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【国際バカロレア】人気の認定小学校を取材!

コクリコ

国際的な教育プログラム「国際バカロレア(IB)」。PYP(Primary Years Programme)認定校『聖ヨゼフ学園小学校』に取材。カリキュラムの内容など(全4回の4回目)。

【国際バカロレア】人気認定小学校を独自取材!

1953年創立の『聖ヨゼフ学園小学校』は、2018年に「国際バカロレア(IB)」PYP(Primary Years Programme)認定校となりました。探究学習では、教科に収まらない幅広い知識や概念を、調査、実験、話し合い、制作などさまざまなプロセスを通じて学んでいきます。

6年間で児童たちはどんな力を身につけ、成長していくのか、PYPコーディネーターの河野健一郎先生にお聞きしました。

伝統校が「国際バカロレア」を導入した理由

「聖ヨゼフ学園小学校」PYPコーディネーターの河野健一郎先生。

──国際バカロレア(※以下IB)を導入された理由を教えてください。

河野健一郎先生(以下、河野先生):導入理由は、本校の成り立ちと関わっています。初代校長である勝野巌神父は、高校卒業時にカナダに移住し、戦中は日系カナダ人の強制移住地で過ごしました。

強制移住地といっても、山間の限界集落に2000人ほどが集められ、現地の人との文化交流もするなど恵まれた環境だったようです。その町の古い消防署を修理して、寺子屋的に子どもたちに読み書きを教える学校を作ったのが、学校教育とのかかわりを持ったはじまりでした。

終戦を迎えて帰国した勝野神父は、このカナダでの経験と、カトリックが大切にしている普遍的価値観を活かし、戦後の平和で豊かな日本社会を築いていけるような人材を育てようと、1953年に聖ヨゼフ小学校を設立しました。

一方、IBは、スイスのジュネーブで生まれましたが、ヨーロッパもやはり戦争で国土を焼失し、多くの犠牲を出しました。平和な世界を築くために教育ができる役割を問うことをミッションのひとつとして、平和に貢献できる人材育成を理念に掲げています。

『この世のさまざまな問題を他人事にせず、自らの課題として積極的に捉え、人々の真の平和と幸福を創り出す人を育てる教育を目指す』という、勝野神父が創立時に掲げた教育方針は、IBの理念と重なるのです。

「子どもたちは、探究活動に関わることはもっと知りたくなるんです。教科学習への取り組みも積極的になりますね」(河野先生)。

河野先生:導入の決め手となったのは、先にIBのPYP認定を受けていた中野の「東京コミュニティスクール」への視察でした。授業中の子どもたちが、受け身ではなく、自分の頭で考え、意見を伝え、真剣に話し合いをしている。その姿が本当に素晴らしかったですね。

探求学習では「正解」ではなく「自分なりの答え」を出す

──実際に導入されてみて、いかがでしたか?

河野先生:IBは非常によくできたフレームワークであって、これまでの日本の教育と相通ずるところも多く、決して特殊なものではないことがわかりました。学習内容をどうするか、どんな教材を使い、どんな場所に行き、どんな活動をするのかは学校に任されているので、カリキュラムも独自に組み立てることができますから。

探究活動は新1年生から取り組みます。入学して初めて取り組む探求ユニットでは、「身のまわりには、限りない発見と疑問のタネがある」をセントラルアイディアとし、まずは教室の中で「これは何だろう?」と思ったものに名前を書いた付箋を貼っていきます。

河野先生:IB型の探究学習の時間では、教科の枠を超えた6つのテーマ(※2回目で紹介)について学んでいきます。学習内容と生活とのかかわりを考え、正解を探すのではなく、自分なりの答えをつくっていきます。

河野先生:従来型の一斉授業しか受けてこなかった子どもたちの多くは、最初は戸惑っていましたね。「正解がない」ということを不安に感じる子もいました。しかし、探究の面白さがわかってくると、どんどんはまっていき、今ではみんな探究の時間が大好きです。

教科学習と探究学習の往復でどちらの勉強も楽しく

──小学校は読み書きや計算など、基礎的な力を身につける時期でもあります。各教科の学習はどのように取り組んでいるのでしょうか?

河野先生:教科の学習内容で探求のユニットと関連付けられるものは、探求の授業の中で取り扱っています。

探求の時間は週7〜8時間設けていますので、具体的な活動と結び付けながら意欲的に学ぶことができています。もちろん履修漏れがあってはいけないので、従来どおりの教科の授業も併せて行っています。

ただ、各科の授業でも各先生の問いかけ方などには、探究的な要素を感じています。

探究活動によって、各教科で学んでいることが暮らしや社会とどうつながっているかを発見したり、逆に探究の時間に取り上げた内容をきっかけに各教科の単元に興味を持ったりするなど、良い循環が生まれていると思います。

校舎内に設けられたホールは、生徒や先生が自由に過ごせる開放的な空間。

1年間で6つのテーマを掘り下げる

──探究の授業はどのようなカリキュラムを組んでいるのですか?

