水族館の癒し代表<ミズクラゲ>を常に展示できるワケ? その理由は<成長プロセス>にあり
水族館に行くと必ずと言っていいほど展示されているのがミズクラゲ。水槽を漂うように泳ぐ姿がとても神秘的で、見る者に癒しを与えてくれます。
そんなミズクラゲですが、なぜ水族館でいつでも観察できるのか、気になったことはありませんか? どうやら海から採集してきているわけではなさそうです。
その秘密とは、ミズクラゲの成長プロセスにあります。
クラゲの代表<ミズクラゲ>
ミズクラゲ(学名:Aurelia coerulea)は、日本周辺の海で普遍的に見られる旗口クラゲ目ミズクラゲ科のクラゲです。
世界中の海に生息し、傘の直径は30センチほどに成長します。
海水浴で刺される場合もありますが、毒は弱く痛みもほとんど感じません。まれに大量発生し、水産業や発電所に多大な被害を与えるため、対策が必要になります。
食べることもできますが、手間がかかるため、通常は食用にはしません。透明で水のようだからこの名になったそうです。
傘には4つのアルファベットの「C」もしくはクローバーのような模様があり、ここには胃や生殖腺などがあります。餌であるプランクトン(多くの場合はブラインシュリンプ)を摂取すると、この部分がオレンジ色に染まります。
ミズクラゲにはオスとメスがいる
5月くらいには20センチ前後に成長して成熟するミズクラゲ。成熟すると生殖腺の色は、オスは精巣が発達して紫色がかった色に、メスは卵巣が発達しピンク色がかった色になります。
遊泳能力が低いミズクラゲですが、繁殖の時期になると集団となり、有性(ゆうせい)生殖を開始するそうです。
有性生殖とはオスとメスの異なる遺伝子を取りこみ、親とは異なる遺伝子をもつ個体を生む生殖方法です。
メスはミズクラゲのオスが放出した精子を取り込んで、体内で受精。受精卵はメスの体内にある保育嚢(のう)でプラヌラまで成長したのち放出され、無性(むせい)生殖期へ移行します。
無性生殖とは、分裂などにより自分と同じ遺伝子を持つクローンを生む生殖方法のことです。
ミズクラゲはどのように成長する?
ミズクラゲは、メス・オスの親クラゲの精子と卵による受精卵から始まる有性生殖期と、ポリプ増殖からエフィラ幼生までの無性生殖期を経る生活環を持つクラゲ。生活環とは個体の出生から死亡に至るまでの一生の過程のことです。
受精卵はプラヌラ幼生となり、着生する場所を探し、着生するとポリプとなり、エサを食べるようになります。
ポリプは根を生やし増殖し、やがて傘が積み重なったようなストロビラに分化。ストロビラから傘が分離してエフィラとなり、メタフィラ、幼クラゲとなり成体へ成長していきます。
クラゲには分裂などで増えるもの(無性生殖)や雌雄のクラゲによる受精を経て増殖するもの(有性生殖)、どちらも行うものなど様々な生活環を持つ種がおり、とても不思議な生きものです。それぞれの種に適応した生き残り戦略なのでしょう。
ミズクラゲの成長をどう制御するのか?
自然界ではミズクラゲの生活環は自然の成り行きのままで進みます。
しかし、水族館では常に成体の展示が必要となるため、成長段階をコントロールしなければなりません。
そこで、成長に関わる重要な因子が研究され、海水温が重要であることが判明しています。
ポリプの段階で水温を25℃程度に保つことで、ストロビラへの分化を抑制できるそうです。
水温を15℃以下に下げる低温刺激によりストロビラに分化させることが可能となり、エフィラが分離していきます。
こうして水温を調節することで、ミズクラゲの成長段階を維持するという原理を発見した人はすごいですよね。水族館の救世主と言えるでしょう。
なお、クラゲの種類によって温度調整は異なるそうです。
水族館の人気者ミズクラゲを見に行こう!
なぜ水族館でいつでも観察できるのか──。
水族館飼育員さんの努力によって、かわいいミズクラゲをいつでも観賞できるのです。
水族館によっては、この成長プロセスが展示されていることがありますので、ぜひ探してみてくださいね。
ミズクラゲの展示は、研究者や飼育スタッフの努力あってこそなのです。水族館では癒されるだけでなく、そうした展示の裏側にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
(サカナトライター:額田善之)
参考資料
エコチルー【鶴岡市立加茂水族館だより】「ミズクラゲ」
太田尚志・2018年度日本付着生物学会シンポジウム「ミズクラゲのストロビレーションに及ぼす温度の影響」
三宅裕志(2014)、クラゲの不思議: 全身が脳になる? 謎の浮遊生命体、誠文堂新光社