ビジュアルで意思決定を早く、正確に——スペースラボの“提案する組織”づくりとは【東京都港区】
まだ見ぬ建物やまちの未来像を“ビジュアル”として形にするーー。
建築や広告の世界で、コンピュータグラフィックス(CG)を通じて意思決定を支える東京のスペースラボ株式会社。
言葉だけでは伝わらない情報を“見える形”にすることで、人と組織の判断を導いています。今回は、代表の柴原誉幸(しばはら たかゆき)さんに、創業から現在に至るまでの歩み、そしてこれからの挑戦について伺いました。
意図を伝える可視化へ——30歳で“デザインの伝達者”に軸足
柴原さんは30歳の頃、デザインの現場を離れるのではなく、デザインの伝達者として建築パース/CG可視化に軸足を移す決断をしました。デザイナーが込めた意図を損なわず、時にその魅力を引き出して伝える。発注側には「自分が何をお願いしているのか」を具体像として共有し、認識と判断をそろえる——その役割に自分の経験が生きると確信したからです。
「良いデザインでも、途中で意図がノイズに埋もれてしまう違和感がありました。伝達の役割を自分が担えば、意思決定が進み、結果としてより良いものが世の中に残ると思ったんです」
そのとき出会ったのが、建築パースの仕事でした。設計図だけではわかりにくい建物の姿を、リアルな映像として見せる。完成前から“未来の空間”を具体的に感じさせる――そこに、柴原さんはこれまでにない手応えを感じました。
「伝えるためのビジュアル」への特化
スペースラボが創業したのは2009年。当時、建築パースの仕事はまだ専門性が高く、一般的には知られていませんでした。しかし、街づくりや不動産開発において、建物を「見る前に理解できる」ことの価値が注目され始めていた時期でもあります。
スペースラボはそうした社会の変化を敏感に捉え、建築だけでなく商業施設や企業のブランディング領域にも仕事を広げていきました。
「言葉にできないものを形にして見せる」――この理念を軸に、あらゆる分野で“伝えるためのビジュアル”を手掛けています。
本質を捉え妥協なき姿勢が次へつながる
創業から数年で、スペースラボは建築業界で確かな存在感を示すようになりました。クライアントには大手ゼネコンや商業施設デベロッパーも増え、依頼は全国から届くように。
制作時に意識しているのは、単に見た目が美しいCGをつくるだけではなく、パースの配置、光の入り方、人の動き方などを意識すること。それにより、発注者がまだ気づいていない建築上の課題を掘り下げ、よりよい建物づくりをサポートしています。
こうした積み重ねによって、「どの案件も“次につながる”仕事になっていった」という柴原さん。
「言われた通りに作るのではなく、どうすればもっと伝わるかを常に考える。その姿勢が評価につながったのだと思います」
高品質にこだわり、意図と背景もCGで描く
依頼が増え続けていくなかで、改めて仕事や顧客との向き合い方を考え直しました。柴原さんは「事業拡大」は目指さず、少数精鋭の仲間とともにじっくりと仕事に向き合う覚悟を決めたのです。
「たくさんの仕事を取って人を増やすのは簡単ですが、質を落としてしまっては意味がありません。少人数でも、意識の高いチームで一つひとつの案件に向き合うことを選びました」
少人数にこだわるのは、
それぞれが自分の仕事に責任を持ち、最後まで考え抜いてほしいから。柴原さんは「数をこなすより、一つの仕事を徹底的に良くする。その積み重ねがものづくりの質を高め、信頼を生む」と語ります。
作るだけでなく、共創と提案を
そして現在、同社が取り組む最大のテーマが「提案する会社」への転換です。「これまでは、クライアントの要望を形にする“受ける仕事”が多かった。でも、これからは自分たちが提案を起点にしたい」と柴原さんは話します。
その背景には、仕事の“共創”という考えがあります。単に完成度の高いCGを納品するだけでなく、積極的に提案しながら、クライアントと一緒にプロジェクトを育てる。
この意識を全社員に根づかせるため、社内では月に一度「提案賞」を設け、良い提案を共有しています。評価も個人単位からチーム単位へと変わり、分業ではなく協働を促す仕組みへと進化しました。
言葉より早く、正確に届ける
「私たちの仕事は、誰かの決断を支えること。見えない未来を少しでも見えるようにすることです」
ビジュアルは、ことばより早く、正確に人の理解に届く。そのために、少人数でも、高品質で誠実な仕事を重ねていく。その延長線上に、社会に貢献できるビジュアル文化が広がる――柴原さんはそう信じています。
「これからも“絵を描く会社”ではなく、“未来を描く会社”でありたい。提案を文化として育て、ビジュアルの力を社会の中に根づかせていきます」
ビジュアルで社会を動かす――その未来図を、同社自身が一層深く、力強く体現していきます。
最も印象に残った言葉:
それぞれが自分の仕事に責任を持ち、最後まで考え抜いてほしいから。柴原さんは「数をこなすより、一つの仕事を徹底的に良くする。その積み重ねがものづくりの質を高め、信頼を生む」
【会社概要】
会社名:スペースラボ株式会社
取材対象者:代表取締役 柴原 誉幸(しばはら たかゆき)さん
経営理念:「言葉にできないものを形にして見せる」
設立年月:2009年
事業内容:建築・都市開発・企業ブランディング領域におけるCG/建築パース制作、ビジュアル提案
所在地:東京都港区
URL:https://www.spacelabo.jp/