漢字と文章読解に苦戦!学習障害とは違う自閉症の特性?苦手克服の工夫と学校での合理的配慮【読者体験談】
監修:森 しほ
ゆうメンタル・スキンクリニック理事
読めるけれど書けない漢字。問いから外れた答えを書く文章読解。ASD(自閉スペクトラム症)の息子は国語に困難さがありました
6歳でASD(自閉スペクトラム症)の診断を受けた現在14歳の息子は、漢字を読むのは得意でしたが、書くことや文章の読解に困りがありました。
幼児期からルビ付きの図鑑を一人で読んでいましたし、小学校入学後もテストはいつも満点。「漢字が苦手」と感じることは全くありませんでした。ところが、小学校2年生頃から、宿題の漢字ノートを1ページ書くのに1時間以上かかるようになりました。様子を見ていると、何度も手が止まり、書けなくなってフリーズする場面が。理由を聞いても「疲れた」と一言だけ。たくさん練習しても翌日には全部忘れてしまい、「思い出そうとしてもはっきり思い出せない!書けない!」と大泣きしたこともありました。
また、文章読解でも、問いとまったく違う答えを書くことが増えました。どうやら、長文の前半は理解できているものの、後半になると頭が情報でいっぱいになり、話の要点がつかめなくなっているようでした。
このような漢字と文章読解への困難さですが、小学校高学年になった頃にはずいぶん改善されました。この記事では、息子の漢字、文章読解への取り組みの工夫と、学校に求めた合理的配慮についてお話しします。国語に苦手さを感じている方にとって少しでも参考になるとうれしいです。
覚えられない理由は「認知の偏り」?学び方の変更と板書対策、学校へ求めた「折り紙とお絵描き」という合理的配慮
最初はLD・SLD(限局性学習症)を疑いましたが、かかりつけ医からは「認知の偏りの影響が大きい」との指摘がありました。「苦手な分野は繰り返し学習することで定着させていくのがいい」とアドバイスを受け、息子に合う学び方を模索しました。
いろいろ調べていると、漢字の覚え方には「音と組み合わせる」「全体の形でとらえる」「部分的な形の組み合わせで覚える」などがあると知りました。息子の場合、音よりも視覚的に部分ごと形を覚え、それを組み合わせる方法が向いていたので、書き順ではなく、ブロックごとに分けて漢字を覚えることを意識しました。
無料ダウンロードできる認知傾向に応じた漢字プリントを見つけ、それに取り組むようになりました。すると、50問テストで5問正解できたら大喜びするほどの状況から、45問以上取れるようになりました。
また、漢字が苦手なこととつながっていると思うのですが、息子は板書がまったくできませんでした。また、当時は授業中の多動も多くあることも課題でした。
息子に板書ができない理由、多動になる時の気持ちを確認したところ、はっきり教えてくれました。
「何を書いて良いのか分かんなくなって、途中で書けなくなるんだよ」
「じっと座っているとだんだん不安になるんだよ。息苦しくなるから、動き回ることで気持ちを落ち着かせようとしているんだ」
私はさっそく医師に相談をし、板書については「絶対に覚えるべき単語のみをノートへ書き込み、ほかに写す必要のあった内容は、学校から帰宅後、家で記憶を手繰り寄せてノートに書きこむ」と方針を決め、学校の許可を頂きました。
また、多動は不安からくる行動であることから、授業中、本人が望んだら折り紙やお絵描きといった座ってできる行動をすることで、不安を解消をさせてほしいと配慮を求めました。学校は始めこそ渋ったものの、医師の診断書を用意したことで何とか受け入れてくださりました。結果的に、折り紙やお絵描きをしながら学ぶことで、先生方が思う以上に勉強に集中し、積極的に挙手をして発言もするようになったという息子。先生方は苦笑いしていました。
宿題は、漢字ドリルと漢字ノートへの書き込み2回が毎日の宿題でしたが、苦手が分かってからは漢字ドリルの書き込みと無料ダウンロードできる認知傾向に応じた漢字プリントに取り組み、それを宿題として提出しました。それからは、日々の勉強にも余裕が生まれ、息子も楽になったようでした。
やがて3年生から理科や社会が始まると、特に社会で「漢字で答える問題」が書けず苦労していました。ですが、解答が漢字指定がない場合はひらがなで書いていいんだよ伝えると、いくぶん心の負担は軽減したようです。
文章読解は、サクッと終わる負担の少ないドリルでコツコツ積み上げ
文章読解については、小学3年生から市販の一般的なドリルを使って学習しました。特別支援の教材も試しましたが、問題量が多く、息子が「見るだけでつらい」と言うため、見た目の負担が少なくサクッと終わるドリルを選びました。
2年生の頃からすでに長文読解が苦手だったので、2年生向けのドリルからスタート。毎日1枚ずつ解くことで、少しずつ正しく答えられるようになり、長文の最後までしっかり読めるようになりました。
そして、中学生になってからは通信教材を活用して予習をするようにしました。そのおかげで学校の授業もしっかり聞けるようになり、小学校の頃のようなつまずきはなくなりました。また、今は読解のコツが書かれた高校受験向けドリルも活用中です。数学の公式のように「答えがどこにあるか見つけるコツ」が書かれているので、息子には分かりやすかったようです。ただ、例題だけは私も一緒にやっています。一緒に取り組みながら気を付ける点をさらにアドバイスすることで、息子は「一人でやるより、内容が印象に残る」と言っています。
中学校では予習主義に。塾での取り組み方には成長が見えて感動!
