、一つのコミュニティだと考えています。たとえ、建物が今の場所からなくなって、テントなどで空き地で営業したとしても、「虹のマート」と言えると思う。ハードとしての建物が虹のマートではなく、虹のマートのお客様、お店の皆様、お取引先の皆様など、関係する方々で形成されるコミュニティが虹のマートなんだと思います。そして、自分は立場上大家ですが、大家をしている自覚はあまりなく、弘前の皆さんから虹のマートという「場所」をお預かりした村長さんのイメージ。お預かりしたものは、それ以上のもので皆様へ還元しなければいけないと思う。そのためにも、これからも地域に投資していきたいです。
―虹のマートはコミュニティ。みんなの顔が見える感じですね。最後にまるごと青森ブログの読者へ一言お願いします。
浜田―長々と申し上げてしまいましたが、虹のマートはとても面白い場所だと思うので、ぜひこれからもお気軽に来ていただきたいです。お待ちしております。
浜田さんの未来を見据えた鋭く、きらきらとしたまなざしの先にある「百年市場」。
次の一手を想像して心が浮き立ってしまうのは私だけでしょうか?
byくどお