お菓子博in笠岡港(2024年4月21日開催)~ だれかに話したくなるストーリーのある店が集合
2024年4月21日(日)、「お菓子博in笠岡港」が、岡山県笠岡市の住吉港に隣接する笠岡諸島交流センター(笠岡港旅客船ターミナル「みなとこばなし」)で、初めて開催されました。
美味しいお菓子とドリンクを提供するのは、素材にこだわりがある店、地域を知ってもらいたいという想いを持つ店、地域に愛されている店など、ストーリーのある店ばかり。
完売が続出し、予定時刻より前に閉幕となるほど盛況でした。
ですが、実は、今回のマルシェイベントは「入口」にすぎないようです。
当日のようすと今後の展開について、お話を聞きました。
「お菓子博in笠岡港」について
「お菓子博in笠岡港」は、店主の想いや活動のストーリーに焦点を当てたマルシェイベントです。
お菓子の味わいだけでなく、作り手の想いも感じてもらおうというコンセプトで開催されました。
だれかに話したくなるお菓子やドリンクの店が、井笠・備後地域から10店、集合。
「お菓子博in笠岡港」を企画し開催したのは、広島県福山市や岡山県内を中心にマルシェイベントなどに出店しているpasión(パシオン)の山脇節史(やまわき よしふみ)さんです。
山脇さん自身も、笠岡干拓のいちご、福山市田尻町のあんずなど、地域食材がもつ本来の味を引き出しながら、パウンドケーキやスコーンを作って販売しています。
食材のストーリーをまるごと伝える焼き菓子屋として、2017年以降、数々のマルシェイベントに出店してきました。
そして、2020年7月には仲間とともにマルシェイベント「ミナトの休日」を立ち上げ、現在も定期開催しています。
そういった経験を生かして、「お菓子博in笠岡港」を初めて開催しました。
タッグを組むのは、「地域を元気に、暮らしを豊かに」をテーマに実践の場づくりに取り組むコミュニティ「おけいこ.com岡山」の運営者であり、一般社団法人moko’aの代表理事でもある沖村舞子(おきむら まいこ)さんです。
出店者や山脇さんの想いをマルシェイベントという形で表現すべく、企画・運営面でのサポートをおこないました。
「お菓子博in笠岡港」当日のようす
海辺の港を会場として、大いに賑わった「お菓子博in笠岡港」。
だれかに話したくなるストーリーのある店が集まるマルシェイベントとはいえ、「ストーリー」はお菓子やドリンクと違って、目に見えません。
具体的にはどのように伝えていったのでしょうか?
さまざまな工夫がされていたのです。
例えば、各ブースには店名とともに、伝えたい思いが掲げられていました。
また、開催をアナウンスするInstagramの専用アカウントでは、出店者ひとりひとりの想いを紹介しています。
当日は開催予定時刻の午前10時前から、会場入口には長蛇の列が。
時折雨が降るなか、予想以上の反響。お店のかたとお客さんとのなごやかな会話を、会場のあちこちで聞けました。
海沿いにはテーブルが並べられ、お菓子やドリンクを片手に談笑するかたたちも。
早い店舗で午前中、最後の店舗も開催終了時刻の午後4時を待たず全店舗完売。小雨の降るなか、初の「お菓子博in笠岡港」は早めの幕引きとなりました。
出店者紹介
たくさんの来場者で賑わった「お菓子博in笠岡港」の出店者を紹介します。
ハジマリニ(ヴィーガンのマフィン、クッキーなど/井原市)
植物性素材のみを使用したヴィーガンの焼き菓子店。
素材には、国産の小麦を中心に、昔ながらの製法のお豆腐や圧搾絞りの菜種油などを使用。
「暮らしに寄り添う日々のおやつ」をテーマに、毎日食べても飽きないような焼き菓子を作っています。
岡山県井原市に本店、岡山市北区の奉還町店にもショップがあります。
なぜ、井原市に本店があるかというと、「土に向き合う日常を大切にしているから」だそう。
食の原点は「土」と「自然」にあります。そこにはお洒落さも洗練さも存在せず、ただあらゆる生命の強さと尊さがあります。
私たちはその日常を土台としています。今日の日本にて食を扱う立場として、とても大切なことだと考えています。
「ハジマリニ」パンフレットより
