和田雅成×崎山つばさ “同じ人を好きになってしまったら?”「相手に任せる」「何としても気を惹く」白井晃演出でギリシャ神話の世界に
和田雅成さんと崎山つばささんが恋愛観を明かしました。
アメリカの人気劇作家、サラ・ルールさんによる戯曲「エウリディケ」の日本初演に出演する和田さんと崎山さん。
ギリシャ神話を現代に置き換えた、せつなく美しいラブストーリーで、和田さんはヒロインのエウリディケを一途に愛するオルフェ、崎山さんは、エウリディケの結婚式当日に彼女を見初める「危険でおもしろい男」と、突然、姿を消したエウリディケを探しに来たオルフェと出会う「地下の国の王」に扮します。
これまで舞台や映像作品で共演してきた二人が意外な関係性で絡む心境や、緻密な計算で唯一無二の世界を築く白井晃さんの演出を受ける心構えなどをインタビュー。
さらに、恋愛に関する質問にもストレートに答えてもらいました。
<和田雅成×崎山つばさ インタビュー>
――和田さんと崎山さんといえば、ドラマから舞台化もされた『あいつが上手で下手が僕で』(日本テレビ)で、芸人コンビ・わらビーを演じた間柄ですね。
和田:ハハハ(笑)、ありがとうございます。
崎山:今日はわらビーとしての取材でしょ?
――そんな二人が今作では恋敵に扮するそうで…。
和田:恋敵であるかどうかも正直、わかっていなくて。どちらかというと、エウリディケ(水嶋凜)とオルフェ、エウリディケの父親(栗原英雄)の三角関係に、僕には見える。その中で「危険でおもしろい男」がスパイスになり、物語が広がっていくという。
崎山:僕もそうですね。僕が演じる役柄は、エウリディケがオルフェという人物と結婚しているという事実は知っているけど、エウリディケを奪ってやろうというより、彼女が魅力的だから近づきたい、話したいという気持ちのほうが強い。
僕はこの「エウリディケ」という作品が純愛の物語だと思っていて、そこには父と娘の愛もあれば、オルフェとエウリディケのラブストーリーでもある。さらに、一方通行な愛だとしても、「危険でおもしろい男」にとってもラブストーリーなわけで、彼なりの純愛をきちんと演じたいと思っています。
――作品はエウリディケとオルフェの仲睦まじい場面からスタートしますが、和田さんのそんな姿は新鮮に感じます。
和田:そういうシーンを演じるときって、役者間ではまだ微妙な距離感だったりするんですけど、ハグをするシーンでも僕らがやりやすいように、白井さんが「グッとやって」と演出をつけてくださるので、稽古初日から気を使わずに演じることができています。
エウリディケとオルフェが重ねてきた年月を説明するような場面はありませんが、僕たちが稽古期間で積み上げてきたものはそのまま舞台上に出ると思うので、ラブシーンを演じるというより、愛し合う二人にとって当たり前の行為に見えたらいいですね。
――そんな様子を崎山さんはどう見ていますか?
崎山:(顔の前に手を置き、指の隙間から覗くように)こういう感じですよね(笑)。
身体的な距離が近いから二人が恋人同士に見えるというのではなく、どれぐらいの年月を共に過ごし、その間には想定外の出来事があって、そこを乗り越えてきたからカップルに見える。そういう次元にいくんだろうなと思いながら、僕は眺めています。
台本には「ここで抱き合う」と書いてあっても、稽古を進める中でそれ以外のシーンでもごく自然と抱き合う場面なども出てくるのではないでしょうか。
雅成も言っていましたけど、最初の取っ掛かりが今回はとても早く、二人の間で生まれたものが舞台上で表現されると思うので、僕としてはそこを壊すつもりで臨みたいです。
和田雅成 音楽人を演じるため「感情をのせたメロディ」を意識
――台本を読んだ感想を聞かせてください。
和田:かなり早い段階で台本をいただきましたが、1回読んだだけでは、理解できなかったというのが率直な感想です。ほぼセリフが入っている状態で本読みの日を迎えたんですけど、その状態だったからこそ、皆さんの声がスッと入ってきて。
自分が読んでいるときの印象と、実際にキャストの声で聞く印象がまったく違っていて、「美しいな」というのが第一印象でしたね。
崎山:自分が演じる役柄どうこうより、オルフェやエウリディケの目線でどんどん惹き込まれていって、小説のようであり、絵本のようでもある世界観に瞬時に吸い込まれました。
――演じる役の印象はいかがでしたか?
