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木下晴香&平間壮一が共演する思いを語る 未来を舞台にした、音楽劇『コーカサスの白墨の輪』インタビュー

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(左から)木下晴香、平間壮一

ドイツの劇作家・詩人・演出家ベルトルト・ブレヒトがナチスの弾圧を逃れてアメリカ亡命中の1944年に書いた『コーカサスの白墨の輪』。“大岡裁き”と同じ中国の物語がもとになっており、生みの親と育ての親とが一人の子供の親権を争う裁判が描かれる。日本でもたびたび上演されてきたこの戯曲を、今回、上演台本・演出の瀬戸山美咲は未来の物語に置き換え、人工知能などの題材も盛り込み、オリジナル楽曲を全編にちりばめた音楽劇として上演する。置き去りにされた子を自分の子として育てる料理女グルーシェ役を演じる木下晴香とグルーシェの婚約者で兵士のシモン役の平間壮一が舞台への意気込みを語った。

(左から)木下晴香、平間壮一

ーー作品への出演のお話を聞いてのお気持ちは?

木下:世田谷パブリックシアターでの公演で主人公のグルーシェ役を演じさせていただけるというお話をいただいたとき、ミュージカル作品ではなく古典作品だったので驚きもありましたが、光栄でうれしいなと思いました。

平間:僕が晴ちゃんと初めて会ったとき、彼女はまだ十代で。『ロミオとジュリエット』で彼女がジュリエット、僕はマキューシオを演じたんですね。今回、晴ちゃんが主人公なんだ、絶対やりたいと思いました。今でも彼女が十代の時のように接しちゃうんです。彼女の出演作品を観に行ったり、コンサート等で一緒に舞台に立ったときは、大人になったな、何だか手の届かない人になっているなと思うんですけれども。

木下:17歳で、デビュー作でご一緒させていただきました。壮ちゃんは何もわからない状態だった私を知っているお兄さんなんです。

木下晴香

平間:赤ちゃんみたいな感じだったよね。どうしよう~みたいに右往左往して、泣きそうになりながら頑張っていて。でも、緊張している風にも見えなかったし、すごいなと。

木下:当時の方が今よりも怖いもの知らずだったかも。壮ちゃんがいるとすごく安心するんです。出会ったときから年齢は離れていてもすごく話しやすい先輩で、今回も壮ちゃんが出演すると聞いてほっとしました。デビュー前に初めて拝見した壮ちゃんの舞台が『レディ・ベス』だったんですが、身のこなしを見て、この人はいったい何者なんだろうと思って。『ロミオとジュリエット』のマキューシオは、すごく繊細なところとエネルギー爆発的なところとがあって、こんな人になりたいなって思ってました。

ーー今回の作品についてはいかがですか。

木下:ブレヒトの原作を読ませていただいたとき、第二次世界大戦中に書かれた作品ではあるけれども、今を生きる私たちにも覚えがあるなと、そういう刺さり方をして。良くも悪くも人間って変わらないんだなと思いました。今回、舞台が未来になるということで、どう描かれるのか楽しみです。私が演じるグルーシェは、戦争のある世の中で、希望や願いを背負えるような、世の中を切り開いていく力強さをもった女性なので、しっかりと地に足をつけて進んでいけたらなと思っています。

