妖艶ムード満点!第2期中森明菜の幕開けを告げる「ミ・アモーレ」の名唱を見逃すな
NHK「レッツゴーヤング」で歌われた「セカンド・ラブ」
1980年代に中森明菜が出演したNHK番組映像を4Kデジタルリマスターで配信する『中森明菜 Best Performance on NHK』の第5弾が公開されている。6月1日配信分の4作品はいずれも、日曜日の夕方に放送されていた『レッツゴーヤング』からの映像だ。まずは1984年6月24日に放送された「セカンド・ラブ」の歌唱から。この日の放送は『輝け!アイドル大行進』というサブタイトルがつけられていた。
「セカンド・ラブ」は1982年11月10日にリリースされた、中森明菜3枚目のシングル。今回の映像は、発売から約1年半が経過した時点での歌唱で、時期的には8作目「サザン・ウインド」をリリースした2ヶ月後のことだった。『レッツゴーヤング』は他の歌謡番組と異なり、出演アイドルが必ずしもその時の最新曲のみを歌うわけではないので、こういったケースも多かったのだ。
グレーのワンピースに黒の太いベルトといったシンプルな衣装の明菜は、少し目を潤ませながらしっとりと歌い上げ、歌い終わりには、会場の大歓声に喜んでいるかのような、ほっとした表情をみせ、マイクを通さずに “どうもありがとうございました” と答える姿が印象深い。シングルの発売から時間が経ち、より深く「セカンド・ラブ」の世界を表現できるようになった明菜の貴重なパフォーマンスの1つである。
「第35回NHK紅白歌合戦」でも披露された「十戒(1984)」
続いては、いずれも1985年6月2日に放送された『豪華!チェッカーズ、爆発!少年隊』の回。なんとこの日の放送では、明菜だけで4曲も披露している。
まず、「十戒(1984)」で登場した明菜は、ストライプシャツの上に羽織った紺色のブルゾンの裾を縛り、袖をまくり上げたラフなコーディネート。太めのパンツルックに白いエスパドリーユ、さらにはブレスレットと指輪、ネイルをシルバーに統一。ファッション誌から抜け出たようなカジュアルなコーディネートで、全体に色味を抑えたクールでスタイリッシュな印象がある。
「十戒(1984)」は前年の7月25日に発売されたナンバーで、その年の『第35回NHK紅白歌合戦』でも披露されているが、作詞は「少女A」「1/2の神話」などでもお馴染みの売野雅勇。作曲はギタリストの高中正義で、萩田光雄と共同でハードロック的な編曲を手がけている。この日の演奏はエレキギター部分をホーンに差し替えて厚みを出し、いつもとは少し違うサウンドになっている。
ステージ上には、縦書きで “AKINA”、横書きで “CHECKERS” と描かれた(Kの部分がクロスしている)電飾文字のセットが配されている。これは、番組のオープニングで明菜とチェッカーズが交互に持ち歌をメドレースタイルで歌うコーナーがあったため。「十戒(1984)」を歌い終えた明菜は一度引っ込み、次に登場した時は、衣装はそのままに「飾りじゃないのよ涙は」を披露している。
「飾りじゃないのよ涙は〜北ウイング」へのメドレー
「飾りじゃないのよ涙は」は1984年11月14日にリリースされた、井上陽水の作詞・作曲による通算10作目のシングル。この曲をテレビで披露する際は、この日のようにスタンドマイクを使用することの多かった明菜だったが、マイクに添える手の動きのしなやかさ、指先までコントロールされた動きの美しさにまずは注目したい。明菜の伸びやかなボーカルにも勢いがあり、全体的にノリノリのパフォーマンスを見せてくれる。
「飾りじゃないのよ涙は」からそのままメドレーで、1984年1月1日発売、7枚目のシングル「北ウイング」のイントロへと続く。明菜は前サビを歌い始める前にスタンドからマイクを外し、手に持ち替えて歌う。前の曲で見せたノリノリのボーカルから一転して落ち着いた歌唱法に変わっており、特に前サビ後のAメロ部分での、情感のこもった静かな歌い方が、歌の間も延々と続く熱狂的なファンの歓声と好対照だ。時折見下ろすようなカメラ目線になって、そのクールな表情にもドキッとさせられる。
「ミ・アモーレ」のロングトーン三連発
最後に登場する「ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕」は、1985年3月8日にリリースされた、この時点での最新ナンバーである。これまでの3曲と同じ1985年6月2日の放送で、番組ではこの日最後の曲として歌われている。
オレンジ色のワンピースに身を包み、ヒールも同系色で揃え、ベルトとブレスレット、イヤリングはゴールドで統一。他3曲のカジュアルな雰囲気からガラリと印象を変え、楽曲に合わせた情熱的な女性像を表現している。明菜が「ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕」を歌う際によく着用していたのは黒く光沢のあるドレスだったが、時々このオレンジの衣装で登場するとハッとしたものだ。
それにしても、この日の放送を見た視聴者や、会場のNHKホールで観覧した観客は、冒頭と最後で明菜のイメージの変わりように驚いたことだろう。そしてこの曲だけは自身のバンド、ファンタスティックスを従えての登場。イントロ前に鳴り響くサンバホイッスルの響きから情熱的なラテンサウンドの高まりが感じられる。
明菜は声のノリも抜群で、Bメロからサビにかけての、手や腰、脚のステップなど全身を使っての動きもしなやかで妖艶ムード満点。しっかりと見据えた目線、落ち着き払った仕草には貫禄すら感じさせる。また、間奏部分で明菜のバックショット越しに客席を映し、そこに紙吹雪が舞ってくる演出とカメラワークの秀逸さも見どころ。しっかり2コーラス歌い、最後はお馴染みの「♪アモーレ」のロングトーン三連発で締めくくった。
第2期中森明菜の幕開けを告げるかのような名唱
今回、配信されている1984年から1985年にかけての映像は、明菜が純情路線とツッパリ路線の2パターンで駆け抜けてきた初期アイドル時代から、大人っぽく多彩な表情を見せ始めるシンガーへと変貌し始めた時期の楽曲群が中心となっている。
伸びやかなロングトーンがトレードマークになり始めた時期でもあり、歌唱力、表現力とも充実期に入っていることが、今回の『中森明菜 Best Performance on NHK』を観るとよくわかる。特にラストに収録された「ミ・アモーレ〔Meu amor é…〕」のパフォーマンスは、まさしく第2期中森明菜の幕開けを告げるかのような名唱だ。