「ポルノか、芸術か」なぜ19歳の女優が“わいせつ罪”で懲役を宣告された?『タンゴの後で』涙の本編映像
“あのシーン”が人生を変えた――『タンゴの後で』
19歳で出演した1本の映画で人生が大きく変わってしまった女優マリア・シュナイダーの人生を描く『タンゴの後で』が、9月5日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開。
このたび、70年代に「ポルノか? 芸術か?」と一大論争を巻き起こした主演映画の公開後に、マリアが抱える苦しみを父親に吐露するシーンの本編映像が解禁された。
『ラストタンゴ・イン・パリ』は、なぜ“わいせつ罪”を宣告されたのか
イタリア映画において最高の名誉とされるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で作品賞を受賞した『暗殺の森』(1971)の次回作として、当時31歳のベルナルド・ベルトルッチ監督が発表したのが『ラストタンゴ・イン・パリ』。
時代の寵児となったイタリア人監督の奇抜で官能的な問題作として撮影段階から注目を集めていたが、じつは試写会で初上映されたときジャン=リュック・ゴダールは10分で激怒して劇場を出ていってしまったという。
【R-18】として公開されたことで『ラストタンゴ・イン・パリ』は人々の関心をさらに引き付けたが、瞬く間に一大スキャンダルを巻き起こし、イタリアでの裁判では“わいせつ罪”で監督とブランド、マリアに執行猶予付きの有罪判決が下されてしまう。人々はこの映画の話題に夢中になり、芸術家や政治家を巻き込んでの論争が繰り広げられたのだった。
「あなたは女性の恥よ」冷たい言葉を吐きかけられたマリアの涙
このたび解禁となった本編映像は、そんな『ラストタンゴ・イン・パリ』の公開後に巻き起こったスキャンダルと、イタリアでの裁判の結果をどう受け止めてよいのか分からないマリアが、俳優の父にその思いを訴えるシーン。暗い表情を浮かべる娘と向き合っている父(イヴァン・アタル)は、何も知らないかのように「どうした? 何かあった?」と聞く。
その態度に困惑を隠せないマリアは、「イタリアで訴訟になって有罪判決が出たの。映画は上映禁止。監督とブランドと私は懲役刑となったのよ。わいせつ罪よ」と涙ながらに話す。
「気にしなくていい。心配ない」と慰める父に、「どうして私が! 監督でも、脚本家でもない。監督とブランドは逃げた。私だけ残され、記者の餌食になっている」と涙ながらに理不尽な状況を訴えるマリア。
しかし、まるで他人事のように「“好評も悪評も宣伝のうち”。有名になれたんだ。たった一つの役でだ。チャンスだぞ。私の時には苦労した」と、女優への道を切り開いてくれた最愛の父は、娘マリアの苦しみを理解することはない。
そして、とどめを刺すように、通りすがりの年配の女性が「あなたは女性の恥よ」と言い捨て、冷酷な視線をマリアに突き刺していく――。
「”視線”は人を傷つける。そんな破壊的な影響を描きたかった」
『ラストタンゴ・イン・パリ』公開後のマリアを描くことについて、ジェシカ・パルー監督はこう語っている。
この映画のプロモーションが始まると、マリアの存在は“たった一つのシーン”に集約されてしまい、世界中の視線が彼女を「娼婦」のように見なしたのです。
彼女への視線は、あまりにも病的でした。”視線”は人を傷つけるものです。それは、どんなに強い人間でも耐えられるものではありません。私が描きたかったのは、その破壊的な影響です。
マリアは生涯にわたって、愛と尊厳を切望していました。しかし、彼女はそれを見つけることができなかった。ただ一人の女性の存在以外は――。
大きなトラウマで自暴自棄になるほど傷ついたマリアが、のちに出会うことになる女性の存在も明らかにされる『タンゴの後で』は、9月5日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。