“狩る者”から“生きる者”へ――誇りを取り戻す戦いが今、はじまる『プレデター:バッドランド』レビュー
これまで、誇り高き戦士であり“狩る者”として描かれてきた『プレデター』シリーズ。その待望の最新作『プレデター:バッドランド』は、“新章”とうたわれるに相応しい作品です。監督ダン・トラクテンバーグが「プレデターを初めて“狩る側ではなく生きる側”から描く」ことを目指した本作は、シリーズの価値観そのものを更新しています。
物語は、若きプレデター・デクが一族から「弱い」と見なされ、宇宙でもっとも危険な地〈バッドランド〉に追放されることから始まります。誇りと生存、そして未知の存在との絆を描くサバイバルアクション。ファン待望の最新作が掲げるテーマは“共感と誇りの再生”。果たして、今回はどんな戦いが繰り広げられるのか――本作の見どころをレビューします。
弱さと誇りを描く――若きプレデター・デクの成長譚
主人公デクは、誇り高き戦闘種族ヤウージャ族の若者。兄や父から「弱い」と見なされた彼は、一族を追放され宇宙でもっとも危険な地〈バッドランド〉に放り込まれます。兄に“怒りをコントロールできない”ことを指摘される場面が、後の戦いで彼の成長を象徴する伏線として効いていました。
本作は、“弱さ”を否定する従来のプレデター像から一歩踏み込み、「弱さこそが成長の始まり」として描きます。〈バッドランド〉での序盤の戦闘シーンでは、感情に左右され戦い方の未熟さが目立っていたデクですが、ティアとの出会いにより戦い方が変化していきます。戦うことでしか自分を証明できなかったデクが、痛みと理解を通して“本当の強さ”を見つけていく――そこに物語の人間的な深みがあります。
アンドロイド・ティアとの絆が生む“共感の物語”
デクと行動を共にするのは、上半身だけの女性アンドロイド・ティア。ウェイランド・ユタニ社製の感情を持つアンドロイドで、感情を“弱さ”と考えるデクとは正反対の存在です。ティアが感情を与えられたのは生き物とふれあい、理解をするため。その感情がデクとの関係に変化をもたらします。最初は利害の一致で手を組みますが、過酷な環境を共に生き抜くうちに、ティアの共感や優しさがデクの心を変えていきます。やがてデクは「狩るために戦う」存在から、「誰かと生きるために戦う」存在へと変化します。エル・ファニングの演技も印象的で、上半身だけという制約を感じさせない豊かな表情が印象に残ります。
圧倒的な臨場感――進化したアクションと映像世界
バッドランドでの戦闘は、宇宙で最も危険な地にふさわしい緊張感に満ちています。
撮影監督ジェフ・カッターによるダイナミックなカメラと、世界トップクラスのスタジオWETAのVTX(視覚効果)が融合し、実写と区別がつかないほどリアルに伝わります。
ここで特筆すべきは、戦い方の多様さです。シリーズおなじみの高い技術力を誇る武器も登場しますが、今回はそれに頼るだけではありません。バッドランドの過酷な環境を活かした戦術や、現地の生物・植物を利用した工夫など、プレデターの知性を感じさせる戦い方が描かれています。
デクが仲間との絆を経て見せる後半の戦闘では、単なる力比べではない“考えて戦うプレデター”の姿が印象的でした。特に“バッドランドの生物たち”との戦いは圧巻で、獲物として狙われる恐怖と戦士としての誇りが同時に押し寄せる迫力のシーンでした。アクションの連続にもかかわらず、ひとつひとつの動きが物語と感情に結びついており、単なるバトルではなく“生きるための戦い”として感じられるのが本作の強みです。
シリーズのDNAを継ぐ“新しい始まり”
『エイリアン』シリーズを知る人にはおなじみの巨大企業、ウェイランド・ユタニ社の登場やアンドロイドの存在など、世界観の繋がりがさりげなく散りばめられています。
ファンにとっては嬉しい発見がある一方で、シリーズを知らなくても問題なく楽しめる構成。そして本作で最も印象的なのは、「勝利とは何か」を問い直す点です。
ただ敵を倒すことではなく、共に生き、守るものを見つけることこそが真の強さ。そのメッセージが、プレデターというキャラクターを“再定義”するにふさわしい結末へと導きます。
映画『プレデター:バッドランド』作品情報
■キャスト
エル・ファニング(ティア)
ディミトリウス・シュスター・コロアマタンギ (デク)
■スタッフ
監督:ダン・トラクテンバーグ
製作:ジョン・デイヴィス、ブレント・オコナー
ベン・ローゼンブラット
脚本:パトリック・アイソン
撮影:ジェフ・カッター
プロダクションデザイナー:ラ・ヴィンセント
■公開日:2025年11月7日(金)
■公式HP:https://www.20thcenturystudios.jp/movies/predator-badlands