和田:オルフェって、すべての事柄が音楽でできているんです。例えば、恋人であるエウリディケと会話をしているときも自分の中では音楽が流れ、メロディを奏でている。
もちろん、エウリディケのことは心から愛しているけれど、同時に音楽も大切なものとして自分の中に存在している。本当に“音楽の人”なんですよね。
「感情をのせたメロディってどういうものなんだろう?今、僕が抱えている感情はどんなメロディなんだろう?」というのを、常に意識しながら稽古をしています。
――白井さんからはどんなアドバイスがありましたか?
和田:「和田くんから生まれてくるものでいい」と言われました。その年代の人を生きようとするのではなく、現代を生きる自分たちの生き方でいいと。
例えるなら、1950年代あたりにおじいちゃんやおばあちゃんが着ていた服を引っ張り出して、現代の子たちが着ているみたいな感覚。
ギリシャ神話をもとにしたお話ですが、神話の時代ではなく、等身大の自分の心情に似たものを自分の中から引き出している感じ。自分の中にない場合は、新たに生み出せばいいと。
――崎山さんが演じるのは「危険でおもしろい男」と「地下の国の王」ですね。
崎山:危険でおもしろい男…。
和田:いい役名ですね(笑)。
崎山:名前ではない役柄を演じるのは、幼稚園でやった小人役以来です(笑)。「何をもって危険とするか、何をもっておもしろいとするか」を求められている気がします。
白井さんもおっしゃっていたんですけど、例えば、せつないシーンでせつない音楽を流すより、激しい音楽が流れているほうがよりせつなく感じるとか、そういうことなのかなって。
ギリシャ神話でのエウリディケは追手から逃げる最中、蛇に噛まれて死んでしまいますが、今回の作品にそのような描写はないので、僕が蛇になる瞬間があるのかもしれないし、逆に蛇を見つけて、エウリディケを助けようとしていたのかもしれない。
いろいろな解釈ができるので、稽古を重ねながら変わっていく部分、見えてくるものもあるのではないかと思って臨んでいます。
一方の「地下の国の王」はまったく想像できないんですよ。自分なりにこうしようという考えはあっても、白井さんの演出とどう合致するかわからないので。台本のト書きには「三輪車に乗っている」や「身長が3m」あると書いてあるんですけど、3mかぁ~って(苦笑)。
和田:つばさくんはいけるタイプだもんね(笑)。
崎山:お相撲さんが新弟子検査のとき、微妙に身長が足りなくて、頭にシリコンを入れてパスするケースがあるけれども、それで3m…。
和田:2m50cmまではやったことがあるもんね。いけるな(笑)。
崎山:やりようは、いくらでもあるのかな。演劇だから、3mあるように見えるっていう表現もあるじゃないですか。いろいろチャレンジして、見つけていきたいと思います。
“白井晃めない(諦めない)”演出から演劇の可能性を学んだ
――和田さんは白井さんの演出を初めてうけるにあたって、どのような心持ちでしたか?
和田:まわりの方から「すごい、すごい」という評判を聞いていましたし、以前からご一緒してみたかった方というのもありますが、大谷翔平選手の言葉じゃないですけど「憧れるのをやめましょう」という心境です。
「この人はすごい人なんだ」と考えてしまうと、萎縮しちゃうんですよ。同じ作品に携わる方ですし、これまでご一緒してきた多くの演出家さんと同じ心境でぶつかりたいなと。
相手が白井さんだから自分の意見を言わないなんてことはありませんし、思うことがあればきちんとお伝えし、疑問があったら尋ねる。構え過ぎずに向き合いたいです。
――崎山さんは「サンソン―ルイ16世の首を刎ねた男-」(2023年)で白井演出を経験していますね。
白井さんって、本番に入っても稽古期間のような熱量で作品に向き合われる方なんです。だから、こちらもその熱量に応えたいと思いますし、そう思わせてくださる方。
「サンソン」では、我々若手俳優を対象に、足の先から頭まで神経を研ぎ澄ませるような歩き方や歩幅のとり方などの稽古をやったんです。そこまで教えてくださる方ってなかなかいないですよね。
本番が始まってもまだまだ表現を突きつめることができるという、演劇の可能性を教えていただきました。
――実際に稽古に入り、どのようなことを感じていますか?
