フェンダー“ゴジラ・ギター”のマスター・ビルダーが製作秘話を語る!
去る10月11日(土)から13日(月・祝)にかけて、東京は原宿・表参道エリアで催されたフェンダー主催の体験型イベント“FENDER EXPERIENCE 2025”。期間中は表参道ヒルズ、ラフォーレミュージアム原宿、Fender Flagship Tokyoにてフェンダー製ギター/ベースの展示、豪華アーティストによるライヴ、トーク・セッション、マスター・ビルダーによるワークショップなどが行なわれ大盛況を博したことは、テレビやSNSといったメディアを通してご存知の方も多いだろう。そして、そこから発信された数あるトピックの中でもとりわけ話題となっていたのが、生誕70年を迎えた日本が誇るモンスター、ゴジラとフェンダーのコラボレーション・ギターだ。ボディの両面に精巧なゴジラのグラフィックが施され、スイッチを押すと“あの”咆哮が飛び出すという珠玉の逸品。手掛けたのは、2021年にフェンダー・カスタムショップのマスタービルダーに就任したアンディ・ヒックス氏で、聞けば日頃からHR/HMを愛聴し、クラフツマンとしてはデイヴ・マーレイ(アイアン・メイデン)のギターを製作するなど、なにかとYG読者との親和性も高そうな人物。…というわけで早速、来日中の彼を捕まえ、ゴジラ・ギター製作の経緯やキャリアについて訊いてみることにした。
咆哮なしにあのギターは完成しないと考えていた
YG:日本は初めてですか?
アンディ・ヒックス(以下AH):いえ、2回目です。初めて来たのは15年前で、2日間しか滞在しませんでした。ですから実質、今回が初来日のような気分ですね。日本の文化や食事、音楽を楽しむことができています。
YG:すでにSNSなどでも、ゴジラ・ギターが話題になっていますが…。
AH:(笑)ありがとうございます。
YG:あのギターを製作することになった経緯は?
AH:日本のフェンダー・チームはストラトキャスター70周年を機に、すでに(ゴジラの配給会社である)東宝とコラボレーションを協議していました。そして1年前、アメリカのコロナで働く私達の素晴らしいチームの元に、新しいカスタムショップ製のギターのオーダーが届きました。それがゴジラ・ギターです。そして、常々私は夕食の席で自分が日本の文化、特にゴジラやアニメ、漫画がどれだけ好きかを熱弁していたので、それが高じて私がゴジラ・ギターを製作することになったんです。
YG:グラフィックが光ったり、音が出たりするアイデアはあなたが?
AH:はい。クールでしたね、日本のフェンダーと東宝は私に制限を設けず、好きなようにゴジラの要素を使わせてくれたんですから。だからある意味、このギターは私自身のために作ったようなものです。私は想像力を膨らませて、70年にもわたるゴジラの歴史を祝いたかった。それで(ギターの)背面には、70年の間に出てきた7種のゴジラがすべてフィーチュアされているんです。一方、前面はモノクロのオリジナル映画にトリビュートを込めています。ゴジラ映画の歴史の中で、あれほど象徴的なものはありません。まるでライトセーバーのスイッチが入った瞬間のようです。だからゴジラの咆哮をアンプから出すことは製作の中でマストだったし、あの声なしにこのギターは完成しないと思いました。寛容にも、東宝はゴジラのオリジナルの音声データを提供してくれました。あのサウンドボードがフェンダーのギターに組み込まれたことは、これまでにありませんでした。このギターのために新たに開発された機構だと言えます。
YG:グラフィックはL.A.在住のアーティスト、トム・ニーリー氏が手掛けたそうですね。
AH:はい。彼はコミック・アーティストで、私はしばらく彼の活動をフォローしていたんです。彼の大ファンであり、また彼もゴジラが大好きだと知っていたので、コラボレート相手として選ぶには申し分のない相手でした。このギター製作が私達を繋ぐラブレターのようなものになったのではないかと思います。
Fender Custom Shop : Limited Edition Masterbuilt Godzilla Stratocaster
初代ゴジラが放射熱線を吐く様子をあしらったボディ・トップ。
ボディ・バックには色とりどりの歴代ゴジラが描かれている。
ハードテイルかフロイドローズか…選べない!