平間:「女性は強い」でくくっていいかわからないんですけれど、やっぱり母性とかそういったものをもっているのは女性なのかな、男にはどうしたって考えられない愛情みたいなものがあるんだなって思いました。晴ちゃんが言ったみたいに、今も昔も人間ってあまり根本的には変わらずに来てるんだなと。日本でもいつ戦争が起きるかもわからないし、どうやったら争わずいられるんだろうとか、愛があるからやっぱり守りたいもののために戦ってしまうよな、なんて考えます。瀬戸山さんもコメントで「人間が戦争をやめられないのは、言葉があるからだと私は思います」とおっしゃっていて。舞台では100%の気持ちでセリフをしゃべるとしても、例えば今こうして話しているときって、気持ちも考えもいろいろなパーセンテージになっていく。全部100ではないというか、これを言ったらどうかなとか、今はこう言っておこうかなとか、心の中で本当に思っていることって言葉だけでは伝えられない。考えがまとまっていなくても頭の中にあるものがちゃんと伝われば世の中ってよくなるんじゃないかなみたいなことを思いますね。晴ちゃん演じるグルーシェについて言えば、一人で逃げた方が安全だったりするのに、置き去りにされた子をどうしたって見捨てずにはいられない。多分男だったら逃げるぞって思うんですが、女性ならではの考えって絶対あるんだろうなって思いました。

平間壮一

木下:そうなんだ。

平間:今回の台本で僕の演じるシモンがどうなるのか、人間なのかAIなのかまだわからなくて。晴ちゃんのグルーシェとの関係も、それによって変わってくるだろうなと思うんです。

木下:私は人間だということはわかっていて。瀬戸山さんの中でいろいろ構想されている段階なんだと思います。

平間:今の時代は情報がすごく多いし、子供が自分の親さえも選べるとか、けっこう自由になってきていますよね。法律上はもちろん決まっていると思うんですけれども、それより、お世話になった人とずっと一緒にいようとか。今回は親目線からの話が多いと思うんですが、実際その子供はどう思ってるんだろう、その子が選ぶとしたらどっちなんだろう、どっちでもいいじゃんってなるかもしれないなって。子供としてはそのどちらも選べると思うんですが、片方がよくても片方が許さなかったり、これは争いの元だなと。人間って難しい。でも、自分もそんな人間なんだよなと思ったり。AIだと、どこまでが自分の意思なのか、プログラムされたものなのか。AIの役になるとしたら、演じるのが初めてなので、楽しみです。

ーー現段階で瀬戸山さんとどんなお話をされていますか。

木下:二作品でご一緒しましたが、これまで演じた役と共通しているイメージが、逆境の中でブレずにたくましく進んでいく女性で、今回のグルーシェもぴったりだと思ったと言ってくださいました。これまでご一緒してきた作品では、いろいろな現実を抱えながらもしっかり考えて戦い抜く、かなり重い役を演じていて。今回も、自分のことはおいといて、子供のためにという選択を取るところもあったりする役どころです。もちろんグルーシェもすごく葛藤していて、原作では子供を置いていこうとするところもあったりするんですが、観てくださる方が、人間のこういう部分を信じていたいよねとか、言葉の力を信じていたいよねとか、そういった何か信じたいものの象徴みたいな存在になれたらいいななんて思います。

平間:僕は瀬戸山さんとご一緒するのは初めてなんですが、怖くないって聞いています。

(左から)木下晴香、平間壮一

木下:怖くないよ。優しいよ。

平間:みんなで一緒に作っていく方だって聞いていて。今回出されているコメントの言葉にすごく共感したというか、何か似ている部分があるかもって思いました。僕も何か、人間についてとか、どうやったら幸せになれるんだろうとか、なんで悲しくなるんだろうとかいっぱい考える日があるんです。でも、何かもう答えは出ないなと思ったら嫌になってやめちゃう。そういうことを考えるようになったのは、舞台をやるようになってからですけれど。平和を願ったり、いろいろなメッセージを伝えたくて演劇をやっていますが、やっぱり誰のことも変えられないなとか、ちょっとした意識ぐらいしか変えられないなと。でもせっかくやるならもっと大きいこと、世界平和に向けてやりたいって思った時期があって、自分に何ができるだろうと考えて、結局はちょっとしたことが大事なんだなって気づいて。ちょっとだけでも意識を変えるとかどうよくなるかを考えていけば、それがどんどん集まって大きくなってよくなるんじゃないかなと思って。それで舞台を続けてきたんですけれども、ある時期、どうにもならないじゃんと思って、自分のことで精いっぱいだから他人のことまで考えていられないよみたいなときもあって。でも、やっぱりもう一度ちゃんと考えなきゃいけないと思って、瀬戸山さんのコメントを読んで、僕にとってこの作品をやるいいタイミングなんだなと。考えていることが共通する。自分は今絶対考えるべきときなんだなと思いました。

