SNSで話題の展示が大阪へ。「そういうことじゃないんだよ展」の仕掛け人・明円卓が語る、“共感のズレ”が刺さる理由とは?
SNSで何度も“万バズ”を記録してきた人気展示「そういうことじゃないんだよ展」。その仕掛け人であり、共感とユーモアを武器にするクリエイティブディレクター・明円卓(みょうえん・すぐる)さんによる最新作「新!そういうことじゃないんだよ展+ありがたいことです展」が、ルクア大阪にて開催されています。
日常生活の中で感じる気持ちの“ズレ”を、思わず愛しく感じてしまうような視点から描いた作品たち。その世界観の裏側を探るべく、編集部は展示初日に現地を訪れ、明円さんご本人にお話を伺いました。
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展示会には楽しい仕掛けが盛りだくさん!共感してもしなくてもOK。ぼくらが種をまき、観てくれた人の発信で話題に“笑いの街”大阪でのリアクションは?アウトプットは楽しくおもしろく、いろんなことを自由に
展示会には楽しい仕掛けが盛りだくさん!
明円さん率いるクリエイティブチーム「entaku」が手がける新たな体験型展示会「新!そういうことじゃないんだよ展」と「ありがたいことです展」が、2025年9月11日(木)までルクア大阪にて同時開催中です。
思わずクスッと笑ってしまうような仕掛けとともに、約350点の作品が展示され、会場は多くの来場者でにぎわっていました。作品はすべて撮影OK。展示の前で笑い合ったり、感想を語り合ったりと、思い思いに楽しむ姿があちこちで見られました。
会場には、ユニークな体験型コンテンツも多数。こちらの「そういうことじゃないんだよ占い」では、ボタンを押すと占い師が登場し、悩みごとに対して“そういうことじゃないんだよ!”とツッコミたくなるようなアドバイスが飛び出します。
同じく「そういうことじゃないんだよ劇場」では、どこかにいそうな登場人物たちによる絶妙なセリフ回しが楽しめるなど、“言葉”を使ったコンテンツが満載。
一方、「ありがたいことです展」では、「ほんとありがたいよねえ」「わかる、わかる!」と共感の声があちこちから上がっていて、作品の前で手を合わせて記念撮影をする来場者の姿も印象的でした。
グッズ売り場には、おもしろくてかわいいアイテムがずらり。その場で100円割引になる「ありがたい割引券」が配布されるなど、遊び心たっぷりの空間となっています。
共感してもしなくてもOK。
今回の企画展で、特に意識されたことを教えてください。
一般的な美術館は静かに鑑賞する場というイメージがありますが、僕たちの展示会は、むしろおしゃべりしながら楽しんでいただくことを大切にしています。
「そういうことじゃないんだよ展」は、共感する人もしない人もいていい。“共感のズレ”から会話や議論が生まれたら嬉しいですね。
日常の“モヤモヤ”を作品にする理由は?
言葉にしてこなかった感情を言い当てられると、「確かにそうだな」と心が大きく動きます。
ときには「いやいや、そういうことじゃないんだよ」と反論したくなることも含めて、心の奥底にある感情を言葉にすることで、一番スカッとする体験になるのではと思っています。
感情をテーマにした作品づくりは、難しい面もあるかと思いますが、どのように向き合っていらっしゃいますか?
感情を扱うのは本当に難しいですが、共感を強要しないことが、炎上を避けられている理由かもしれません(笑)。
制作は広告やPRのプロたちとチームで行い、女性の気持ち、男性の気持ち、10代の気持ちといったそれぞれの立場を想像し、あらゆる視点で違和感がないか徹底的にチェックしています。また、選挙前に選挙関連のネタを出したり、合わないと判断したものはすぐに入れ替えたりするため、展示作品の10倍以上のストックを用意しています。
ぼくらが種をまき、観てくれた人の発信で話題に
来場者が“ちょうどいい温度感”で共感できる言葉にするために、どんな工夫をされていますか?
言葉については、みんなわかるけどちょっと新しい言葉がいいですね。みなさん、新しい言葉を日々求めています。日本語だけどわからない言葉があると、楽しんでくれます。
グッズ売り場には100円の割引券がありますが、「本当はそもそも100円安いんだろ」とみなさんわかったうえで楽しんでくれるメタ的な笑いがあります。ぼくたちがお客さんにギャグを投げまくり、文章を難しくしても、前後の文章を補完して楽しんでくださいます。
展示が毎回SNSで話題になるのもすごいですよね。“バズる展示”をつくるうえで、特に意識されている仕掛けや構造ってあるんでしょうか?
ぼくらの思いとは異なり、実際に観た方によって信じられないような形で話題になります。SNSで広がるのは、観てくださった方の発信によるもの。ぼくらは話題の種をまいているだけですね。
あと、「いいね」マークはハートの形をしていますよね。これは誰かの心をキャッチした回数だと思います。そのためには、いろいろな感情のスイッチを押すことが大事なのだと思います。
“笑いの街”大阪でのリアクションは?
展示会の開催方法にもこだわりがあるそうですね。
美術やアート作品の展覧会は、巡回型で開催されることが一般的ですが、僕たちの展示は少し異なります。たとえば東京での展示がSNSで話題になったとき、すぐ近くの会場に足を運べるように、全国各地での“同時開催”を基本にしています。
「神戸にも来てください」という声も多くいただいていたので、2025年8月25日(月)までは神戸阪急でも開催しています。
大阪会場での手応えはいかがですか?
初日から幅広い世代の方に来ていただき驚いています。大阪は“笑いのハードル”が高いイメージがあったので少し緊張していましたが、みなさんに楽しんでもらえているようで嬉しいです。
アウトプットは楽しくおもしろく、いろんなことを自由に
今後の構想をお聞かせください。
企画展や飲食店を展開していますが、アウトプットのカタチはなんでもよいと考えています。
すでに新しい企画が控えていますが、今後も何をやるとは決めず、楽しくおもしろく、いろんなことを自由にやっていきたいですね。
展示会では、“誰でも行ける美術館”を目指したいと考えています。ぼく自身も美術館に行ってわからないことが多いと感じるのですが、そんな自分でも楽しめる美術体験を提供したいと思います。
\from Writer/
私たちの質問に、ひとつひとつ丁寧にこたえてくれた明円さん。彼がつくるのは、“誰かの気持ちを代わりに言語化してくれる空間”なのかもしれません。この夏、「それな……」と心の中でつぶやいたり、誰かと感想をシェアしながら楽しんでみてください。
新!そういうことじゃないんだよ展+ありがたいことです展
大阪府大阪市北区梅田3-1-3 LUCUA 9階「LUCUAホール」
開催日:2025年9月11日(木)まで
時間:10:30~20:30(最終入場 19:30)
入場料:1,500円 ※12歳以下無料/障がい者割引有
※当日の状況により、会場で当日券の販売もあり
※最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。
写真/anna 文/谷尻知子