河野先生:ひとつのテーマを6週間かけて学び、1年間で6つのテーマを取り上げるようにしています。

たとえば4年生では、最初に「私たちは誰なのか」というテーマを取り上げ、「責任ある行動が私たちの自由を守る」というセントラルアイディア(テーマを通じて学ぶべきこと)についてさまざまな角度から学んでいきます。

探究学習の導入では、セントラルアイディアの言葉の意味を掘り下げていきます。探究活動では、正解も不正解もなく、自分たちで答えをつくっていきます。

河野先生:まず、このセントラルアイディアからどんなことを思い浮かべるのか、子どもたちが意見を出し合い、大きな紙に書き込んでいきます。「責任」とは何か、「自由」とは何か、「私たち」には誰が含まれるのか。また、自分勝手と自由は何が違うのか、役割と責任の関係など問いを深めていきます。

そして、「ヨゼフの決まり」(校則)を読み返すことで、なぜルールが必要なのかを考え、校則を守ってもらうためのポスターを作り校内に掲示します。最終的には学級目標を作り、そのために自分が果たす役割、その責任について自分で決め、1年間を通して取り組んでいきます。

教室には、今、自分たちが取り組んでいる探究活動によって、どんな学習者像やスキルが育まれるか掲示され、それらを意識しながら学びに向き合えるようになっています。

河野先生:憲法や基本的人権、議会については社会の授業でも勉強しますが、日常生活に結び付けて考えることで、より深い理解や納得を得られますし、自分事として真剣に向き合うことができます。

ポスターを作る課題は、より効果的に伝わる言葉を選び、イラストを描くなど、国語や図工の学習ともつながっています。

そういった探究活動を通じて、「信念をもつ人」といった学習者像(※1回目で紹介)や、思考スキル、自己管理スキルといったさまざまなスキルを身につけられるようにしています。

教科の枠にとらわれない生きる学び

──探究活動で取り上げるテーマは、特定の教科に当てはまらないけれど、社会で生きていく上で大切なことが多い印象です。

清水勝幸校長先生(以下、清水先生):世界ではこういった学びがスタンダードです。日本の学校は、受験をゴールにしているので、どうしても教科ごとの学習にフォーカスしがちですが、実社会には正解のないグローバルな課題がたくさんありますし、スマホで調べればあらゆる情報が得られます。知識だけでなく、今は「知識をもって何をするのか」が問われる時代だと思っています。

校長の清水勝幸先生。「教科横断型の探究学習は世界のスタンダードです。これからの時代は、知識をどう生かすかが大事だと思います」。

河野先生:IBが重視している「概念型探究学習」では、自分たちで課題を設定し、調べたり話し合ったりして最適解を探します。そして、やってみてうまくいかなければ、次にどうするべきか考えるというプロセスを繰り返す。これはまさに、私たち大人が仕事で踏んでいるプロセスと同じですよね。

グループワークを通じて、どうしたら良いチームが作れるか、自分の果たすべき役割はなにかを学ぶことも実社会で役に立つと思います。

6年生は1年間かけて探究活動を行う

河野先生:6年生は、今までの探究学習の集大成として、エキシビションという発表会に向けて1年間探究活動を行います。

自分自身の“パッション”からテーマを決めて、興味関心をどう社会に生かすことができるのかを考え、リサーチし、アクションを起こし検証します。エキシビションは自分で学びのサイクルを回すことができると証明する場でもあるのです。

6年生が取り組むエキシビションでは、近いテーマを選んだ5~6人がチームになり、各チームに1人の教員がメンターとして伴走します。

清水先生:昨年のエキシビションでは、歴史について調べるチームがアウシュビッツを入り口に、集団心理について学び、クラスで意見を言いにくい子の気持ちを考える発表を行っていました。

歴史を生きた学びとして自分たちの課題に結び付けることができていて、見学に来ていた中高の先生方も驚いていました。

得意な能力を発揮する場があることで自己肯定感が高まる

──IBを導入して、一番良かったと思われるのはどんなことですか?

清水先生:探究活動では、調べるのが得意、コミュニケーションが得意、ユニークなアイデアを出せる、統率力があるなど、それぞれの生徒がもつ能力を発揮し活躍できる場が必ずあります。

それは、「自分が受け入れられている」「ありのままの自分でいていい」という、生徒たちの自己肯定感にもつながっていると思いますね。

───◆─────◆───


PYPでは探究学習を通じて、課題を設定しリサーチし、行動に起こして検証するという学びのサイクルを自ら回す経験を重ねていることがわかりました。

学習の土台をつくる小学生のうちに主体的な学び方を身につけることは、中学生以降に発展的な学習を進める上でも大きな力となるのではないでしょうか。

国際バカロレア認定校の取り組みを、これからも注目していきたいと思います。

撮影/日下部真紀
取材・文/北京子

聖ヨゼフ学園小学校
住所:神奈川県横浜市鶴見区東寺尾北台11-1
電話:045-581-8808
https://www.st-joseph.ac.jp/primary/

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