「批判されないで新しいことはできない」田中均が外交における信条を語る
大竹まことがパーソナリティを務める「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送・月曜日~金曜日11時30分~15時)、11月13日の放送に元外務審議官の田中均が出演。ジャーナリストの青木理、経済学者の金子勝に、外交にまつわるエピソードを語った。なお今週、大竹はお休みとなっている。
青木理「田中さんについては改めて説明しなくても、と思いますけど。僕なんかは朝鮮半島の取材をしていたので、史上初の日朝首脳会談をお膳立てした外交官、というイメージを持っていました」
金子勝「僕、本当は経済じゃなくて歴史や哲学が好きだった。東大の文科三類を受験するといったら『勘当する』と言われて(笑)。それで経済を選んで、良かったと思うのはリアリズムのことなんです。いろいろ言ってもカネがないと生きていけない。リスク分散という言葉があって。1個にハマり込むと成功すればいいけど失敗すればどうにもならない。それをいつも分散しながら外交のカードを大量に持とうとする、田中さんの思考はすごいなと」
田中均「外交官というのはリアリズムがベースになっている、ということは間違いなくて。外交していくうえで、できるだけ多くのテコを持って、それを操りながら交渉しない限り、なかなか成果は得られないと。青木さんもご存じのとおり、僕なんかすごく批判されてね。一貫して思っていることで、この本(発売中の著書『タブーを破った外交官 田中均回顧録』)の主題でもあるように、批判されないで何か新しいことができるかといったら、絶対にできないんです」
青木「うん……」
田中「既得権益を破る、規制の考え方を破る。それで仮に批判を受けたから何もできない、ということではない。批判を恐れない、というのが少なくとも私にとっては信条でした」
青木「リアリズムを重視する一方で、ある種の理想というか。田中さんが前におっしゃっていましたけど、戦後日本外交に積み残された宿題、1つは日朝の間の国交を正常化することだ、そのためには様々なハードルがある、あるいはロシアとの間で平和条約を結ぶと。理想を目指していくことの重要性とせめぎ合う中で批判を受けることもある」
田中「そのことは皆、外交課題です。外交課題をこなしていく、というのが基本なんですけど、そこで活路を開いていくためには批判を恐れないということ。私が先日、日本記者クラブで講演したときに『タブーって何ですか?』『どんなタブーを破ったんですか?』と聞かれたんですね。本のタイトルにもあります」
青木「タブーを破った外交官」
田中「この本にタブーとは何かを書いてあるわけじゃありませんが、自分にとってタブーは3つあったと。1つはアメリカ、1つは政治、1つは世論というタブー。官僚というのはどれにも触(さわ)れない。米国に対して物事を批判的に見たり、向こうが嫌うことをしたり、ということは伝統的な外交、外務省にとってはタブーだった。それから政治。特に自民党の政治が長く続いて、批判するということは許されない」
青木「うん……」
田中「最近だといちばん難しいのは世論です。そもそも計量的に計るのは難しいし、何が世論なんだと。そういうことに尽きるけど、いまの世論はSNSを通じてものすごく激しくなる。激しくなると官僚も政治家も委縮する。特に政治家は選挙で選ばれるから、ポピュリズムに陥るわけです。選ばれるために世論に寄り添うかたちをつくらなければいけないと。さっきおっしゃったような『理想』はあった」
青木「はい」
田中「北朝鮮と、拉致問題や核の問題を解決しなければいけませんね、と。ところが挫折したんです。世論の非常に強い反発があった。ただ世論の反発を仰いだのは政治なんですね。そこで官僚は無力だな、と思いました。官僚として充分な世論対策や政治家との対策をしなかったゆえの結果だったかもしれないけど。だから早めに外務省を辞めた(笑)」