自閉症娘がはまった!段ボールから単管パイプまで駆使した手づくり感覚統合遊具4選、安全対策も
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
感覚統合のための遊具を自宅につくりたい!
わが家の姉妹には、それぞれに違う発達の特性があります。
次女・あずさ(4歳・発達が早いタイプ)には感覚の偏りはさほど感じられませんが、長女・まゆみ(7歳・ASD/自閉スペクトラム症)は聴覚に過敏さがあるほか、触覚・固有受容覚・前庭覚などは逆に鈍麻さが感じられます。
長女によく見られる「高いところによじ登っては飛び降りる」「ピョンピョンする」「クルクル回る」といった行動は、足りない感覚を得るための自己刺激行動だろうと推測できました。
必要な刺激を得ようと、そうした行動を繰り返している様子に、「専門家や業者のようにはいかなくても、家庭でできる範囲で『感覚に対する欲求に応える場所』を」と一念発起したのが、わが家の感覚統合遊具づくりの始まりです。
感覚統合とは
感覚統合とは、ざっくり言えば「五感や身体のセンサーから得た情報を、脳でうまく整理して使う力」のことです。
私たちの体には、視覚・聴覚・触覚などのよく知られた感覚のほかにも、「からだの位置や動きを感じる力(=固有受容覚)」「スピード感や重力を感じる力(=前庭覚)」など、さまざまな感覚システムがあります。
これらの感覚情報がスムーズに統合されていると、「姿勢を保つ」「空間を把握する」「他人との距離感をつかむ」といった力を適切に発揮できるようになると言われています。
逆に、感覚統合につまずきがあると、体の動きがぎこちなかったり、音や触覚に過敏になったり、反対に刺激を求めて落ち着きがなくなったりすることがあるようです。
発達支援の現場でも広く使われている理論で、難しそうに聞こえるかもしれませんが、要は「からだを使うこと」そのものが感覚統合のトレーニングになるという内容であり、自宅でも実践しやすい支援だと言えます。
わが家でも、トライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ『うちの子仕様』の遊び場が育ってきました。以下に実例をご紹介します。
1 室内ブランコ
天井や壁への補強工事が不要なやり方です。
実は友人が取りつけていたのをそのまま真似させてもらったのですが、つっぱり式の懸垂バーに市販のブランコを吊るしてお手軽ブランコをつくりました。
ブランコは感覚統合を促す代表的な遊具の一つです。前後の揺れは前庭覚を刺激し、しっかりとロープを掴んで姿勢を保つことで固有受容覚や体幹の力を育てます。吊り輪やハンモックチェアに替えることでもまた違った感覚が味わえるので、いろいろ試してみるのもいいかもしれません。
まゆみは特にハンモックチェアを気に入り、本来は敷いて使うはずの座面クッションを取り外すなど自分好みにカスタムして、ゆらゆらしながら心を落ち着けている姿をよく見ます。
【注意点】
安全対策はしっかりと行ってください。
両側に柱のある場所か、耐久度の高いドア枠でないと設置できないため、懸垂バーの説明書をよく読み、設置場所の安全性をくれぐれもご確認ください。わが家は耐荷重200kgのバーを使用していますが、念のため定期的に大人がぶら下がって安全チェックしているほか、万が一の落下に備えて床にマットを敷いています。懸垂バーを鉄棒として使うのは危険ですのでお控えください。
姿勢保持に不安がある場合は、背もたれのあるタイプのブランコにするなど、お子さんの状態に合うものを選びましょう。
2 段ボールトンネル
段ボールが溜まってくると、切り貼りしてハイハイできる程度のトンネルをつくっています。
這って進む、体をひねって抜ける、ちょっとだけ当たりながら進む……こうした動きが、固有受容覚や触覚、前庭覚への良い刺激になるようです。曲がり角や、匍匐(ほふく)前進でないと進めないゾーンなどもつくってコースに緩急をつけるのも喜ばれます。
子どもが暗いトンネルを怖がる時は、ところどころ窓をつくったり、読書灯を持たせたりして探検気分でトライしてもらうのもオススメです。100円ショップの蓄光シールを貼っておいて、いくつあるか探してもらうのも楽しいですよ。
【注意点】
