日向坂46・金村美玖、写真家としての第一歩を目の当たりに 写真展『みとめる』レポート
2024年9月10日(火)から10月6日(日)まで、東京都神保町の「New Gallery」にて、金村美玖 写真展『みとめる』が開催されている。
金村美玖はアイドルグループ「日向坂46」の一員であり、6枚目のシングル「ってか」でセンターを務めたメンバーである。個人としては『マイナビ presents 第28回 東京ガールズコレクション 2019 SPRING/SUMMER』でランウェイデビューを果たし、ファッション雑誌『bis』(光文社)のレギュラーモデルに就任。そのほか、ラジオパーソナリティー、ドラマ・バラエティー出演と活躍は多岐にわたる。それだけではなく、芸能活動を続けながら日本大学藝術学部写真学科にも通っているというから驚きだ。
本展は金村の写真家としての活動における初の個展で、2023年の冬から撮り溜めていたセルフポートレイト作品と、それに呼応するランドスケープ作品によって構成されている。撮影やコンセプト、モデルや衣装、ロケーションなどは全て金村自身によって制作されているとのことだ。
金村自身が綴った言葉を満喫
昔から写真展を開催するのが目標だったという金村。本展は夢が叶い、写真家としての第一歩を踏み出した証となる記念すべき展覧会である。白い壁と控えめな光に満たされた会場は、写真と映像36点で構成されている。
入口では全5種ランダムのフォトカード1枚と本展のリーフレットを入手できる。リーフレットと壁面の文章は全て金村によるもので、まるで日々の思いが丁寧に綴られた日記のようだ。一つひとつの言葉が選び抜かれており、詩を読んでいるような味わいがある。撮影時に金村が何を感じ、何を考えていたのかが伝わってきて、鑑賞の貴重な手掛かりになった。
一緒に旅をしているかのよう
本展のタイトル『みとめる』は、金村が孤独を感じながら旅に出て、焦りの中で一人の時間に慣れ、自分自身を癒して認めていく過程を示す。「2023冬 in 北海道」「2023春 in 静岡」「2023夏 in 神奈川」「2023秋 in 長野」「2024冬 in 広島」「2024春 in 青森」「おわりに」という形で季節ごとに区切られ、金村と一緒に各地へと旅をしているような感覚になる。
北海道の雪の結晶、静岡の華やかな桜、神奈川の青い海、長野の色とりどりの紅葉、広島のノスタルジックな街景色、青森のみずみずしい緑など。日本の四季の美しさを再発見できる構成で、穏やかな時の流れを感じた。
撮影された景色は、時に自然のままに、時に抽象的な形を取っている。これらは金村の意識に留まったものであり、心象風景なのだろう。セルフポートレイトにおいて金村は情景の中にしっくりと溶け込んでいるので、自然と触れ合う時間を大切にしていることが伝わってきた。
“写真家”としての金村を示す展示
本展は、アイドルとしてではなく写真家としての金村作品を紹介しており、アイドルであることはプロフィールで触れるにとどめている。そのため、ここにあるのは金村がパーソナルな表現として出したかったものだと実感できる。
アイドルは常に輝いているものの、気を張ることが多く、弱みを見せてはならないというのは壮絶なプレッシャーだろう。ここにある作品は金村のアイドルとしての明るい顔ではなく、繊細な優しさが漂う瞳、寂しそうな横顔、明確な感情になる前の漠然とした表情といった一人の人間としての顔を捉えており、不安定さや儚さも含めて魅力的だ。
セルフポートレイトは自分自身を見つめる行為である。金村は写真を撮ることで自分をまっすぐに捉え直し、誠実に向き合い、認めようとしているのだろう。随所に鏡の作品があるのも、自己を確認する過程を示しているように感じる。来場者もまた作品を通して、自分の奥にある感情を発見し、向き合うことができるだろう。
一概には言えないが、アイドルやモデルとして人前に立つ仕事は、自分の可能性を強く信じる必要があるように思う。一方でつくり手になる場合、自分の弱さに気づきながらそれを受け入れ、弱さをも作品に活かせる時もある。そうであれば、金村の感受性の強さや内省的な性格、自分をなかなか認められない完璧主義の部分も、写真家として活動を継続するにあたっての強みになり得るだろう。今の金村にある幅広い魅力を伝え、未来への期待を抱かせる展示だった。
金村美玖 写真展『みとめる』は、10月6日(日)まで、東京都神保町のNew Galleryにて開催中。
文・写真=中野昭子