木下:壮ちゃん、瀬戸山さんと共鳴しそう。

ーー瀬戸山さんの演出についてはいかがですか。

木下:同じ目線で一緒に考えてくださる方という印象がすごく強いです。作品について質問しにいくと、明確な答えをもっている演出家さんもいて、それももちろん素敵なんですが、瀬戸山さんは、思っていらっしゃるヴィジョンを話してくださった上で、そこから同じ目線で一緒にさらに考えてくださる。お稽古場でもそうですし、公演中も、時間があれば千秋楽まで毎公演観に来てくださって、一緒に探し続けてくださる。ずっと寄り添ってくださる方ですね。

木下晴香

平間:瀬戸山さんの作品は『ある都市の死』と『ボニー&クライド』を観ましたが、何か、人間が好きな方なんだなと思って。

木下:すごく向き合ってくださる方なんですよ。

平間:『ボニー&クライド』にしても、そこまでやったらお客さんはひいちゃうよ、とかいろいろ言う人もいると思うんですが、舞台上の二人の関係性をまず大事に、役者がやりたいようにやらせてもらえる演出家なのかなと思って。舞台上の人たちを最優先して、ギリギリまで攻められる人なのかなと思いました、だから少し怖い方なのかなと思ったら、優しい方でした(笑)。

木下:雰囲気がすごくやわらかいけれども、信念や舞台で描きたいと思われていることにものすごく強いメッセージがあるから、そのギャップがあって。

平間:スイッチが入るときがあると聞きました。楽しみです。

ーー世田谷パブリックシアターという劇場についてはいかがですか。

木下:私、本当に好きな劇場なんです。

平間:僕も観に行くのがすごく好き。何でしょうね、あの、劇場に入っただけで気分が上がる感じ。

平間壮一

木下:天井もすごく好きですね。前回はストレートプレイで立たせてもらったんですが、舞台上でアップしながら、ここで歌いたいなって思ってました。セリフを発したときの響きがいい感じの劇場だったので、そこで歌えるんだなというのがうれしいです。

平間:僕は出演するのが初めてで、ずっと出たい出たいと言っていて。何か、すごく演劇好きの人がたくさん観に来る劇場というイメージだから、その舞台に立てたら自分としてはまた一段階上がれるみたいな目標をもっていて。だからその夢が叶ってうれしいです。あと、めちゃめちゃ皆さんの愛が強かったです。ビジュアル撮影から劇場の皆さんが見守っていて、これいい、これダメだねと言ってくださって。どの作品もそこが一歩目なんですが、こんなに愛をもって作品を作っている劇場なんだなと感じました。

ーー公演への意気込みをお願いします。

平間:人間についてみんなで考えて、このカンパニーならではの一つの答えみたいなものが見つかった上で公演して、観に来てくださるお客様が何か考えるきっかけになればなと。答えは見つからなくてもいいんですけれども、そのきっかけを与えられるような作品にしたいなと思っています。

木下:観る方がもちろんグルーシェに感情移入したりすることもあると思うんですが、ブレヒトは感情移入させることを目的にして書いているわけではないんですよね。観に来た方が自分の中でハッとするような気づき、観た後でどこか能動的になれるようなものを手渡すことができたらいいなと瀬戸山さんもおっしゃっていました。人間や言葉の可能性を見つめ直すというか、これから先、未来を信じながら歩んでいきたいなと思っていただける作品になるよう、頑張って進んでいきたいと思っています。

(左から)木下晴香、平間壮一

取材・文=藤本真由(舞台評論家)    撮影=山崎ユミ

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