東京が舞台&実話ベースの衝撃!「香港版『オーシャンズ』」なイケメン競演ケイパー映画『盗月者 トウゲツシャ』
香港「記録的ヒット」の話題作が日本上陸
香港からフレッシュなクライム・ムービーが日本上陸。11月22日(金)より公開の『盗月者 トウゲツシャ』は今年2月の旧正月に本国で公開されるや記録的なヒットを飛ばした話題作であり、ある実際の事件に着想を得たというヒリヒリするサスペンス劇だ。
「盗月者」(原題も「The Moon Thieves」)というロマンチックかつ意味深なタイトルが表すのは、アポロ11号による人類初の月面着陸に使用された<ムーンウォッチ>と、その国家機密レベルの腕時計に振り回される窃盗団の物語。いわゆる“ケイパーもの”と呼ばれる作品はスタント~アクション要素が強いことが多い香港映画なので、ちょっと珍しいタイプかもしれない。
そんな本作は“日本のオークションに出品される「ピカソ愛用の時計」を奪う”というミッション=物語の起爆剤で冒頭から観客の興味を掴み、スタートダッシュをかます。そしてタイトル通り「ムーンウォッチ」の抗えない魅力(と未知数の価値)が登場人物たちを翻弄し、各々のっぴきならない理由と相まって雪だるま式に厄介な事態へと突き進んでいく。
「月に到達した唯一の時計」が人生を狂わせる?
アンティーク時計の修理に天才的な能力を持つ時計修理工のマー(イーダン・ルイ)。老舗時計店の2代目店主、裏では盗難時計売買の顔を持つロイ(ギョン・トウ)に自身が修理した時計を偽造販売したことがばれ、高級時計の窃取チームに入ることを強要される。
狙いは、東京・銀座の時計店に保管された、天才画家ピカソが愛用していた3つの時計。集められたメンバーは、リーダーのタイツァー(ルイス・チョン)、爆薬の専門家マリオ(マイケル・ニン)、鍵師のヤウ(アンソン・ロー)、そしてマー。
彼らはオークションが開催される東京へと飛び、下調べをしている最中、お目当ての時計が保管された金庫のなかに「月に到達した唯一の時計」であるムーンウォッチを発見する。予想外の展開にマーたちの運命は大きく狂い始め、日本の大富豪、裏でヤクザとも繋がる加藤(田邊和也)から追われることとなり、チームに大きな危険が迫る。
それぞれの弱み、恩義と裏切り――敵味方が交錯する中、4人はピカソの時計を無事に香港に持ち帰ることができるのか?
人気グループMIRRORメンバーの熱演に注目
本作は眼福もののキャスト陣、そして日本版の予告編から軽快な印象を受けるが、冒頭から苛烈な銃撃戦を見せることで、あくまでクライムサスペンスであることも強調する。とはいえ映画本編はテンポの良さがハンパなく、香港で社会現象となっている人気グループ<MIRROR>のメンバーがメインキャラを演じている点も、ヘビーなクライムものに不慣れな観客のハードルをぐんと下げる。
そのMIRRORのアンソン・ロー、イーダン・ルイ、ギョン・トウはアイドルとは思えないガチンコ俳優としての存在感を見せつける。そして本作の“無謀”を象徴する彼らに対し、豊富な人生経験からにじみ出る覚悟や諦観といった闇ビジネスの“逃れられない業”の部分を担っているのが、ルイス・チョンとマイケル・ニンの年長勢だ。もちろん日本からも田邊和也、笠原竜司、朝井大智といった面々が参戦し、中盤以降のゾクゾクするスリルに貢献している。
そんな登場人物のなかでも特に注目したいのが、韓国のチュ・ジョンヒョクと日本の高橋一生を彷彿させるイケメン、イーダンが演じる時計修理工のマーだ。同年同型の安い中古時計から使える部品だけを集めて1本の偽造品を仕上げているという役どころなのだが、精密な時計修理の一部始終を接写映像で見せるSNSアカウントなんかを観ている人ならば、分かりやすい解説セリフとともに時計が組み上げられていくシーンにワクワクが止まらないだろう。
いつもの東京が少し違って見える? アジア映画の魅力爆発
本作は、カンフーアクションにイメージされるような香港映画よりも広い間口で観客にアピールする。それでも、序盤のセリフにある“カネさえ払えばどんな時計も手に入る”という大仰な設定などは、香港の老舗っぽい店構えのおかげでリアリティがマシマシ。日本のセット撮影ではなかなか真似できない、東アジアから西欧まで様々な文化がごった煮された香港近代史が醸し出す無言の迫力といったところか。なお本作は日本での撮影パートも多く、狭い民宿での乱闘シーンやラーメン屋での食事シーンにおける“同じ皿を分け合う”東アジア的ムーブにほっこりする。
そしてやはり、分かりやすいキャラ造形――冷酷さを見せつける悪人、葛藤する気弱な善人、その狭間にいる未熟な若人――にも香港映画らしいケレンみがあり、かつ余計な詮索に頭を使わせない。物語上、彼らのミッション遂行までには様々な工作が必要となるが、その描き方のスピード感も抜群。序盤でのさりげない解説が活きていて、テンポの良さだけでなく観客を混乱させないための演出が随所に光る。
「高価な理由には時計そのものではなく、歴史的背景が重要」というムーンウォッチの価値観には、金品への執着から開放されるためのヒントがあるようにも思える。マーやヤンたち、そしてロウは、国宝級の時計争奪戦の果てに何を得ることになるのか? ぜひその目で確かめてほしい。
『盗月者 トウゲツシャ』は2024年11月22日(金)より渋谷HUMAXシネマ、池袋HUMAXシネマズほか全国順次ロードショー