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長野県が掲げる災害時の”逃げ遅れゼロ”。「信州防災」の取組みを危機管理防災課に聞いた

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2019年大きな被害をもたらした台風19号の千曲川の氾濫

移住地域としても人気の長野県の災害特徴

長野県 善光寺平の風景

自然が豊かで教育県としても有名な長野県は、「移住したい都道府県」ランキングで(出典:宝島社『田舎暮らしの本』)19年連続1位となっている。
東京・名古屋と都市圏からのアクセスも良く、昔から軽井沢や佐久など夏に過ごしやすい避暑地としても知られており、別荘も多い地域だ。また、縄文時代から人が住んでいた地域であり、文化・歴史も深く、善光寺・松本城などの観光スポットも多い。

土地の特徴でいうと、長野県は海に面していない内陸県である。
県の面積は1万3,562km2と全国第4 位であるが、日本アルプスなど大規模な山岳地帯が県内に多くあるため、可住地面積率は低い。また、海なし県ではあるものの県内には信濃川、姫川、関川、天竜川、木曽川、富士川、矢作川、利根川の8水系が流れている。

2019年大きな被害をもたらした台風19号の千曲川の氾濫

長野県は、地震活動が活発な地域でもある。
ただし、場所によって地盤の硬い場所などは比較的地震の揺れの影響を受けにくいといわれている。県内の一部には南海トラフ地震の震源域もあるが、一部は離れており、災害リスクや被害想定の程度は立地や土地の特徴によりさまざまなようだ。

また近年、地球温暖化が影響している大雨被害も懸念される。
8水系を持つ長野県は、川の氾濫被害にもたびたび見舞われてきた。記憶に新しいところでは、2019年の台風19号による大雨で、千曲川はじめ6つの河川で堤防が決壊。災害関連死を含むと24人が亡くなり、約8,300棟の住宅が浸水の被害を受けている。そのほかにも雪害、火山噴火など、自然が豊かなだけに想定される災害も多い。ひとたび災害が起こると土砂崩れや河川の氾濫などで孤立化してしまう地域もある。

そこで、長野県では"逃げ遅れゼロ"を掲げ、県内の防災に取り組んでいる。今回、長野県庁を訪れて「信州防災」の取組みを長野県危機管理部防災課の小豆畑さんと田中さんに聞いてきた。

お話を伺った長野県危機管理部防災課の小豆畑さん(右)と田中さん(左)

長野県の災害リスク、孤立集落リスクとは

長野県の孤立可能性がある集落

「長野県内では地盤が硬い地域もあるため、地震リスクは地域によってさまざまですが、面的なリスクではやはり、地震被害が懸念される地域が多いです。過去には1847(弘化4)年に起きたマグニチュード7.4の善光寺地震が知られていますが、内陸直下型地震で、江戸時代でも観光客が多かった善光寺領とその周辺は大きな被害を受けました。今後、懸念される南海トラフ地震ですが長野県も諏訪湖から南は南海トラフの対策エリアに入ってきます。
また、県内にかかる浅間山も活火山であり、江戸時代の1783年には天明大噴火という大きな噴火も起きています。
長野県は海なし県なので、津波の被害こそありませんが、山や河川が多く地震だけでなく水害・風害・雪害・火山噴火などのさまざまな災害リスクのある地域です」と、小豆畑さん。

災害によって懸念されるのは、災害が直接影響する人命や家屋の被害だけではないという。
「人や家そのものに被害がなくても、地震などで土砂崩れが起きてしまうと道路が分断され、孤立する地域が出てきます。過疎地もあり、高齢化が進んでいる地域などは薬などが届かないことでの災害による二次被害もあります。
内閣府の調査を2024年に長野県の危機管理部が精査しまとめたのですが、災害時に道路が途絶え、人の移動や物資の流通が困難で孤立する可能性がある県内の集落は、53市町村の計952ヶ所にのぼることがわかっています」と田中さん。

「災害は避けられないのですが、どうやって災害時の被害を最小にするかは正確な情報と備えにかかっています。そこで、長野県では災害時の"逃げ遅れゼロ"を掲げてプロジェクトを立ち上げ、対策をすすめています」と小豆畑さんは話す。

「信州防災」の“逃げ遅れゼロ”への取組みと信州防災アプリ

信州防災アプリ

「逃げ遅れゼロ」には、“すばやく正確な情報”と“次に何をするべきか”がわかる発信が必要だと危機管理部防災課のお二人はいう。

「まず、長野県では住民アンケートをとり、各市町村の代表との検討会を通じて、災害対策として“住民の避難行動を促す情報発信・伝達のあり方検討会”を立ち上げました。きっかけとなったのは、令和元年東日本台風(台風第19号)です。長野県内に初めて大雨特別警報が発表され、記録的な大雨となり、千曲川流域を中心に、県内各地で河川の氾濫や土砂災害、風害等が発生。広範囲にわたる大規模災害となりました。普段から自身が暮らす地域の中でどういったリスクがあるかを把握してもらうため、市町村では地域のハザードマップを製作して配っています。また、地震のような事前の告知ができない災害もありますが、台風や大雨などは雨の降り方や川の水位などを踏まえ、避難に必要な情報などを発信しています。
また長野県では、周知の一環として信州防災アプリをつくりました。平時から見てもらい、スマホの位置情報を取得すればその土地のハザードマップをすぐ見ることができます。また地図上でチェックした地域の危険度をチェックできるほか、“私の避難計画”を作成して家族や友人と共有することが可能です。災害にそなえ、防災を学ぶ。普段も、またいざという時も役立つアプリを目指しました」