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やさしい焼き菓子コナコナ(クッキーなど/高梁市)
10年前に子育てしながら始めたという焼き菓子作り。店名の「コナコナ」も、小さい子どもが好きな2回繰り返す表現から名づけられました。
店主が甘すぎるお菓子が苦手なため、甘さ控えめな焼き菓子が多いのが特徴です。
好みが似ている同年代の女性、小さな子どもがいる女性に人気で、「癒しを届けたい」という思いを込めて、高梁市川上町の山の中にある工房でていねいに作っています。
「前からよく食べている」という声の多い、地域に愛されている焼き菓子店です。
マルシェイベントへの出店のほか、工房を店舗にしての販売も月に1度おこなっています。
「出店はどうでしたか?」と聞くと、「初めての笠岡での出店でしたが、20種類ほどの焼き菓子があっという間に売り切れになりました。井笠のお客様が多かったのかも、という気づきがありました。お店同士でも交流できるのが良かったです」とのことでした。
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旅農人ファーム(さとうきびを使ったプリン・アイス/高梁市)
高梁市で農薬も化学肥料も使わずに、さとうきびと抹茶葉の栽培を手掛ける旅農人(たびのひと)ファーム。
なんと自転車旅で西表島(いりおもてじま)や石垣島まで走り、サトウキビの栽培方法を学びに行ったというから驚きです。
昨年(2023年)、ついに高梁市でさとうきびの収穫を実現しました。
さとうきびの産地として有名な沖縄や鹿児島よりも寒暖差がある高梁市では、栽培期間が短くなり、独自のやり方が必要になるそうです。
貴重な高梁市産さとうきびを素材として、昔ながらの薪炊きにより黒蜜を作り、プリンに使っています。実際に食べてみると、味わい深さがありながらも、すっきりとした甘さでした。
黒蜜に加え、茶葉から育てた抹茶、もしくは無農薬きな粉を掛けたものアイスも好評でした。
プリンは高梁市松原町にあるやまびこ市場・崖っぷちカフェでも手に入ります。雲海が美しいスポットのようですよ。
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UNITE CAFE(米粉ドーナツ/浅口市)
その場で揚げたて、卵・乳・小麦不使用のもちもち米粉ドーナツを販売するUNITE CAFE(ユナイトカフェ)。
味は、この日はシュガー(きび砂糖)、きなこ、シナモン、抹茶、黒ゴマ、ココア、玄米コーヒー、プレーンから選べました。
アレルギーのある人もない人も、ヴィーガンの人もそうでない人も、みんなで同じものを「美味しいね」と食べられるドーナツを提供しています。
ドーナツは米粉で作り、揚げる油は、米油。新登場の「玄米コーヒー」味も、米からできたもの。「たくさんの人のお米の可能性を知ってほしい」「お米農家さんを応援したい」という考えからです。
米以外の原材料もなるべく想いを持ったかたから仕入れることを信条にしています。生産者の想いがつまったドーナツなのです。
実際に食べてみると、もっちもち! ファンが多いのも納得です。
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ワイオリファーム(野菜せんべい、ケーキなど/福山市)
「ワイオリ」はハワイ語で「喜びの源」という意味。
福山市熊野町のミネラル豊富な土壌を、農業初心者でありながら開墾(かいこん)からおこない、畑を作りました。レンコン、ゴボウ、ジャガイモなど、農薬化学肥料を使わない野菜作りをしています。
それらの野菜を素材としたせんべいが「ファームチップス」です。ノンフライで化学調味料や合成着色料を使わずに、菓子工房で製造しています。
ファームチップスは消費期限が長く、4か月とあって、お土産にも人気。パリパリとした食感と、素材そのものの味わいが楽しめます。地域の食材を使っているので話も弾みそう。
お菓子博ではファームチップスのほか、小麦を食べられない人にもうれしい米粉シフォンケーキやバスクチーズケーキの販売もありました。
