「日本で影響受けた監督は黒澤明、そして深作欣二」“胸糞映画の天才”ジュスト・フィリッポ監督インタビュー到着『ACIDE/アシッド』
死の酸性雨が降り出した世界を舞台に、極限状況に陥った人々の決死の脱出劇を描く極限サバイバル・スリラー『ACIDE/アシッド』が、現在全国公開中だ。このたび、ジュスト・フィリッポ監督より日本の観客へメッセージ動画が到着した。
人も、家も、街も、溶ける
もしも、ごく平凡な日常生活を営む私たちのもとに、空から硫酸のような雨が降ってきたら……。本作は、「第76回カンヌ国際映画祭」ミッドナイトスクリーニング部門や「シッチェス・カタロニア国際映画祭」に出品され、2024年の「セザール賞」視覚効果賞にノミネートされた黙示録的な衝撃作。人、家、街、すべてを溶かしていく、超高濃度の死の酸性雨が降り出した世界を舞台に、極限状況に陥った人々のこの世の終わりからの脱出劇を描く。
監督は、イナゴの狂気を描いたホラー『群がり』(21/Netflix)で長編デビューを果たした新鋭ジュスト・フィリッポ。2作目となる本作では、ダイナミックなワイドショットと視覚効果を駆使して迫り来る“殺人雲”から降り注ぎ、人間や動物はもちろんのこと、車や建造物までも溶かす“死の酸性雨”の恐ろしさを生々しく映し出す。電力や水道などの公共インフラがたちまち無効化され、市民が身を隠せる場所すら失っていく壮絶なストーリー展開に戦慄せずにいられない。
ジュスト・フィリッポ監督は、「フランスで日本映画が上映されているように、本作が日本上映されることに感謝を伝えたいです。そして日本や世界中の映画館が観客でにぎわい、感動体験を共有し、映画館を出るときにより強くなった自分や確かな手応えを与えてくれる。映画の価値を信じてください」と日本公開に対しての感謝と、映画の力を語った。続けて、「日本映画!フランス映画!世界中のすべての映画そして映画館にバンザイ!」とテンション高めに締めくくった。
「日本映画で最も影響受けた監督は、黒澤明監督」
さらに、監督インタビューも公開された。主人公は、逃げる。それが、唯一のできること。酸性雨から世界を救う特別な力など、我々のように持っていない。リアリズムを追求し、ハリウッド的な表現を避けたというジュスト・フィリッポ監督に、その意図や、本作のテーマとなった異常気象、また日本映画から受けた影響について伺った。
——自然災害といえば、いろんな事象がありますがなぜ「酸性雨」をテーマに選んだのでしょうか?
雨というのはそもそも水ですが、「水」というテーマを「水のライフサイクル」と考えたときに、水はまず雨が降って、地面から蒸発して雲にそしてそれがまた雨となり川に戻っていく、そういった一連の流れがあるんですが、それを人間、あるいはさまざまな状況によって、そのライフサイクルが阻止されてしまったことによってもたらされる恐怖を描きたかったです。簡単には理解できないようなことが、危険につながるんだという怖さを描きたかったので、酸性雨をテーマにしました。
——年々悪化する気候変動警鐘を鳴らす作品だと感じました。日本も異常な猛暑が続いています。実際に起きている環境問題の事柄で本作に影響を与えたことはありますか?
参考にした事象などはたくさんありますが、まず身近に感じていることは四季がなくなってきているということです。今このインタビューは、私の祖父母の建てた山小屋で受けているのですが、(※ZOOM形式インタビュー)山岳地帯で標高1500m以上の高いところにいるんですが、周りの森林を散歩してみると、木々が壊れていくような音がしたり、昔は虫がたくさんいて蚊に刺されたりしましたが、虫が湧いたり、動いたり、増えてるようなあの感じが、今ではもうその山を歩いていても感じなくなり、虫が減ってきているなと感じています。そのようなことから異常気象ということを身近に感じています。
——フランスのインタビューでハリウッド的な表現を避けたとおっしゃっていましたが、その意図を教えてください。
ハリウッド的な表現を避けた意図というのは、アメリカ映画だと主人公を危険にさらして、最終的には守っていくということがあるんですが、主人公がアンチヒーローの場合でも同じで、アメリカ映画の場合、特にシリーズものですと、主人公の立場を守るというようなことがあるので、私はあえてそれとは逆のことをしたかったというのがあります。ハリウッド的なものとは違った、逆のアプローチをしたかったというのも私の試みでした。
——ジャンル映画でも社会性を掛け合わせたような作品が日本でも多く作られてきています。日本のホラー作品などで好きな作品、影響を受けた監督などはいますか?
私もそうですが、特にフランスではたくさんの日本映画に触れる機会があります。日本には素晴らしい監督が本当にたくさんいらっしゃるため、ここで全部はあげられないのですが、日本映画で最も影響受けた監督は、黒澤明監督ですね。そして深作欣二監督の『バトル・ロワイヤル』は、私に本当に大きな影響を与えてくれました。『バトル・ロワイヤル』は、フランスにおいてすごく重要な位置づけの映画になるのですが、この映画はアクション映画でありながら、同時に社会問題や思春期といったもの、それから暴力的な現代社会を表現することもできていて、あらゆるジャンルを混ぜたような映画で、すごく重要な作品だと思います。そして、河瀬直美監督も影響を受けた方の1人です。他にもたくさんいるんですが、その辺りが非常に影響を受けた方や作品です。
『ACIDE/アシッド』は全国公開中