不安障害治療において不安をめぐる「思考と行動の悪循環」から抜け出すのが目標なワケ【心の不調がみるみるよくなる本】
不安は避けるより慣れる
私たちは日常的にさまざまな場面で不安を感じながら生活をしています。果たしてこの不安から抜け出す方法はあるのでしょうか。
「常に不安を感じている」のは当然のこと
日本生まれの精神療法である「森田療法」の創始者で、精神医学者の森田正まさ馬たけは「不安常住」という言葉を残しています。誰もが常に不安を感じているのは当然で、不安とともに生きていくという考え方です。
不安障害を治すうえでも、必要なのは不安をまったくなくすということではありません。あえていえば、不安をめぐる「思考と行動の悪循環」から抜け出すのが、治療の目標といえるでしょう。
そもそも不安や恐怖、恥ずかしさといったものの根源は、過去の記憶と現在の欲求の両方にあるといえます。「かつて失敗したり、悪い結果を招いたりした経験が、再び起こるのではないか」というのが過去の記憶であり、「他人から高い評価を得たい」「堂々としていたい」「成功したい」といった考えが現在の欲求です。
まず、「思考の悪循環」を見てみます。過去の記憶については、失敗や悪い結果も前向きに理解することが大事です。そのときは体調が悪かった、誰にでもある失敗だったといった具合に、対処できるものとして扱うようにしましょう。
また、現在の欲求には「こうしたい」という目標だけを置き、「こうあるべきだ」という思い込みは排除すること。過去と現在のとらえ方を変えることで、悪循環から抜け出せます。
「回避」せずに、「慣れる」ことが大事
次は、「行動の悪循環」についてです。「過去の記憶」と「現在の欲求」の両方から目をそらし、思考の悪循環をそのままにした場合、過去の経験は対処不能なため、現在の欲求も取り下げて、ひたすら不安を避ける「回避行動」が起こります。すると、その場はホッとできるかもしれませんが、次も回避できるのかどうかはわからないため、不安はさらに強くなってしまいます。
例えば、過去にスピーチで緊張して絶句してしまい、理由はわからないまま、その経験を繰り返したくないという思いから、本当は再挑戦したい現在の欲求を抑え込み、スピーチの機会を仮病で逃れるといった行動が、典型的な回避行動です。
この行動の悪循環がエスカレートしていくと、人にバレないように隠したり、嘘をついたりしなければならなくなってしまい、仕事や日常生活、人間関係などにも多大な影響が出てきます。
普通、人間は未知のことが不安であっても、経験を繰り返して「慣れる」ことで解消されます。しかし、不安障害が改善しないのは、いつまでもそれに「慣れる」ことができず、心と行動の両面で「回避」し続けているからともいえます。
「回避行動」が悪循環を招く
ひたすら不安や恐怖を避ける「回避行動」を続けていると、 このような悪循環に陥り、なかなか抜け出せなくなってしまいます
この悪循環から抜け出すには、自分の心 の中に「自分はダメだ」「どうせ失敗する」と いった偏った考え方や思い込みがあることを自覚し、このような行動を後押しする言葉に変換する必要があります
CHECK!
ひたすら不安を避ける「回避行動」を続けていると、悪循環がエスカレートして仕事や生活に影響を及ぼす
【出典】『心の不調がみるみるよくなる本』ゆうきゆう:監修