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ジンジャーダイヤモンド(しょうがを使ったスイーツ・ドリンク/福山市)
福山市の生姜製品製造会社「ジンジャーダイヤモンド」では、ジンジャーシロップ、生姜茶、生姜ジャムなど、生姜のオリジナル商品を加工・販売をしています。
もともとはご自身の健康のために作っていたというジンジャーシロップを商品化。
インターネットで販売したところ、好評となり、今ではたくさん製造できるよう体制を整えています。
お菓子博では、定番のオリジナル商品のほか、生姜のみたらし団子とテイクアウトのジンジャードリンクも販売。
生姜のみたらし団子は、ジンジャーシロップから派生したひと品で、クセになる甘辛さが魅力。注目度が高く、すぐ完売に。
クラフトコーラ、ジンジャーエールなど、ジンジャーシロップを使ったスパイシーなドリンクも人気でした。
自身の経験から「生姜で元気になってほしい!」という想いで出店しています。
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hanabull CAFE(クロッフル・デニム雑貨/井原市)
コンセプトは「デニムとおやつ」。
井原市内で地域資源である井原産デニムを活用した服飾雑貨の製造販売・ものづくりワークショップ開催などをおこなう「おのはなこ商店」の小野華子(おの はなこ)さんが、地域の賑わいづくりを目的に始めたのがhanabull CAFE(ハナブルカフェ)です。
提供するお菓子は、カリカリ・サクサク・モチモチの新食感が楽しめる、韓国発ハイブリッドスイーツのクロッフル(クロワッサン×ワッフル)。
デニム雑貨も店頭に並び、前を通る人たちが手にとって眺めるシーンも。
「デニムもおやつも共通している部分は、提供する商品で皆様を笑顔にすることと、元気をお届けすること!」とのことでした。
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pasión(スコーン、パウンドケーキなど/福山市)
イチゴ、レモン、桑の実など、備後・井笠地域を中心に、自ら現地に行き、生産者や地域のかたと対話をすることを大切に、素材を仕入れているpasión(パシオン)。
素材が持つストーリーや歴史、魅力やワクワク感を伝えられるよう、その地域に興味を持ってもらえるよう、お菓子を作って販売しています。
素材の味そのものをしっかりと生かし、味や香りを添加物や香料を足さずに加工して、パウンドケーキ、ベイクドタルト、スコーン、シロップに。
お菓子を通して素材のもつストーリーを知ってほしいという想いがあります。
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サザンツリー(エスプレッソなど/笠岡市)
この日に合わせて深煎り焙煎されたこだわりのコーヒー豆から、会場でていねいに淹れるエスプレッソ。
提供するのは、NPO法人 海の校舎大島東小 代表理事で家具職人でもあるサザンツリーの南 智之さん。
きめ細かいクレマがたっぷり、トロトロの本格エスプレッソです。カフェラテ、カフェモカ、マキアートもこのエスプレッソを使用。
フレッシュな味わいが「めちゃくちゃ美味しい」、「お菓子のおともにぴったり」と評判でした。
実はこの日が初出店。美味しく淹れるには、豆に合った圧にするのが難しいそうです。何十杯と練習を重ねて、本番当日を迎えたのだとか。
「ドリップコーヒーと比べるとまだまだマイナーなエスプレッソで作るカプチーノやカフェラテ、キャラメルマキアートやカフェモカの美味しさを伝えていきたいです」とのことでした。
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JAZZ&TEA(紅茶など/倉敷市)
4歳と1歳の母親である店主が、子どもとも一緒に楽しめるお茶を開発したいという想いから、香料、着色料、甘味料不使用で、オーガニックの原材料のみでブレンド。
会場では、テイクアウトティーのほか、茶葉やティーバッグ、プチギフトなどの販売がありました。
ふだんはオンラインショップと、完全予約制のブレンドティー専門店で購入できます。