段ボールの切断面は意外と鋭く、肌を傷つける恐れがあります。ガムテープで覆って安全性を高めましょう。
場所を取るので、大抵のお宅では常時置いておくことは厳しいのではないかと思います(わが家もです)。捨てると子どもたちからブーイングが来るので、期間限定の遊びだよと最初に伝えておくといいかもしれません。
3 段ボールハウス
2と似ていますが、大きな段ボールが手に入った時に、長女と次女それぞれの「おうち」をつくりました。
段ボールハウスが感覚統合になるの?と思われるかもしれませんが、くぐったり、こもったりする動きも感覚刺激になり、狭い空間での身のこなしは空間認識能力の向上に役立ちます。
また、聴覚や視覚の情報に疲れやすいまゆみにとって、刺激を和らげてくれる『安心の避難所』の一つになっているようです。
段ボールハウスの良い点の一つは、小さく区切られた空間ができることで普段の遊びの幅が広がることです。
わが家の子どもたちは、大量の積み木を持ち込んで埋もれる感覚を味わってみたり、冬場はクッションや膝掛けを大量に運び入れて狭小フワフワ空間を楽しんだりしていました。また、毛布の上にハウスを乗せ、毛布を引きながらずりずりと移動させるのも感覚に訴える遊びになります(ただし親は非常に疲れます……)。
次女は表札をつけたり、三角屋根に折り紙の瓦を貼りつけたりするなど、趣向を凝らして「理想のカワイイおうち」を少しずつ形にするのも楽しんでいるようです。長女はまだ想像を形にする力が弱いので、飾りつけも私が主導で行っていますが、お子さんの興味に合わせて秘密基地や電車、宇宙船などをつくり上げていくのも楽しそうですね。
【注意点】
2、と同じで、段ボールの切断面で肌を傷つけないようにガムテープで保護します。
また、ハウスが倒れたり壊れたりしても危なくないように周辺の安全には気を配りましょう。
4 単管パイプ遊具
これはまゆみの入学に合わせて設置した自信作です。
まゆみの成長とともに1、室内ブランコのスペースが手狭になってきたので、よりダイナミックな動きができるよう庭に遊具を建てました。
資材は工事現場の足場などに使われる単管パイプと専用のジョイントで、ホームセンターで手に入るものばかり。一辺が約2mの立方体の骨組みに、数本のパイプを足して揺れないよう補強しつつ、ブランコや縄ばしご、時々ハンモックなどを吊るしています。
これは予期していなかった遊び方ですが、あずさは裸足になって上り棒としても遊んでいます。地面にふかふかの人工芝やプールマットを敷いたら、裸足でも遊べるようになった上、安全性も高まりました。
単管パイプは解体・組み立てが容易なため、今後はうんていや鉄棒、可能であればターザンロープなども増設していく予定です。
【注意点】
塗装が思ったよりも大変でした。塗装なしでもバッチリ使えますが、塗っておくと防錆性能が上がり、公園の遊具のような見た目にもなるので満足度は高くなります。わが家は塗装も子どもたちと一緒に行ったので、安全性を重視して水性塗料を使いました。
また、クランプ(後付けできる接合部品)を使う場合、カバーをつける等の安全対策が必要になります。わが家は今のところケガのリスクを少しでも下げたくて単管パイプとジョイントのみで組み立てていますが、今後の増設でクランプが必要になる可能性はあります。
【耐荷重について】
使用した単管パイプは、メーカー仕様では「支点間2mで最大曲げ荷重182kg」とされています。
ただし、これは静止状態での数値なので、ブランコのように揺れる遊具では動的荷重(瞬間的にその2〜3倍の力がかかる)も考慮する必要があります。建設現場の安全基準に準じて安全率を4倍とすると、補強のない状態での実用耐荷重は45kg程度が目安になると考えられます。
わが家では筋交いや支柱を追加して剛性を高め、構造全体で体重を分散するようにしてみたら約80kgの夫でも安定して遊べました。とはいえ、専門的な構造計算まではできませんし、素人遊具に「絶対」はないと考えているため、私自身も使用しながら、ボルトの緩みなどを日常的に点検して安全確保するようにしています。
番外編(より簡単に)
つくるのはハードルが高い!という方向けに、感覚統合遊びに使える市販のグッズもご紹介します。
・家庭用トランポリン
とりあえずコレ!という感じですが、ジャンプは前庭覚と固有受容覚の両方にとても良い刺激になります。