和田:稽古期間が結構長いということもあって、トライ&エラー以上のことをやっています。大体の稽古って、出ハケ(舞台に登場することや退場すること)やミザンス(全体の配置)というものがあって、最後までざっくりと設定してからシーンを色濃くしていくのですが、今回はその日の最後にすべてをゼロにするんです。
そうしたうえで、「自分が動きたくなったら、どこへ動いてもいい」とエチュード(即興劇)みたいにやり、「OK!そのエネルギーがいいから今日はそれを持ち帰って」と進んでいく。
白井さんは動きよりも心情を大切にされる方なので、一瞬でも気が抜けた瞬間を見逃さない。初っ端からトップスピードで来てくださることがありがたいし、役に寄りそえば寄りそうほど深くなっていくので、今後どうなるのか自分でも楽しみです。
崎山:これはいい意味での表現ですよ。栗原さんが稽古場でおっしゃったのですが、「白井晃のあとには“めない”がついて、『白井諦めない』になる」と。
本当にその通りで、初めてご一緒した「サンソン」もそうでしたし、今作でも、ずっと作品や役のことを考えていらして、例えば、横に使っていたものを「今度は縦にしてみよう」と視点を変えてみたり、一旦出来上がったものを壊して違うものにしてみたり、その先に何があるのかをずっと追求なさっている。
当然、時間はかかりますけど、そのぶん、より強固になるといいますか、作品に深みが加わっていく。体力的にも精神的にもエネルギーは消耗しますが、そこで生まれるものをもっといいものにしようという熱意を感じます。
和田雅成 崎山つばさの稽古好きは「才能だと思う」
――ストーリーにからめての質問ですが、同じ人を好きになってしまったらどうしますか?
和田:相手に任せるしかないんじゃないですか。例えば、つばさくんがその子にアタックして、相手もつばさくんのことを好きになったのであれば、もうそれがすべて。僕のほうから押しまくるようなことはないと思います。
崎山:相手の性格にもよるんでしょうけど、僕は負けず嫌いなのでグイグイいっちゃうかもしれない。例えば、その子が「猫が好き」って言ったら、雅成は猫を飼っているから、そこで明らかに僕の負けとなるけれども…。
和田:僕の良さは、猫を飼っていることなんだ(笑)。
崎山:そしたら、僕も猫を飼って、何としてでも相手の気を惹こうとします。
和田:今はそういう人のほうが求められているのかも。
――恋愛においてはリードしたいですか?されたいですか?
和田:どちらがリードするとかしないとか、その概念はないですね。どちらかが手綱を握っちゃうと、いつかしんどくなるときが来ると思うんですよ。向こうが「リードしてほしい」というのならそうしますし、「リードしたい」というのならそうするかな。(崎山に向かって)100%リードするでしょ?
崎山:ハハハ(笑)。そうですね。相手のタイプにもよりますけど、僕は髪型とかも変えてほしくなっちゃうんです。
和田:へーっ。
崎山:僕も変えるし、相手に対しても「短いのも見てみたいなぁ」と言ってしまう。ちょうどいい言葉が見つからないんですけど、そんなタイプですね。
――今作では劇中、手紙がキーアイテムとして登場しますが、手紙にまつわるエピソードがあれば聞かせてください。
和田:大阪から上京したばかりのころ、母がお米などを送ってくれていたんですけど、そこに僕の体を気遣った内容の手紙が必ず添えられていて、それは今も大事にとってあります。
もちろん、作品を観ていただいた方や応援してくださる皆さんからいただく手紙も大事ですが、家族は特別な存在なので。
崎山:雅成とはちょっと違う話になってしまうのですが、一人暮らしを始めたころに実家から小包が届いて…。
和田:もう(オチが)見えたよ(笑)。
崎山:母親からの手紙が同封されていたのですが…。
和田:まだ続きがあった。ごめん、止めちゃいけなかった。
崎山:直筆の手紙はとっても大事なもので…。
和田:同じだよ!
崎山:あ、同じだった?「以下同文」って書いてください(笑)。
――今回の共演で気づいた、互いの新たな魅力はありますか?
和田:難しいな。
崎山:10個言って。
和田:顔がいい。
崎山:ビジュアルかよ!
和田:つばさくんって本当に稽古が好きなんだと実感しました。「稽古が好き」という言葉が合っているのかわからないけれど、そこに向き合う時間が長かろうがまったく苦じゃないんだなって。
それって役者にとってすごく必要な才能だと僕は思っていて、「ここはどうしたらいいですか?何時になってもいいのでやってください」と白井さんにお願いしている姿を、「この才能はすごい」と思いながら見ています。
崎山:雅成とは以前にも共演経験があって、そこでは作品について話し合う時間もありましたが、ここまでガッツリ話し合う機会をもつのも初めてのことなので、熱い演劇の話とか、彼がイヤだなと思っているときでもやりたいなって(笑)。
和田:イヤだとか全然思っていないし(笑)。
崎山:しつこいなって?
和田:思わない、思わない。「あのシーンなんだけどさ」という話をどんどんしたいです。そうして迎える本番が楽しみですね。
撮影:河井彩美
<和田雅成&崎山つばさ メッセージ>
エウリディケ
【東京公演】2月4日~18日/世田谷パブリックシアター
【大阪公演】2月24日、25日/梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