ジャズの名曲をお茶で表現したブレンドティーは100種類におよびます。紅茶、緑茶、中国茶、ハーブティーなど、これまでのお茶の概念にとらわれない新しい味わいや香り、美しい自然の色あいが楽しめると好評。
手作業によるハンドブレンドで、商品の質へこだわりながら、廃棄ロス削減にも貢献しています。
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「お菓子博in笠岡港」についてインタビュー
「お菓子博in笠岡港」を初開催したpasión(パシオン)山脇 節史(やまわき よしふみ)さんに、開催に至った経緯や、今後の展開についてお話を聞きました。
──開催に至った経緯を教えてください。
山脇(敬称略)──
2020年7月からみなとこばなしで「ミナトの休日」というマルシェイベントを、仲間と開催しています。
「ミナトの休日」は笠岡市内のお店や、地元食材を使った食べ物、スイーツを販売するお店が出店します。一番の特徴が、クラフトビールや酎ハイ、日本酒、ウイスキーなどのアルコールも楽しめること。
お酒以外のイベントの需要があるのかもしれないと思い、2023年の秋頃からお菓子のマルシェイベントを考えるようになりました。
地域の小さなお菓子屋さんが、お菓子とともに、持っている想いも伝えていくマルシェイベントです。
ハジマリニさんに話すと、共感してもらえて、実際に動き出すきっかけになりました。
また、ちょうど自分自身、マルシェイベントへの出店以外の事業展開を考えているところでした。
2017年からいろいろなイベントへの出店を続け、ありがたいことにファンのかたたちも増えてくるなか、「ギフトセットはない?」と聞かれることもあり、イベント出店に限らず、魅力発信できる方法はないか、ほかのやり方で展開できないかと思うようになりました。
ただ、ひとりでは限界があります。
今回、おけいこ.com岡山の沖村さんとタッグを組んだように、チームでやれば、関わる人の分だけ可能性が広がっていくでしょう。
「お菓子博in笠岡港」はマルシェイベントですが、これをきっかけに、ギフトセットの展開やほかの出店者同士でもコラボレーション企画が生まれたらという期待を込めています。
──大盛況でしたが、開催してみていかがでしたか。
山脇──
今回、マルシェイベントの趣旨にぴったりの、ストーリー性のあるお店に声をかけ、粒ぞろいのお店が出店してくれました。
それぞれのお店のファンのかたたちが告知を見て来てくださり、さらにこの場で別の店のコンセプトにも共感して、商品を購入したり、今後の発信をチェックしたりしてくれたりと、そんな循環があったと思います。
想像以上にたくさんのお客様が来てくださったので、今後開催する場所や駐車場などの課題もありますが…。
主催側としては、出店者のかたたちが「このマルシェに出るよ」と告知したくなる、もっとお客さんにイベントのことを伝えたくなるような機会にしていきたいです。
そして、出店して商品が売れて終わりではなく、マルシェイベントはあくまでも入口。
出店するなかでの気づきから自身のコンセプトが深掘りできたり、出店者同士やお客さんとのつながりから新しい企画が生まれたり、主催者がそれを後押しできたりと、今後に向けて化学反応を起こしていけるようなプロジェクトにできればと思っています。
──今後の展開は?
山脇──
場所は検討中ですが、秋頃にお菓子博の第2弾を予定しています。
ほかにももしかしたら、お酒やフード、工芸品など、例えば「お酒博」のように、別の形での展開もするかもしれません。
マルシェイベントだけでなく、ポップアップのような形で出店するのもありだし、ギフトセットの展開につなげるなど、出店者同士のつながりを大切に、次を見据えたプロジェクトにしていきたいです。
おわりに
「お菓子博in笠岡港」は、作り手の顔が見える、想いが伝わるマルシェイベントでした。
出店者さん全員を応援したくなります。
次回は2024年秋頃開催予定とのことなので、情報をチェックしてみてください。
お菓子博以外のマルシェイベントや、そのほかのコラボレーションなどの展開にも注目です。