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古里見つめ…震災後の海景、街並み「趣くままに画く」 釜石の洋画家・菊池政時さん作品展

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 穏やかに停泊する漁船、荷役クレーンや浮きドックが稼働する活発な港、高台の住宅地から望む海岸線…。海にまつわる景色がずらりと並んだ絵画展が7日から11日まで、釜石市大町の市民ホールTETTOで開かれた。作品を手がけたのは、地元の洋画家菊池政時さん(88)。東日本大震災津波で被災しながらも、身近にある港、まちの風景を変わらず描き続ける。

 展示会のタイトルは「3・11から趣(おもむ)くままに画(えが)く」。震災後に描き下ろした具象画を中心に160点を紹介した。油彩、アクリル、水彩など画材は多様で、サイズもサムホール~80号とさまざま。モチーフは古里・釜石のほか、大海原と迫力ある断崖が連なる「北山崎」(岩手県田野畑村)など三陸の海岸風景が多い。「誰が見ても分かる」と自認する作風。その力作からは豊かな観察眼と高い描写力がうかがえる。

釜石の港や街の風景を題材にした作品が並んだ


 菊池さんは浜町出身。戦中・戦後の遊びの一つが絵を描くことで、「好んだモチーフは軍艦や飛行機。自己表現の手段だった」と思い起こす。絵画にのめり込んだのは中学時代。美術を専門とする教師が持つ“油絵の具”に心引かれ、画材を手に入れるのは難しかったが、見よう見まねで手法を学んだ。

 盛岡市の岩手県立美術工芸学校(のちの盛岡短期大学美術工芸科)に進学。盛岡市ゆかりの洋画家深沢省三、紅子夫妻や美術評論家の森口多里ら魅力的な講師陣から手ほどきを受け、筆を走らせた。非常勤講師には詩人・彫刻家・画家の高村光太郎もいたとか。美術の教員免許を取得したが、家業(公衆浴場業)を継ぐため、釜石に戻った。

 家業の傍ら、映画館の手描き看板や建築現場で利用される完成予想図を手がけたり、「絵に関することは何でもやった」。1990年代に入ると、釜石や大槌の高校で非常勤美術講師として活動。現在も釜石商工高校で指導し、生徒の取り組みを見守りつつ自身の創作活動にも励む。過去には一線美術会、日本美術家連盟に所属し、グループ展や個展など国内外で多数出展。現在は無所属だが、岩手芸術祭洋画部門の理事を務める。

精力的に筆を持つ様子がうかがえる作品がずらり


 「描いた場所が分かる」。菊池さんがもらってうれしい言葉


 震災後の活動を見せる展示だが、1点だけ震災前の作品を掲げた。「造船所A」。菊池さんが長年講師を務める釜石絵画クラブ(市民絵画教室から改名)のグループ展出品作で、震災の津波の爪痕を残す。実家の銭湯、その建物2階にあったアトリエも津波にのみ込まれ、描きためていた作品の多くを失った。手元に残ったのは、数点だけ。今回の展示作と同じく水没したが、生徒らが救い出してくれた。

津波で被災し一部が切り取られた「造船所A」。色彩も薄れる


 被災後は県内陸部への避難、みなし仮設住宅での生活を経て、今は大町の復興住宅で暮らす。高層階の住まいから見える街並みを描写した作品もいくつもあり、精力的な創作活動が続いていると感じられる。

 そんな菊池さんだが、一時期、筆を持てない時期があった。震災を機に銭湯は廃業し、画材道具や作品を失った悲しさに加え、「津波で荒廃した街を描くわけにいかない」と思ったから。意欲を取り戻したのは、平田で仮住まいをしていた頃。津波浸水地から離れた地域で「あるのは健全な建物ばかり」だったこともあってスケッチブックを手に散歩し、目に留まった風景を描きまくった。

 心を動かした平田地区の風景を写生した作品も数点紹介した。その中の1点は、大きな平屋と蔵が並ぶたたずまいを透明水彩で味わい深く表現。モチーフとなったのは津波の被害を免れた家屋で、「残しておきたい景観。負けない力強さを感じた」と思いをのせた。

仮住まい中に描いた作品を紹介する菊池さん


生活の中で見つめる街並みを写し出す作品も多い


 高校の教室から見える尾崎半島をモチーフにさらりとペンを走らせたスケッチと、構図や色彩をしっかりと整え時間をかけて仕上げた一枚を一緒に見せたりもした。菊池さんは「さまざまな表現の方法があることを知ってほしい。自由だということを」と期待する。

 ほぼ毎日筆を持ち、描きたいものを求め散策しているが、「行き当たりばったりで、うまくいかないことも。そんな時は、ぶっ壊して進む」と豪快さをにじませる。そこには「『いい形にはいい色がつく』との省三先生の教え」があり、「デッサンがしっかりしていればどうにかなる。描いていれば絵になる。自分次第」と解釈しているからだ。

「スケッチがあるほど豊かな絵になる」と菊池さんは話す


荷役クレーンと漁船を描けば⁉「釜石らしい風景」を描き続ける


 創作意欲は衰え知らずの菊池さん。「これでいい」という正解はなく、「よし次は!」と挑戦は続く。「思うように描けると期待できる自分がいるから」。画材や作風に変化を加えてみて「大革新」と感じても、「違った絵を…変えよう」と貪欲な姿勢を垣間見せる。「まだ描きたいモチーフがある。さまざまな手法も試したい」。これからも“画描き”であり続ける。

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