【鎌倉 イベントレポ】鎌倉アップデートアカデミアvol.4 - 松尾崇市長×森澤恭子区長「市長・区長の仕事」って?わたしにもできる?を考える」
「市長・区長の仕事」って?わたしにもできる?を考える」
2025年8月30日(土)、江ノ電長谷駅から徒歩2分のオルタナティブスペース「古民家ゆりいか」にて「鎌倉アップデートアカデミア vol.4」が開催されました。
古民家ゆりいか
鎌倉市議会議員・藤本あさこさんが主宰する「鎌倉アップデートチャレンジ」と、古民家ゆりいかの共催による当イベントは、鎌倉市民の意識や知見をアップデートすることを目的に開催されており、今回で通算5回目を迎えます。
今回のテーマは「市長・区長の仕事って?わたしにもできる?を考える」。
鎌倉市長の松尾崇さん、品川区長の森澤恭子さん(オンライン登壇)をゲストに迎え、市長、区長の仕事に関する質問を交えて「自分が首長ならどうするか?自分にもこの仕事はできるのか?」を話し合いました。
鎌倉市議会議員:藤本あさこさん
まず最初に、藤本あさこさんが今回のテーマについての趣旨を述べました。
「私たちは、議員や首長の仕事を十分に知らないまま、候補者を選び、意見や批判をしてしまうことがある。それぞれの立場と役割があり、その違いを理解したうえで『こうしてほしい』と求めることが大切。政治家は国籍と年齢の条件さえ満たせば誰でも立候補できるため、市民が候補者を正しく理解し、見極める必要がある。今日は、想像以上に大変な首長の仕事を『自分だったらどうするか』という視点で考えてもらいたい。」
松尾市長が政治家を志したきっかけ
イベントは松尾市長の自己紹介からスタート。地元・鎌倉で生まれ育った松尾市長が、政治に関わるようになったきっかけを語ってくれました。
鎌倉市長:松尾崇さん
「政治に関心を持ったのは社会人になってから。元々は政治に関心がなく、退屈な社会人生活を送っていた。転機となったのは、江田憲司氏(現衆議院議員・当時の橋本龍太郎首相の秘書官)の著書との出会い。国の改革に挑みながらも失敗に終わった経験が赤裸々に綴られ、その中で『改革の失敗は政治家だけでなく、国民一人ひとりの意識にも原因がある』という指摘に胸を打たれた」と振り返ります。
「自分の見方が変われば社会も変わる」という政治の可能性に惹かれ、会社を退職して江田氏の選挙を手伝うため政治の道へ進んだ松尾市長。しがらみに満ちた現実を知る一方で、人々が一つになって挑む選挙の面白さを知り「世の中ってこんなに楽しいんだと気がついた」という松尾市長の言葉に、参加者は真剣に耳を傾けていました。
その後、2001年の鎌倉市議会議員選挙に出馬し、史上最年少でトップ当選。市議2期、県議1期を経て、2009年から鎌倉市長として「自分の手で社会を変えたい」という思いのもと、すべての人が安心して自分らしく暮らせる共生社会を目指して市政に取り組んでいます。
鎌倉市長にインタビュー -鎌倉市長 松尾崇の現在地2025年、鎌倉市政では次の選挙が予定されています。 鎌倉市議会議員選挙(2025年5月14日任期満了) 鎌倉市長選挙(2025年10月31日任期満了)市政への関心が高まりを見せると予想されるこの年。市議会議員選挙を前に、松尾崇(まつおたかし)市長に今の率直な心境と残任期間への取り組み姿勢について伺うため、2025年2月28日(金)、鎌倉市役所2階にある庁議室を訪れました。松尾市長にとって2025年は、鎌倉市長として歴代最長となる4期目を締めくくる年となります。 画像出典:湘南人なお、写真は2025年1月16日(木)に鎌倉生涯学習セ...
