【配信ドラマ「ガス人間」片山慎三監督インタビュー】 1960年の東宝特撮映画を小栗旬さん、蒼井優さん主演で再製作。静岡県内でもロケ撮影。「スリリングな展開。期待して待っていてほしい」
映画「雨の中の慾情」「さがす」「岬の兄妹」や配信ドラマ「ガンニバル」で知られる片山慎三監督が、1960年の東宝特撮映画「ガス人間第一号」(本多猪四郎監督)のリメークに取り組んでいる。2026年、複数回のドラマとしてネットフリックスで配信予定。韓国のゾンビ映画「新感染」シリーズのヨン・サンホ監督がエグゼクティブプロデューサーと脚本を担当し、小栗旬さん、蒼井優さんが主演を務める。撮影は2024年9月から行い、2025年2~4月には静岡県内の市街地ロケも敢行した。静岡市を訪れた片山監督に、伝説的作品の再製作に向き合う心境を聞いた。
(聞き手=論説委員・橋爪充、撮影=写真部・小糸恵介、撮影協力=三保原屋LOFT〈静岡市葵区〉)
SFはずっと前からやりたかった
-今回のプロジェクトについて、ここまでの経緯を教えてください。
片山:東宝とネットフリックスが韓国のクリエーターと協働しようという試みがあって、ヨン・サンホ監督が「ガス人間第一号」のリメークを決め、企画が始まりました。全8話の配信ドラマにすることになって、監督をどうするかとなり、こちらに話が来たんです。
-「ガス人間第一号」は「ゴジラ」の本多猪四郎さんが監督を務め、特技監督は円谷英二さんです。ご覧になってどんな印象でしたか。
片山:お話をいただいて初めて見ましたが、意外と悲しい物語ですよね。特撮映画ではあるけれど人間ドラマとしてもちゃんと描いている。60 年代の日本映画らしいなと思いました。
-八千草薫さんが演じる神々しさすら感じられる美しさの日本舞踊の家元と、土屋嘉男さん扮(ふん)する「無敵」なのにどこか悲哀が感じられる「ガス人間」の組み合わせですね。
片山:その二人の悲恋の部分ですね。結ばれない感じ。
-特撮映画にあれだけのドラマを詰め込むというのは、当時はもちろん現代でもあまりないように感じます。
片山:当時の最先端の特撮を使った映画ですが、作品としてもとても面白かった。
-片山慎三監督と言えば「さがす」「岬の兄妹」「そこにいた男」に代表されるビターな人間ドラマの印象が強いです。今作のようなSFの要素が強めの作品について、どうアプローチしていこうと考えましたか。
片山:今までの作品よりも広い層に伝えなきゃいけないな、と意識しています。ただSF 、スリラー、ホラーといったジャンルはずっと前からやりたかったことなんで。すごく楽しんで、自分でも勉強しながらいろいろやっていますね。
ヨン・サンホ監督から届いた「ファンレター」
-監督のオファーがあったのは3年ぐらい前と聞いています。ちょうど「さがす」を撮影しているころでしょうか。
片山:はい。(ドラマシリーズ)「さまよう刃」が終わって、「さがす」を作っていたころですね。実は東宝さんから連絡がある前にヨン・サンホ監督からメッセンジャーで連絡が来たんですよ。
-面識があったのですか。
片山:直接の知り合いではありませんでしたが、こちらは(映画)「新感染」を知っていて。メッセージは「(片山監督の)ドラマを見ました。すごく良かったです」みたいなファンレターのような内容。「さまよえる刃」についてだったんですが、どうして連絡をくれたのかわからなかったので、ひとまず「ありがとうございます」と返して。
-かなり唐突だったようですね。
片山:正直なところ、「本物かな」みたいな感じでした(笑)。その後に「ガス人間」の話を東宝のプロデューサーの方からもらって。そこでヨン・サンホ監督の名前が出たんです。「あ、そういうことだったのか」と思いました。
-自分がプロデュースする作品の監督を探していた、と。
片山:そうなんです。後から聞いてみたら、ヨン・サンホ 監督はその時期、いろんな日本人監督の作品を見ていたようです。「さまよう刃」も誰かから薦められたのでしょう。
-監督のオファーがあった時、どう感じましたか。
片山:当初いただいた日程だと、こちらのスケジュール的に応じることができなかったんです。別のドラマや映画を撮っていたので。だから諦めていたんですが、いろいろ話をする中で、(日程を)調整してもらえることになった。撮れることになって良かったです。
-サンホ監督は「新感染」シリーズや「地獄が呼んでいる」などでもおなじみです。彼の作品について、どんな印象がありましたか。
片山:ゾンビ映画、モンスター的な映画でしょうか。絵が 結構リッチでハリウッド映画っぽいなと思って見ていました。
今までとは違うことにチャレンジ
-片山監督は通常、脚本もご自分で手がけますが、今回は他者が書いた脚本で撮ることになりました。作品への向き合い方に何か変化はありましたか。
片山:今までとは違うことにチャレンジしている感覚があります。(脚本は)日韓の文化的な違いを正したり整合性を取るために細かいところを書き直したりはしました。ただ、脚本に書かれていること、脚本を書いた人がやりたいことを理解した上で修正したつもりです。
-舞台は現代の日本だと聞いています。どんな点を残し、どんな点を変更したのでしょうか。
片山:男女の恋愛劇の中にガス人間が絡んでいるという点は、共通しています。ただ、役柄の肩書や名前は同じだが物語の中での役割は原作と異なる、という場合もあります。小栗さんの役はほぼオリジナルキャラクターですね。
-ネットフリックスの作品として、広く世界で視聴される可能性があります。さまざまな国に届けるために工夫している点はありますか。
片山:せりふの話し方、行動、文化的なことなど、日本人にしか分からない要素はできるだけ排除するように、とは思っています。変にリアリティーを追求しすぎて物語の歩みが遅くならないよう気をつけていますね。
-テンポが大事なんですね。
片山:あまり難しくしすぎず、分かりやすいものにしたい。できるだけ絵で見せるように。
-主演は小栗さん、蒼井さんですね。それぞれのどんなところを引き出そうとしているのでしょうか。
片山:小栗さんは体格が良くて背も高いので、立ち姿がさまになる。アクションが達者な方なので、うまく見せれたらなと思っていますね。
-蒼井さんはいかがですか?
片山:蒼井さんは昔から好きな女優さん。ナチュラルに演技していただけるので、あまり(演出で)作りすぎず、蒼井さんが持つ感性みたいなものをうまく引き出したい。うまく役柄の感情に乗るんじゃないかと思います。
-静岡市では交通規制を伴う形での繁華街ロケを実施しました。この場所の印象はいかがでしょうか。
片山:都内近郊には、完全に道を封鎖して撮影できるような場所はないんです。大がかりな撮影をする時は北九州、名古屋によく行きますが、今回は静岡県内に協力的な場所があると聞いて。駅前の栄えている場所を使わせていただき、すごくありがたいです。地域の方も温かく見守ってくださいました。
-完成作品はどんな仕上がりになりますか。
片山:CG(コンピューターグラフィックス)ありアクションありのスリリングな展開です。日本のドラマにはない要素がたくさんある。期待して待っていてほしいですね。