YG:さて、今回がYG初登場となるので、あなたの経歴を訊かせていただきたいのですが、そもそも11歳の時に初めて手にしたギターがストラトキャスターだったとか?
AH:はい。当時の私は音楽の大好きな幼い少年で、11歳でニルヴァーナを知り、フェンダーのギターを弾きたくなりました。カート・コバーンが使っていたからです。本当に自分が好きになったバンドはあれが初めてでした。それ以来、私はフェンダーが大好きになりました。元々ギターは即座に好きになった楽器ですが、フェンダーはその中でも特別なものです。最初に私の頭の中に響いたギター・サウンドが、私自身と真に共鳴し合ったからです。
YG:10代の頃はニルヴァーナの他に、メタリカ、ブラック・サバスなども好きだったそうですね?
AH:ええ、サバスは父親が大好きで、私に聴かせてくれました。本当に大好きで、トニー・アイオミはフェイヴァリットの1人です。
YG:そんないち音楽ファンだったあなたが、ギター製作を始めたきっかけは?
AH:ギター製作の仕事をする前から、私は自分のギターをカスタマイズしていました。そして、それを見ていた私の妻が、ハリウッドでギター製作を学べる学校を見つけてくれたんです。当時キャリア転向を考えていた私は入学し、卒業後に(フェンダー傘下の)ジャクソンのカスタム・ショップに入社しました。そして、グレッチのシニア・マスタービルダー、ステファン・スターンに5年間師事したのち、自分には新たな挑戦が必要だと考え、フェンダーを離れてジェイムス・タイラーの下で働くようになりました。その時点で工場のリーダーとして運営を務めていたのですが、ここでもジェイムズに弟子入りしました。彼の元で働けたことは素晴らしかったです。彼は日本のマーケットに深い理解を示しており、日本でもとても人気のあるブランドでした。その時期をしばらく過ごした後、フェンダーから「戻ってきてマスター・ビルダーをやらないか」という連絡を受けたのです。それから今まで、4年になります。
YG:フェンダーから声をかけられた時の心境はいかがでしたか?
AH:夢が叶ったようでした。常にここで働きたいと思っていましたし、心の中で「いつかは…」と願っていた仕事でしたから。電話を貰ってから初日の出勤までの旅路は、家に呼び戻されたような気分でしたね(笑)。
YG:先日、GLAYのHISASHIさんがあなたにギターをオーダーする様子を見させていただきましたが、彼が依頼したのはハムバッカーを2基搭載したHR/HM志向のストラトキャスターでしたね。マスタービルダーの中でも、あなたは比較的そういったタイプのギター製作を請け負うことが多いのでしょうか?
AH:そういうわけでもありません。私の経歴の背景を見て私に依頼するヘヴィな音楽をやる人も確かに多いです。デイヴ・マーレイのギターを手掛けることになったのも、それが理由でした。それらの仕事が私の評価に繋がったのは確かですが、ヴィンテージ・コレクター向けのギターを作ることもあります。ですから偏らせるつもりはありません。ただジャクソン、EVH、シャーベルでの経験がある私には、そういったジャンルが好きな人から“スーパー・ストラト”を作ってほしいと言われがちなところはありますね。
YG:あなたが自分の理想のギターを1本作るとしたら、どんなギターになりますか? やはりハムバッカーが載ったものでしょうか?