湘南人
オンラインで参加した森澤区長は、複数の民間企業での勤務を経て、2017年に政界入り。約5年間都議会議員として活動した後、2022年に品川区長に就任しました。就任からわずか2年で、中学校の制服や修学旅行の無償化、子育て世帯へのお米支援など、次々と子育て支援策を打ち出しており、スピード感のある政策実行で注目を集めています。
品川区長:森澤恭子さん
続いて参加者の自己紹介があり、それぞれの思いや背景を共有。子どもの誕生をきっかけに政治に関心を持った20代男性や地域貢献がしたいと参加した会社員、現職の区議会議員や大学生など、幅広い立場の人たちが集まりました。
本記事では、当イベントの参加者からの首長への質問と、それに対するお二人の回答をレポートします。
質問1 職員とのコミュニケーションで意識していることは?
多くの質問が寄せられた中、冒頭で取り上げられたのは、多くの参加者が関心を寄せていた「職員とのコミュニケーションマネジメント」について。
松尾市長は「一期目は上司や年上の職員と対立したこともあったが、今はさまざまな経験を経て、うまくコミュニケーションが取れるようになった。職員にはいろんなタイプの人がいるという前提で、相手の立場や状況を理解し、広い視野で関わることが円滑な関係づくりにつながる」と返答。
市長就任当初は、市民のためにやりたいことを早く実現したいという思いから、マニフェストの具現化を急ぎ、その結果、役所全体が指示待ちになって職員の主体性が損なわれてしまったそう。そこで方針を転換し、課題をオープンにして解決策を職員に委ねるスタイルへと移行しました。
「組織には、指示を待ちたい人もいれば、自ら動く人もいる。明確な答えはないが、同じ課やプロジェクトの中でどう役割を分担し、課題に取り組んでいくかが大切」と組織をまとめる上での心得を明かしました。
森澤区長は、「職員とは、解決すべき課題や公約の実行についての共通認識を持つようにしている。ウェルビーイングを感じられる品川を目指すという思いも共有している」と語ります。
「それぞれの立場や考えが異なるため、政策の意義や目的を理解してもらうには、繰り返し丁寧に伝える必要がある。任期の中で成果を出す責任があるからこそ、職員との対話がその都度重要になる」と日々のコミュニケーションの重要性を強調しました。
質問2 市長・区長と議員、一番の違いは?
松尾市長は「一番の違いは時間」と即答。
「議員の時は比較的自由があり、自分の興味や関心に沿って活動できた。一方、首長になると自由時間はほとんどなくなり、限られた時間で優先順位をつけて仕事をこなす必要がある。自分が休むと役所の仕事が遅れるため、出張や視察は、意思を持って早めに時間を空けるようにしておく」と、限られた時間の中で行政を運営する責任があると話します。
森澤区長「議員時代のように勉強のための視察に自由に出かけられなくなり、アップデートが難しくなった。首長になると関心があるだけでは動けないため、議員時代にやりたい政策などをある程度貯めておくことが大事。」
「働き方に対する考え方は首長によって大きく異なると思う。自治体ごとに体制も違い、私の場合は副区長にある程度業務を任せることで、意識的に休む時間を確保できている。どのような体制を敷くかは、方針によって変わるのでは」と述べ、自身は無理をしない働き方を重視し、自分の限界を理解しながらペースを調整していると答えました。
質問3 リーダーになるために、どのような経験が必要だと思いますか?
「組織マネジメントの経験はあったほうがいい。私は十分な経験がなかったため、一期目で苦労し失敗もした。人を動かしてこそ仕事は進むので、さまざまな経験を通じて世の中の仕組みや人の思い、苦しみを知ることが、意思決定や市長の仕事にも活きてくる」と松尾市長。
若い人がその経験を積むハードルが高いとの声には、「組織に身を置くという意味では、中学高校時代の部活などでリーダーとして人をまとめたり、問題に真剣に向き合って乗り越えた経験が役立つのでは」とアドバイスを送りました。
質問4 市民の思いと政策にギャップを感じることは?
松尾市長は、市民の思いと政策のギャップを感じる例として給食の無償化を挙げ、「一見よい政策に見えるものの、現在の給食費は低く抑えられ、栄養士の工夫で成り立っているのが現状。そのため無償化を優先すると、食の質向上に必要な予算が確保できなくなる」と指摘し、「短期的には無償化の前に給食内容の充実に予算をかけるべき」と述べました。
質問5 松尾市長が市民に求めることはありますか?