中学生から始めた「予習型」ですが、家で一度確認していることから心の余裕が生まれるようで、学校ではしっかり先生の話を聞き取り学べるようになりました。「予習型」は息子にあっているようです。
また、通っている中学校では5教科すべてに先生方が作成した専用プリントがあり、生徒はそのプリントに黒板の内容や先生の話を書くようになっています。どこに何を書けば良いのかが一目瞭然でもあることから集中して学習できるようです。
また、塾選びでは、高校受験を見据えて応用力をつけられるところを選択。先生の話が楽しいという理由で最終的に決めました。
塾では自主的に問題に取り組むようになり、授業時間外に先生へ採点をお願いすることもありました。その姿に感動していたのですが、実はテキストを終わらせると先生から「検印」がもらえるそうで、その検印付きのテキストに憧れていたという単純な理由。それでも勉強する姿勢がついたことは大きな成長でした。
息子は「勉強には終わりがないね」と嘆きつつも、目標の大学を目指しあきらめることなく毎日勉強を頑張っています。また、自分の特性も受け止められるようになり、今のうちに得意をさらに伸ばそうと英語に力をいれ、昨年無事英検3級も合格し、大喜びしておりました。
目に見えにくい特性や学習の困難さにおいては、今も苦労が多くあり、その度に悔しいと落ち込むこともありますが、どうかこれまでの自身の積み重ねを否定することなく、これからも日々精進してほしいなと願っています。
イラスト/志士ノまる
エピソード提供/なの
(監修:森先生より)
勉強のつまずきについての体験談をありがとうございます。 お子さんに寄り添いながら、試行錯誤をして工夫を重ねられてきたのですね。 今ではしっかりとお子さんに合った勉強習慣が身について、英検合格まで達成されたとのこと、本当に頑張られましたね。
さて、ASD(自閉スペクトラム症)の特性のひとつとして「認知の偏り」があります。 視覚的・聴覚的情報や記憶の定着に独自のパターンを持つことがあるのです。 そのため、漢字の「書き取り」が苦手でも「読む」ことは得意、といったケースがあり、勉強の方法に悩まれることも多いでしょう。 視覚的に全体を認識する能力が高い一方で、細部の記憶や短期記憶が難しいといったことが考えられます。「ブロックごとに分けて漢字を覚える」という方法は、この認知特性に合わせた素晴らしいアプローチですね。 全体像を分解して理解するのが得意なお子さんにはとっても効果的なのではないでしょうか。
また、お子さんが「じっと座っていられない」という場合、感覚調整の難しさや不安が身体的なストレスとしてあらわれていると考えられます。そんな時には、今回のケースのように、折り紙やお絵描きなど、座ったままできる方法で気持ちを落ち着かせることが効果的です。 えんぴつ回しやハンドスピナーのような手遊び、感覚遊びで落ち着くこともありますね。 どのような方法が合っているか、試しながら探していくのがいいでしょう。
発達障害は目に見えにくい特性ですので、時に周囲から誤解されてしまうこともあります。 医療機関などの専門家のサポートを受けながら、学校とよく相談して環境を整えることが大切です。 これからもお子さんが自分のペースで進んでいけるよう、応援しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
SLD(限局性学習症)
LD、学習障害、などの名称で呼ばれていましたが、現在はSLD、限局性学習症と呼ばれるようになりました。SLDはSpecific Learning Disorderの略。