アプリのダウンロードは4万6,965ダウンロード(※2025年7月末現在)。長野県だけではなく、他地域で災害が起きたときなどにもダウンロード数は伸びる。ただし、アプリを使ってもらうこと自体が目的ではない、という。

「災害時にはいろいろな情報が飛び交います。ニュースや国からの情報など、できるだけ正確で迅速な情報を役立ててもらうことが一番です。気を付けてほしいのは、フェイクニュースやSNSで飛び交うデマです。こういった情報は誤った判断のもととなり命の危険となることもあります。Lアラート(※災害発生時に地方公共団体などが発信する避難情報や避難所情報などの災害関連情報で、放送局やアプリ事業者などのメディアを通じて地域住民に伝達するためのシステム)なども活用しながら、アプリもそのひとつとして活用していただきたいと思っています」と小豆畑さんはいう。

避難所の運営をサポートする「避難所運営マニュアル」と「要配慮者防災・避難マニュアル」

長野県の「要配慮者防災・避難マニュアル策定指針」

災害の情報が正確に伝わり、逃げ遅れなく避難できたとしてもその後にも課題がある。それは、避難所の環境や運営だ。
災害の二次的被害ともいえる災害関連死は、避難所の環境のストレスや感染症リスクが原因のことも多い。また、高齢者や妊婦、障がいを持つ方や持病のある方などは避難先の環境によっては危険を伴う。そこで長野県は、東日本大震災のあとにいち早く「避難所運営マニュアル策定指針」と「要配慮者防災・避難マニュアル策定指針」の2つを作成した。

「避難所については、各市町村ごとに課題や地域性が異なるため、住民が主体的に避難所運営する際の基本的な指針を示しています。内容としては、避難所の開設、運営、管理、そして避難者の生活環境の確保に関する基本的な事項などの指針です。そこから各市町村ごとに運営しやすく現実的なマニュアルを作成してもらっています。
また、地域で暮らす障がい者、要援護高齢者、妊産婦、乳幼児、難病患者などの要配慮者は、情報の入手や自力での避難が困難なことから、大きな影響を受けることが想定されます。このため要配慮者に対する防災・避難体制の整備等の対策はまた別の視点で講じる必要があります。さまざまな要配慮者の特性をまとめて避難体制時の留意点などもまとめています。
また、このような避難所運営マニュアルについては随時改定が必要です。新型コロナウイルス感染症対策に関する 基本事項記載を追加したり、令和元年東日本台風の教訓を踏まえ、避難場所としてのホテル旅館等の活用やペットの同行避難の記載を追加したり、と見直しをしています。
マニュアルをまとめただけでなく、避難所の開設訓練や学校などの指定の避難所で訓練を行っています」

対策をまとめるだけでなく、具体的に実行できるように各自治体主体での避難所運営のサポートを行っているようだ。

災害時に大切な「自助」、「共助」、「公助」と“3日分の備蓄”の訳

長野県の災害時住民支え合いマップづくり

さまざま災害時に起こることを想定して対策の準備はしているが、それでもやはり公助だけではなく、自助・共助が必要だという。

「大規模な災害時には、家屋の下敷きになったり、ケガをしたり、流されたりと一刻も早く助けないといけない人命を救うことが優先されます。一般的に“3日分の備蓄を”と言われるわけは、人命救助におけるタイムリミットとして“72時間の壁”があるからです。そのため、人命救助が優先される3日間は水や食料など物資の供給などにはどうしても手が回らないことになります。
災害に備えたインフラの強靭化は行政主導で進めますが、まずは自助。“自らの命は自らが守る”住民の意識の醸成が必要です。また、その次は“地域の助け合い”である共助です。地域の状況や近所の方々の状況を知る人々の助け合いが災害時にはいっそう大切です。長野県では関係部局が連携し、市町村及び住民に対し『災害時住民支え合いマップ、地区防災マップ』の作成支援の強化なども行っています。
それでも二地域居住やインバウンドの観光客などが増える中、災害時の被害者を正確に把握することは困難になっています。できるだけミニマムで把握した正確な情報を共有しながら、災害時の対応をしていかなくてはならないのです。自助・共助・公助、いずれもすべてレベルアップしていくことが災害に対処する一番の手段だと考えます」と小豆畑さんはいう。

「信州防災」の取材から災害時の対応や普段の意識醸成など、さまざまに考えさせられた。
日本で暮らしている限り、災害は他人ごとではない。まずは自身が暮らす地域でのハザードマップと避難場所、災害時の対応などを確認しておくことが大切である。
そのうえで、まずは「自助」でできること、地域での「共助」の在り方を考えたい。

■取材協力
長野県危機管理部防災課 
https://www.pref.nagano.lg.jp/bosai/kensei/soshiki/soshiki/kencho/bosai/index.html
信州防災アプリ 
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.lg.nagano.pref.naganobousai&hl=ja

この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。

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