天面に合う形の板を用意するとちょっとしたテーブルにもなるので、わが家では即席プレイテーブルに使ったりもしています。
【注意点】
スプリング式・ゴム式・クッション式など種類があります。スプリング式=運動強度は高いが安全対策が必要で軋む音も大きい、ゴム式=静音性は高いが経年劣化しやすい、クッション式=省スペースかつ安全性は高いが反発力が弱い、などそれぞれに特色があるので家庭の事情に合うものを選ぶと良いでしょう。
・バランスボード
バランスを取る動きは、感覚統合でとても重要です。揺れや傾きに反応することで、前庭覚と固有受容覚が同時に働き、脳が体の位置や動きを把握します。こうした感覚がうまく統合されることで、姿勢を保ち、スムーズに動く力が育つことが期待されます。
【注意点】
フローリング上での横滑りや、床とボードの間に指を挟む事故などを防ぐために、マットの上で安全に使用するようにしてください。うちでは次女が指を挟んで大泣きしてしまったことがあります……。
・バウンシングホース(空気を入れて膨らませる乗用玩具)
前後や上下に揺れる動きは前庭覚を刺激し、バランスを取ろうとする中で体幹や固有受容覚も育ちます。足で地面を蹴る動作は下半身の協調運動にも繋がり、遊びながら自然に「自分の体を思い通りに動かす感覚」を学べる点が魅力です。
わが子たちはバランスボールを使うのがまだ難しく、その点こちらはまたがってピョンピョンできるので、とても重宝しています。
【注意点】
メーカーによって形状や安定感、耐荷重などが大きく異なります。目的に沿うものを選ぶようにしましょう。
・回転するイス
回転する動きは、前庭覚(バランス感覚)を強く刺激します。まゆみがめちゃめちゃ喜ぶので、ついブン回したくなるのですが、速く回すよりも「短時間・ゆっくり・子どもが自分で回す程度」が良いようです。適切に使えば空間認識や姿勢調整力を育てる一助になると考えられます。
【注意点】
感覚統合療法において、回転は特に慎重に扱うべき刺激とされています。苦手な子も多く、人によって刺激の受け取り方が違うため、様子を見ながら行い、決して無理をさせないことが重要です。大人が一方的に回すことのないよう、自分の力で回ってもらうか、子どもが自分でもすぐに止められる程度の速さを心掛けましょう。
まとめ
以上、わが家での取り組みについてご紹介しました。
感覚統合で大事なのは、「個々のニーズに合わせること」だと思います。感覚統合の課題は一人ひとり異なるため、「この子はどんな刺激を欲しているんだろう?」をよく観察するのが重要です。専門的な知識のある方のアドバイスがあると心強いので、療育や病院と繋がっている場合は、信頼できる先生や医師に相談してみると良いかもしれません。
自宅遊具は手づくりならではの柔軟さが魅力です。
わが子に合わせた「感覚の欲求を安全に満たせる場」を日常の中につくったことで、まゆみにとってもあずさにとっても情緒の安定につながっているように思います。
重ね重ねしつこいと思われるかもしれませんが、設置を検討される際は、くれぐれも安全にご注意くださいね。
大物の遊具をつくり終え、やれやれと思っていたら、あずさから「次は滑り台をつくって」と注文が来ました。遊具づくりの道はまだまだ続きそうです……。
執筆/にれ
(監修:室伏先生より)
にれさん、感覚統合の遊具づくりについて、丁寧に共有してくださってありがとうございます。お子さんの感覚欲求や感覚ニーズを観察して、その子に合った遊具を工夫してつくられていること、本当にすごいなと感じました。とても具体的で、実際に取り入れやすいアイデアが詰まっていて、同じように感覚統合を家庭に取り入れたい方にとって、とても参考になる内容だと思います。にれさんも書かれているように、日々のお子さんの行動をよく観察したり、支援してくださっている先生方や療育のスタッフの方に相談しながら、その子に合った遊びや環境を整えていくことは、とても大切で、そしてお子さんにとって心地よい、良い時間になるのだと思います。
※本記事は個人の経験に基づく情報です。制作・利用は保護者の責任のもと、安全に十分ご注意ください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。