鮎川誠のギタープレイを堪能!小山田圭吾や BLANKEY JET CITY との共演も初音源化
ミュージシャン鮎川誠の個性を浮き彫りにする『VINTAGE VIOLENCE〜鮎川誠GUITAR WORKS』
日本を代表するロックンロールギタリスト、鮎川誠の逝去からもうすぐ1年になろうとしている。晩年までステージに立ち続けたシーナ&ロケッツ(以下:シナロケ)。さらに数々のアーティストとのセッション、ソロワークは長きに渡り音楽シーンのスパイスとなり、リスナーはもとより、アーティストにも大きな刺激をもたらした。そんな鮎川の一周忌企画として、ソロワークに焦点を当てた初の企画アルバム『VINTAGE VIOLENCE〜鮎川誠GUITAR WORKS』が10月2日にビクターよりリリースされた。
本作では、初の音源化となる、BLANKEY JET CITYの共演による「I’M FLASH “Consolation Prize”(ホラ吹きイナズマ)」をはじめ、原由子やジャズピアニストの佐山雅弘、さらには小山田圭吾など多岐にわたるジャンルのアーティストとの共演を含み、レーベルの枠を超えた多くのレアトラックを収録。ミュージシャン鮎川誠の個性を浮き彫りにする2枚組のアルバムとなっている。
ロックンロールというフィールドに囚われず、縦横無尽に駆け巡った鮎川誠
考えてみれば、鮎川誠は “継承と革新” の人であった。さらには、ロックンロールというフィールドに囚われず、縦横無尽に駆け巡った “自由” の人でもあった。鮎川のキャリアのスタートであったサンハウスは、1970年代、ブルースに新しい解釈をもたらし、ソリッドながらにグラマラスな妖艶さを持ち合わせた独自性の高いロックンロールを確立した。ちなみにシナロケのキラーチューン「レモンティー」はサンハウス時代の楽曲だ。「♪しぼって 僕のレモンを あなたの 好きなだけ」というメタファーからもサンハウスの妖艶さは理解してもらえるだろう。
地元福岡でサンハウスは、ザ・モッズ、ザ・ルースターズをはじめとする後進のバンドたちの指標となり、ひとつの道筋を作った。福岡の伝統は、のちに “めんたいロック” とカテゴライズされることになるが、東京のメインストリームとは異なるルーツに根ざしながらも、時代と真っ向から向き合うようなエナジーに溢れたサウンドは当時の音楽シーンに風穴を開けた。本作には「キング・スネーク・ブルース」、「地獄へドライブ」というサンハウス時代の代表曲も収録されているので、鮎川がミュージシャンとしての起点でどんな音を奏でていたのかも確かめることができる。
「ソリッド・ステイト・サバイヴァー」でYMOとコラボレート
“革新” という部分からは、本作にも収録されているYMOとコラボレートした「デイ・トリッパー」が挙げられるだろう。ハーモナイザーで加工された高橋幸宏のボーカルに絡む、鮎川のストラトキャスターは、無機質な中に、ロックの本質とも言える普遍的なギターリフをぶち込み、60年代のビートルズの楽曲を来るべき80年代に即した最新型のポップミュージックとしてアップデートすることに成功した。
この「デイ・トリッパー」が収録されたYMOのアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』がリリースされたのが1979年9月。そこから間もなくして、シナロケは細野晴臣プロデュースのセカンドアルバム『真空パック』で脚光を浴びることになる。しかし、この半年前にはエルボンレコードから、ファーストアルバム『#1』(鮎川誠&シーナロケット名義)がリリースされていたのだが、諸事情により、数千枚が市場に出回っただけで流通がストップされてしまう。幻のファーストアルバムとなってしまったという経緯があったのだ。シーナとのパートナーシップで一念発起のファーストアルバムがお蔵入りとなってしまい、その直後のYMOとのコラボレーション。逆境の中、鮎川の自由な感性がシナロケをメインストリームに浮上させたのだろう。
ソリッドなロックンロールのお手本ともいうべき「ROKKET SIZE」
その後、シナロケは1984年にビクターのインヴィテーションレーベルに移籍する。移籍後の第1弾が、ザ・ロケッツ名義の『ROKKET SIZE』だった。これはシーナが三女を妊娠中に、浅田孟、川嶋一秀というオリジナルメンバーで、強固なまでの3ピースで制作されたソリッドなロックンロールのお手本ともいうべき大名盤だ。ここから今回のアルバムタイトルとなった「VINTAGE VIOLENCE」、シーナがコーラスのみで参加している「DYNAMITE」、福岡の伝統に直結したブルースナンバー「BLACK SNAKE」という3曲が収録されている。
本作では、鮎川誠というギタリストの軌跡を辿り、その個性を存分に堪能しながら、数々のコラボレートでどのような化学反応が生まれたのかを確かめることができる。特に冒頭に記したBLANKEY JET CITYの面々とのせめぎ合いともいえる緊張感溢れるセッションで生み出された「I’M FLASH “Consolation Prize”(ホラ吹きイナズマ)」は、日本のロック史上有数の名演だと思うし、ここには70年代、80年代、そして90年代と継承されたロックンロールのエキスが凝縮されている。“俺についてこれるかい?” とうそぶくような鮎川のギターとリードボーカルに、果敢にアタックするかのように音のうねりを生み出すブランキーの面々。ライブならではのグルーヴの加速は、まさに “ロックは生だ。音で勝負!” という鮎川の指針が見事に体現されている。
ロックのダイナミズムとヒリヒリとした感覚が共存する「VINTAGE VIOLENCE」
最後に、本作のタイトルが「VINTAGE VIOLENCE」というのが個人的にとても嬉しかった。大好きな楽曲であるし、鮎川のギタースタイルについて、これほどまでにイマジネーションを掻き立てる言葉もないだろう。ロックのダイナミズムと静粛を切り裂くようなヒリヒリとした感覚が共存するような名曲だ。
眠れる街角のくすんだメロディ
ナイフが踊れば奇跡が起こる
Vintage Violence
悪魔と天使を従えた
Vintage Violence
きれいな瓶に詰まったPOISON
この曲を夜明けの静粛の中、紫色に染まる空を見つめながら聴くのがすごくいい。ロックの神様に抱きしめられたような不思議な感覚に陥る。ここに鮎川誠の本質があることは間違いないのだ。