「今後大震災が来た場合、行政だけですべてを担うのは難しい。災害時の大混乱を防ぐため、市民一人ひとりができる備えを考えてほしい」と「自助・共助・公助」の重要性への理解を求めました。
質問6 政治家として人の前に立つことで、リスクを感じることは?
松尾市長「政治家として活動する中で、プライベートに影響が及ぶリスクは避けられない。選挙戦でネガティブキャンペーンが繰り返されることもあり、批判や攻撃を完全に防ぐことはできない。だからこそ、SNSも含めた対策をしっかり取り、家族も守る必要がある。一方で、メディアは良いニュースも取り上げてくれるため、プラスに働く面もある。」
質問7 市長の仕事をいつまでしたいですか?
「長く続けるメリットもデメリットもある。自分が気を付けていても考えや方向性が硬直化してしまう部分があり、それを減らして組織全体を良くしていきたいと思っている。若い人に先頭に立ってもらって、組織の新陳代謝を促したい気持ちと同時に、次の5期目に向けて取り組みたいことがある」松尾市長は、10月26日に実施される市長選で、5期目を目指し出馬することを表明しました。
質問8 社会を変える方法として、政治の道を選んだのはなぜですか?
松尾市長は「政治家という肩書きにこだわりはなく、鎌倉を良くする手段のひとつとして議員になり、のちに市長となった。市民からの情報や自分の描いていた政策を、意思決定できる立場で実現できるようになったのは大きい。特に子どもたちの学びや育ちをより充実させたいという思いが強く、その実現に向けて取り組んできた」と語りました。
森澤区長は「政治の大きな役割は、社会の制度や仕組みに直接携われること。どこを良くしたいかによって、政治を志す理由も変わってくる。もちろん、民間で社会を変えていく方法もあるが、民間で活動していても最後は行政が動かないと実現できない、だから議員になったという人も多い」と、政治の本質に言及。
「私自身、都議会議員の時には地域の子育てや福祉、まちづくり、教育など、さまざまな課題に向き合ってきたが、提案だけでは限界もあった。区長という立場になれば、予算を編成し、政策を実行に移し、人事にも関わることができる。そこに大きなやりがいを感じている」就任2年であらゆる改革を成し遂げてきた森澤区長ならではの返答に、参加者達は聞き入っていました。
質問9 首長としての仕事はどのように覚えましたか?
民間出身の森澤区長は「行政経験がなかったため、最初は仕事の流れやあるべき姿がわからない部分もあった。経験豊富な職員の力を借りつつ、学びながら仕事を進めているが、民間企業に比べて慣れるまでに時間がかかった」と、マニュアルのない区長という仕事の難しさに触れる一方で、政策面では都議時代に取り組んできた提案を区政に活かしており、経験を活かす形で仕事を進めているとも説明しました。
無所属で議員を務め、のちに首長となったお二人の言葉からは、政党に縛られず、自らの信念で政策を進める姿勢が表れ、社会をより良くしていきたいという強い思いが感じられました。
まとめ
普段はなかなか知ることのできない首長の仕事について、実際の経験や苦労話、政策決定のプロセスなどを聞くことができた「鎌倉アップデートアカデミアvol.4」。
「政治は市民なら誰でも参加できる。立候補できるなら挑戦してほしいし、難しければ誰か候補者をサポートしてほしい。それもできなければ、自分で見極めた候補者を責任を持って応援してほしい」と、藤本さんは普段から政治を自分ごとに捉えて、自らの考えを明確にしておくことの大切さを参加者に伝えました。
2025年10月に市長選挙を控えている鎌倉市。もしあなたが市長だったら、どんな鎌倉をつくりたいですか?
過去の「鎌倉アップデートアカデミア」Vol.0、Vol.1、Vol.2前編・後編、Vol.3の内容はこちらからご覧いただけます。
鎌倉アップデートアカデミアvol.4 -「市長・区長の仕事」って?わたしにもできる?を考える
開催日時
2025年8月30日 17:00〜18:30
開催場所
古民家ゆりいか
住所:〒248-0016 神奈川県鎌倉市長谷2丁目15-14
駐車場:なし ※近隣にコインパーキングあり
参加費
会場:2,500円(税込) 別途ワンドリンク代500円(税込)
主催
鎌倉アップデートチャレンジ
古民家ゆりいか