AH:多分どんなものでも作れると思います。マッシュアップみたいなものになりますね、フェンダーのあらゆるところが好きなので。私のお気に入りのフェンダーのボディは1957年製のストラトキャスターのものです。最先端でファストな感じを受けます。ネック・シェイプは1960年代のCが気に入っていて、このネックと相性の良いスペックを生み出すことができました。ジャーニーのニール・ショーンなども、このシェイプのネックを使っています。だから、このネックと’57年型のボディを使って、2本モデルを作りたいです。というのも、ハードテイルとフロイドローズ、どちらかを選ぶのは非常に難しいので(笑)。ハードテイルのストラトはよりトラディショナルな印象があって、個人的に好きですね。もっと愛されていいスペックだと思います。そしてもう1つはやはりスーパー・ストラト。ハムバッカーにフロイドローズ・トレモロ搭載ですよ!(笑) ハードテイルの方には、ホセフィーナ(カンポス)の手掛けた“’60/’63”ピックアップを載せます。これもお気に入りなんです。
功績への敬意と新たな試みのバランスを重視
YG:現在フェンダーのマスター・ビルダーは12名いらっしゃいますが、その中でも自分はこういう部分が得意だというところはありますか?
AH:私が他の人と少し違うのは、私はフェンダー系列のあらゆるカスタムショップに籍を置いてきたことです。フェンダーの前にはジャクソン、シャーベル…というか、ジャクソンに入るとシャーベルもEVHも手掛けるようになります。それから、グレッチもカスタムショップでした。フェンダー傘下の全ブランドにおけるカスタムショップに弟子入りしていました。そのケースを経て(フェンダー・カスタムショップの)マスター・ビルダーになったのは私だけです。さらに、ジム(ジェイムス・タイラー)のようなブティック・ビルダーの元で働いたという社外での経験もあります。ネックに関しては、マイク・シャノン、チップ・エリス、ステファン・スターンからちょっとしたコツを学びました。それぞれが、自分がとても気に入っているネック作業を行なっています。ジェイムス・タイラーはとてもユニークなネックや指板を作っています。そういったすべての中から、私が好きな部分を集めて作っているので、これらブランドの経験の蓄積が私の作るネックに反映されていると思いますし、そこを誇りに感じています。顧客が私のギターを手に取った時、すぐには何も感じないでしょう。何故なら、そのネックは既にその人の一部のように馴染み、とても弾きやすく作られているからです。
YG:色々なブランドを経験されてきたあなたから見て、フェンダーならではの特色はどういったところにあると思いますか?
AH:そうですね…、フェンダーはすべての発端となったブランドです。他のブランドでギターを作る時は、フェンダーによって築かれた基本を元に作っていきます。すべてがレオ(フェンダー)が初めて開発したテレキャスターやストラトキャスターの再解釈と言えます。この2つのモデルは完璧で、誰もがこれに似たモデルを欲しがっています。そんな中、真のテレキャスターやストラトキャスターを作ることができるのはフェンダーのみです。他のブランドが手掛けている様々なヴァリエーションも好きですが、結局はフェンダーとその遺産を追いかけているに過ぎません。
YG:フェンダーの一員である今、フェンダー製ギターを作る上で欠かせないこだわりはありますか?
AH:フェンダーがどんな風に変わっていくかは重要ですが、同時にフェンダーの魂やDNAを保ち続けたいと思う面もあります。ですから、ゴジラ・ギターのようなプロジェクトに携わる時も、ストラトキャスターとしてはありふれたものになりますが、それでも特定のパーツはいかにもストラトらしいものにしておきたいと思います。特に今回は、生誕記念でもありますしね。NAMMショウなど特別なイベントのためにギターを作る時、フェンダーでやったことのないようなことを盛り込む時は、究極的にはフェンダーらしさを感じられつつも、できるだけ境界線を広げようとしています。それも結構綱渡りではありますけど(笑)、私達ができることに限りはありません。とはいえ、フェンダーのレガシーは守るに値すると、私は考えています。過去の功績への敬意と新たな試みのバランスを常に見ている感じですね。
ゴジラ コラボレーション・モデル公式インフォメーション
Fender | Godzilla 70th Anniversary Collaboration Collection
公式インフォメーション:フェンダー公式サイト | エレキギター、ベース、アンプの世界的ブランド – Fender
(ヤング・ギター編集部)